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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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勇気対ダウン

「それでは、次の試合に移ります!」


勇者募集試験の会場に、主審の声が響いた。


魔王軍は壁際に並んでいた。


父さん――牙城は、先ほどの試合で服がボロボロになっている。


それでも本人は元気そうだった。


「なかなか良い試合だった」


魔王が父さんを見る。


「父さん、服は大丈夫なの?」


「大丈夫だ」


「本当に?」


「メンタルは無傷だ」


「そこじゃないんだけど……あとで買いに行こう」


そのとき、主審が対戦表を確認した。


「次の試合!」


会場が静かになる。


「勇気選手と、ダウン選手!」


「頑張ってきます」


勇気が一歩前へ出た。


魔王軍が拍手する。


「頑張って!」


「勇気さん、お願いします!」


ゴプリンも、


「……勇気」


と応援した。


ところが。


魔王軍の何人かが首を傾げた。


「ダウンって何だろう?」


鍋が言った。


「名前からして寒そうですね」


便意が言った。


「ダウンジャケットを着てくるんじゃないですか?」


母さんが真剣に考える。


「寒いのかしら」


魔王が呟いた。


「冷え症、多くない?」


昆布が前の試合を思い出した。


「確かに、冷寒さんも寒がっていましたね」


魔王。


「勇者試験なのに、寒さ関係の人が二人も出てくるの?」


父さんが言った。


「次は暖房選手とか出てくるんじゃないか?」


「そんな選手いる?」


そんな話をしている間に、対戦相手が入ってきた。


「……あれ?」


魔王軍全員が首を傾げた。


そこに現れたのは――。


普通の男だった。


Tシャツ。


ジーンズ。


スニーカー。


髪型も普通。


特別な鎧もない。


魔法使いらしい杖もない。


魔王軍が一斉に言った。


「冷え症じゃないですね」


魔王も頷く。


「ダウンジャケットも着てない」


昆布が冷静に観察する。


「普通の男性ですね」


男は試合場の中央に立った。


「ダウンです」


勇気も前に出る。


「勇気です。よろしくお願いします」


二人が向かい合った。


主審が両者を見る。


「それでは……」


会場が静まる。


「試合開始!」


カン!


勇気が構えた。


ダウンも構えた。


しかし、勇気は少し気になった。


「……あの」


「はい?」


勇気が心配そうに言う。


「なんだか顔色悪いですね」


ダウンは少し笑った。


「大丈夫です」


「本当ですか?」


「今日に合わせて、絶好調にしてきました」


勇気はさらに困惑した。


「絶好調……?」


ダウンが一歩前に出た。


そして――。


「ダウン」


「……?」


勇気の体が少し重くなった。


「ん?」


目が少し眠くなる。


勇気は目をこすった。


「なんだろう……ちょっと眠い……」


壁際から魔王が叫ぶ。


「勇気、大丈夫?」


勇気は頭を振った。


「大丈夫です!」


そして自分の頬を両手で、


パン!


パン!


と叩いた。


「頑張るぞ!」


魔王が言った。


「気合いで眠気を飛ばした!」


勇気が拳を握る。


「まだまだ!」


ダウンは静かに言った。


「ダウン」


すると。


勇気の肩から力が抜けた。


「……あれ?」


腕が少し下がる。


「力が抜けるな」


ダウンは何度も繰り返す。


「ダウン」


「ダウン」


「ダウン」


「ダウン」


勇気の目が少しずつ重くなる。


「……頑張らないと……」


膝が少し曲がる。


壁際の勇者候補たちにも変化が出始めた。


「なんだ……?」


「体が……」


「力が入らない……」


一人。


また一人。


膝をついていく。


ドサッ。


ドサッ。


魔王軍がざわつく。


「広がってる!」


昆布が周囲を見る。


「勇気さんだけではありません」


魔王も驚く。


「壁際の人たちまで?」


ダウンは静かに立っている。


「ダウン」


また一言。


「ダウン」


さらに一言。


勇気の体がぐらついた。


「……!」


それでも勇気は踏ん張った。


「俺は……」


両手を握る。


「絶対負けない!」


魔王が叫ぶ。


「勇気!」


勇気は必死に立っている。


「俺は勇者になるために……!」


ダウンが一言。


「ダウン」


「うっ……」


勇気の膝がさらに曲がる。


主審も異変を感じ始めた。


「……?」


主審が自分の腕を動かす。


「……あれ?」


腕が重い。


「なんだ……」


主審の膝も少し震える。


「私まで……」


そして主審はダウンを見る。


「ダウン選手!」


「はい」


「それは何の能力ですか?」


ダウンは落ち着いて答えた。


「自分の力もダウンするけど、相手の力を大幅に削減する呪文です」


主審が目を見開く。


「自分の力も?」


「はい」


「自分も弱くなるの?」


「はい」


「それでも使うんですか?」


「はい」


ダウンは淡々としている。


魔王が呟いた。


「すごいな……」


昆布が頷く。


「自分まで弱くなる代わりに、広範囲の相手を大幅に弱体化させる」


魔王。


「つまり……」


昆布。


「はい」


魔王。


「本人も大変なんだ」


昆布。


「そういうことです」


便意が言った。


「ダウンさん、顔色悪かったですもんね」


魔王。


「絶好調にしてきたって言ってたけど……」


鍋。


「絶好調でこれですか?」


五利武。


「普段はどうなるんでしょう」


父さんが言った。


「普段は起き上がれないんじゃないか?」


魔王。


「それじゃ能力使えないじゃん!」


そんな会話をしている間にも、会場では力が失われ続けていた。


勇気は、とうとう両手を膝についていた。


「はぁ……はぁ……」


それでも倒れない。


「まだ……立てる……」


ダウンも少しふらついている。


「……ダウン」


しかし、その声にも少し疲れが混じっている。


主審は二人を見る。


そして会場全体を確認した。


壁際では、すでに何人かが横になっている。


「……」


審判団も互いに顔を見合わせた。


「これは……」


「もう十分でしょう」


「勇気選手もかなり耐えています」


主審は手を上げた。


「ダウン選手!」


ダウンが顔を上げる。


「はい」


主審。


「あなたの力は、もう分かりました」


そして勇気を見る。


「勇気選手も、これ以上続ける必要はありません」


勇気は膝に手をついたまま頷いた。


主審が宣言する。


「試合終了!」


会場に声が響いた。


ダウンはその場に立っていた。


ただし、本人もかなり疲れている。


「……ふぅ」


勇気は壁際へ戻ろうとする。


しかし――。


「……あれ?」


足に力が入らない。


魔王と父さんが駆け寄る。


「勇気、大丈夫?」


「はい……ちょっと力が抜けてます」


母さんがすぐに手を差し出した。


「回復するわ」


母さんの手から、小さな光が出る。


勇気の体を包んでいく。


「少し楽になった?」


「はい!」


勇気が立ち上がる。


魔王が周囲を見る。


「他の人たちも回復させたほうがいいんじゃない?」


母さんと勇気が審判団を見る。


「周りの力が抜けた選手を回復して良いですか?」


審判団は即答した。


「ぜひ、お願いします」


母さんと勇気が会場を回る。


「大丈夫ですか?」


「回復しますね」


「少しずつ力が戻ってきますよ」


次々と回復していく。


壁際で倒れていた勇者候補たちも、


「……動ける」


「助かった……」


「ありがとうございます!」


と立ち上がっていった。


その光景を見ながら、審判団は魔王軍を見た。


「しかし……」


「本当に色んな能力がいますね」


「ええ」


「物理攻撃に特化した選手」


「炎を出すバット」


「巨大な米粒を飛ばすしゃもじ」


「精神攻撃をするネクタイ」


「瞬間移動の杖を持つ魔術師」


「プリンの……」


審判団がゴプリンを見る。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップをかぶっている。


「……プリンですね」


ゴプリン。


「……プリン」


審判団が頷く。


「本当に色んな能力がいますね」


別の審判が言った。


「なかなか良いですね」


さらに別の審判が魔王を見る。


「リーダーも、かなり変わっています」


魔王が聞く。


「そうですか?」


審判。


「はい」


魔王。


「どの辺が?」


審判団は少し考えた。


そして全員で答えた。


「名前は魔王だけど」


魔王は黙った。


「……そこ?」


昆布が笑う。


「魔王様、そこはもう諦めましょう」


父さんも頷く。


「名前は変えられないからな」


魔王。


「俺だって普通の名前がよかったよ……」


その横で、ダウンが壁にもたれかかっていた。


勇気が声をかける。


「ダウンさん」


「はい」


「すごい能力でした」


ダウンは少し笑った。


「ありがとうございます」


勇気。


「でも、自分の力も下がるんですよね?」


「はい」


「大変じゃないですか?」


ダウンは少し考えた。


「大変です」


「ですよね」


ダウン。


「だから今日は、朝からかなり寝てきました」


勇気。


「それで絶好調だったんですね」


ダウン。


「はい」


魔王が聞いていた。


「……じゃあ普段は?」


ダウン。


「もう少し眠いです」


魔王。


「やっぱり!」


会場に笑いが起きた。


しかし、魔王軍の誰も気づいていなかった。


勇者募集試験は、もうすぐ終わろうとしている。


そしてこの奇妙な集団が、審判団からどのような評価を受けるのか。


その結果は、まだ誰にも分からなかった。


魔王はため息をついた。


「それにしても……」


父さんを見る。


「服はボロボロ」


勇気を見る。


「勇気は力が抜ける」


母さんを見る。


「母さんは回復役」


ゴプリンを見る。


「ゴプリンはプリン」


そして自分を見る。


「俺は魔王」


魔王軍全員が頷いた。


魔王。


「……勇者募集試験、大丈夫かな?」


昆布が静かに答えた。


「たぶん大丈夫です」


魔王。


「その『たぶん』が怖いんだけど」

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