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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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会社員対決

勇者募集試験。


会場では、これまでに三つの試合が行われた。


魔王VS冷寒。


殴打VS魔球。


魔女VSホウキ。


どの試合も、勇者試験という言葉からは少し離れていた。


そして今。


主審が名簿を持って中央へ歩いてきた。


「次の試合を発表します!」


魔王軍が一斉に顔を上げる。


「次の試合は――」


全員が耳を澄ます。


「牙城選手と――」


父さんが反応した。


「俺だな」


魔王が振り返る。


「父さんか!」


父さんは立ち上がった。


「行ってくる」


母さんが微笑む。


「パパ、頑張ってね」


「おう」


勇気も声をかける。


「牙城さん、頑張ってください!」


「ありがとう」


昆布が父さんを見る。


「牙城さん、今回は防御が専門です」


「分かっている」


「無理に攻撃する必要はありません」


「分かっている」


「相手の攻撃を受けて――」


父さんは頷く。


「メンタルで耐える」


「そこです」


昆布が頷いた。


「それが牙城さんの最大の武器です」


魔王も頷く。


「父さんは怒られても平気だからな」


「順調に怒られてるからな」


「その能力、勇者試験で評価されるのかな……」


父さんは試合場へ向かう。


そして――


主審が続けた。


「対戦相手は――」


「リーマン選手!」


「……」


魔王軍が一瞬、沈黙した。


五利武が言う。


「リーマン?」


便意が首を傾げる。


「サラリーマンですかね?」


鍋が言う。


「勇者試験にサラリーマンが?」


昆布は名簿を見る。


「名前が『リーマン』ですね」


魔王が試合場の入口を見る。


「まさか……」


その時。


カツ。


カツ。


カツ。


一人の男が歩いてきた。


黒いスーツ。


白いワイシャツ。


革靴。


そして――


ネクタイ。


完全に会社員だった。


魔王軍がざわめく。


「サラリーマンだ!」


「本当にサラリーマンだった!」


「勇者試験だよな?」


父さんはリーマン選手を見る。


「……」


リーマンも父さんを見る。


「……」


二人ともスーツ姿。


ただし父さんは赤い、


メンタルアタックネクタイ。


リーマンは普通のネクタイ。


魔王が言った。


「父さん、会社帰りみたいだな」


母さんが言う。


「パパはいつも仕事帰りみたいよ」


「まあ、実際サラリーマンだからな」


父さんが頷く。


リーマン選手が試合場中央へ来た。


主審が二人を見る。


「両者、クリーンファイトでお願いします」


父さんとリーマンが頷く。


「はい」


「はい」


主審が一歩下がった。


「それでは――」


会場が静まる。


「試合開始!」


カーン!


――とは鳴らなかった。


ゴングもない。


ただの試験官の声だった。


父さんはまず構えた。


そして――


「メンタルガード」


父さんが言った。


リーマンが目を丸くする。


「メンタルガード?」


「ああ」


父さんは胸を張る。


「もともと俺はメンタルが強い」


「はい」


「だが――」


父さんは赤いネクタイを整える。


「さらにメンタルが強くなる」


リーマンの目が輝いた。


「なんだって!」


「そうだ」


「そんな技があるんですか!?」


「ああ」


「どうやるんですか?」


父さんは少し考えた。


「気合いだ」


「気合い?」


「そうだ」


「なるほど……」


リーマンは真剣な顔で頷いた。


「後でやり方教えてください!」


父さんも頷く。


「いいぞ」


「やった!」


リーマンが嬉しそうな顔をした。


魔王軍は壁際で呆然としていた。


魔王が言う。


「試合中に教室みたいになってる……」


昆布が冷静に言う。


「しかし、これは父さんのコミュニケーション能力ですね」


「そうかな?」


「相手との敵対関係をすぐに解消しています」


勇気が言った。


「仲良くなってますね」


便意も頷く。


「試合前なのに」


ゴプリン。


「……仲良し」


父さんとリーマンは、まだ話している。


リーマンが言った。


「メンタルが強くなれば、会社でも怒られても平気ですか?」


父さんが頷く。


「平気だ」


「何を言われても?」


「まあ、多少はへこむ」


「へこむんですか?」


「でも翌日には忘れる」


「すごい!」


「慣れもある」


「なるほど……」


魔王が頭を抱える。


「父さん、何の講習会を始めたんだよ」


昆布が言う。


「リーマン選手にとっては重要な情報なのかもしれません」


母さんが笑う。


「パパは会社の相談も受けられるのね」


「勇者試験なんだけどな……」


その時。


リーマンが急に表情を変えた。


「……でも」


父さんを見る。


「私もここでアピールしなきゃいけないので」


「おう」


「試験ですから」


「ああ」


リーマンは自分の胸元へ手を伸ばした。


そして――


ネクタイを外した。


スルッ。


「……」


父さんが呟く。


「ネクタイを取った」


魔王軍が見る。


リーマンはネクタイを手に持った。


父さんが首を傾げる。


「仕事、終わったのか?」


「え?」


リーマンが振り返る。


父さんは真剣だった。


「ネクタイを取ったから」


「試合ですよ!」


「そうか」


「会社じゃないですから!」


「なるほど」


魔王が壁際から叫ぶ。


「父さん、そこじゃない!」


リーマンはネクタイをだらんと持った。


「これが私の武器です」


魔王軍が一斉に見る。


「ネクタイ?」


昆布が少し前へ出る。


「武器として登録されているのでしょうか」


リーマンが頷く。


「はい」


「特殊能力が?」


「あります」


父さんがネクタイを見る。


「普通のネクタイに見えるが」


「普通に見えるでしょう?」


「うむ」


リーマンはネクタイを持ったまま構える。


「でも――」


ネクタイを、


スッ。


と伸ばす。


「こうすると……」


何も起きない。


「……」


父さんが待つ。


魔王軍も待つ。


昆布も待つ。


便意も待つ。


ゴプリンも待つ。


「……」


沈黙。


リーマンがもう一度ネクタイを振る。


ヒュン。


何も起きない。


魔王が言う。


「普通のネクタイじゃない?」


リーマンが焦る。


「いや、そんなはずは……」


もう一度。


ヒュン!


何も起きない。


父さんが心配そうに言う。


「大丈夫か?」


「大丈夫です!」


リーマンはネクタイを見つめる。


「昨日まで使えたんです!」


「昨日まで?」


「はい」


「会社で?」


「はい」


父さんが考える。


「会社で使える武器なのか?」


「そういう意味じゃありません!」


魔王軍が笑う。


その時。


父さんの赤いネクタイが突然――


「仕事終わったの?」


「え?」


父さんが固まった。


ネクタイが喋った。


「仕事終わったの?」


リーマンが目を見開く。


「ネクタイが喋った!」


魔王が頷く。


「そうなんだよ」


リーマンが父さんを見る。


「すごい!」


父さんが自慢げに言う。


「メンタルアタックネクタイだ」


ネクタイ。


「仕事終わったの?」


「……」


父さんは少し考える。


「まだ試験中だ」


ネクタイ。


「じゃあ仕事中」


「勇者試験を仕事扱いするのか?」


ネクタイ。


「仕事中!」


魔王が笑う。


「父さんのネクタイ、会社員に対して強すぎないか?」


リーマンは自分のネクタイを見る。


「私のも喋らないかな……」


魔王が言う。


「たぶん喋らないと思うよ」


リーマンが残念そうにする。


「そうですか……」


そして――


ネクタイを握り直した。


「でも、私はこれで戦います」


父さんも構える。


「分かった」


リーマンが一歩前へ出る。


「では――」


父さんも一歩前へ。


二人の距離が縮まる。


「行きます!」


リーマンがネクタイを振り上げる。


ヒュッ!


父さんは身構える。


「メンタルガード!」


リーマンのネクタイが――


父さんの肩に、


ペチッ。


当たった。


「……」


父さん。


「……」


リーマン。


魔王軍。


「…………」


魔王が呟いた。


「弱い」


昆布が冷静に言う。


「物理攻撃としては、かなり弱いですね」


五利武が言う。


「ネクタイですからね」


殴打も頷く。


「バットならもっと強いです」


便意が言う。


「アイスを出した方がいいですか?」


魔王。


「何で?」


リーマンは少し焦った。


「まだです!」


父さんが言う。


「何かあるのか?」


「あります!」


リーマンはネクタイを握り直す。


そして――


大きく振りかぶった。


「これなら!」


ビュン!


ネクタイが父さんの胸元へ飛ぶ。


父さんは――


動かない。


「メンタルガード」


ペチッ。


また当たった。


父さんは微動だにしない。


「……」


リーマンが驚く。


「効かない!」


父さんが言った。


「メンタルガードだからな」


「物理攻撃なのに?」


「精神的には効かない」


「なるほど……」


リーマンは真剣に考え始めた。


「では、精神を攻撃するには……」


父さんが言う。


「それなら、うちのネクタイだな」


魔王軍が笑う。


父さんのネクタイが、


「ピッチャービビってる!」


と叫んだ。


リーマンが苦笑する。


「それ、私にも効きそうですね」


魔王が言った。


「たぶん会社員には特に効く」


リーマンが少し青ざめた。


「やめてください」


ネクタイ。


「仕事終わったの?」


「終わってません!」


「明日の仕事は?」


「あります!」


「上司に報告した?」


「……」


リーマンの顔色が変わった。


「……」


父さんが心配そうにする。


「大丈夫か?」


リーマンが小さく呟く。


「明日の朝一番に報告書を出さないと……」


魔王軍が固まる。


昆布が呟く。


「まさか……」


魔王が言う。


「この試合――」


父さんが頷く。


「仕事の話になってないか?」


リーマンはネクタイを握ったまま震えている。


「……」


父さんが優しく言う。


「大丈夫だ」


リーマンが顔を上げる。


「はい?」


父さんは拳を握った。


「メンタルガードだ」


リーマンの目が輝いた。


「……!」


父さん。


「俺が教える」


リーマン。


「お願いします!」


魔王は思った。


「これ、本当に勇者試験なのか?」


しかし――


主審はまだ二人の戦いを見ている。


審判団もメモをしている。


父さんのメンタルガード。


リーマンのネクタイ。


そして――


二人の間に生まれた、謎の会社員同士の友情。


勇者になるための試験なのに。


なぜか父さんが、リーマン選手に社会人研修を始めようとしていた。


そしてリーマン選手は――


まだネクタイを武器として使うことを諦めていない。


「もう一度行きます!」


リーマンが叫ぶ。


父さんが構える。


「来い!」


ネクタイが叫ぶ。


「ピッチャービビってる!」


魔王が叫ぶ。


「だから今ピッチャーいないって!」


会場中に笑い声が響いた。


だが――


リーマンが握ったネクタイが、突然わずかに光った。


「……!」


父さんが目を細める。


魔王も気づいた。


「今、光った?」


昆布が立ち上がる。


「何か能力が発動するかもしれません!」


リーマンが驚く。


「え?」


ネクタイが――


ゆっくりと動き始めた。


ヒュルッ。


「……」


父さんが構える。


魔王軍全員が見守る。


果たしてリーマンのネクタイには、どんな能力があるのか。


そして――


父さんのメンタルガードは、それに耐えられるのか。

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