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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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高速コンビネーションと謎の防寒具

魔王と冷寒の試合は、開始からしばらく経っていた。


最初は――


ドスン。


ガシャン。


ドスン。


ガシャン。


と、大きな体をゆっくり動かしていた冷寒。


ところが。


少しずつ。


本当に少しずつ。


冷寒の動きが変わってきた。


「……速くなってる」


魔王が呟いた。


冷寒の足が、


タッ!


と動く。


「寒い……」


そして、


タッ!


もう一歩。


「寒い……」


さらに――


シュッ!


拳が飛んできた。


魔王は上体を後ろへ反らす。


「おっと!」


続いて反対の拳。


「ワンツーか!」


魔王は頭を横へ振る。


シュッ!


シュッ!


二発を避ける。


ところが――


「まだだ!」


冷寒の脚が上がった。


「ハイキック!」


ブンッ!


魔王はしゃがんで避ける。


頭上を冷寒の脚が通過する。


「危ない!」


観客から、


「おおおお!」


と歓声が上がった。


魔王は一度距離を取る。


「……さっきより速い」


昆布も壁際から冷静に見ていた。


「明らかに速度が上がっています」


勇気が驚く。


「最初はあんなにゆっくりだったのに……」


五利武が言った。


「体が温まってきたんでしょうか」


鍋がヘル鍋を被ったまま頷く。


「冷寒さん、寒いと言ってましたからね」


父さんが言う。


「体が温まって動きやすくなったのかもしれんな」


母さんが心配そうに言った。


「でも魔王、大丈夫かしら?」


魔王は試合場の中央で冷寒を見ていた。


「……大丈夫」


そう言いながらも――


息が荒くなっていた。


「ハァ……ハァ……」


冷寒も、


「ハァ……ハァ……寒い……」


と肩で息をしている。


魔王は額の汗をぬぐった。


「だんだん避けるのが大変になってきたな……」


冷寒が構える。


魔王も構える。


冷寒の足が動いた。


タッ!


「来る!」


ワン。


シュッ!


ツー。


シュッ!


そして――


ハイキック。


ブンッ!


魔王は上体を揺らす。


右へ。


左へ。


さらに横へ。


「ふう……」


なんとか避ける。


観客から声が上がった。


「魔王、全部避けてるぞ!」


「すごい!」


「冷寒のコンビネーションも速い!」


魔王は少しだけ笑った。


「避けるだけなら、まだ何とかなる」


そして冷寒を見ながら考える。


「……次は、ローキックを狙ってみよう」


魔王の得意技。


ローキック。


ただし――


魔王は頭を狙わない。


「できれば痛くないようにしたい」


今回の試験は、


相手に致命傷を与えてはいけない。


だからこそ、魔王は慎重だった。


「よし……」


魔王は冷寒の足を見る。


「ワンツーハイキックが来たら、ハイキックを避けて――」


一瞬の隙を狙う。


「ローキック」


昆布も気づいた。


「魔王様、狙っていますね」


殴打が言う。


「いつものパターンですね」


五利武が頷く。


「ローキックですね」


父さんが腕を組む。


「魔王は昔からローキックが得意だからな」


母さんも頷く。


「でも無理しちゃ駄目よ」


ゴプリンは頭の鋼鉄のプリンカップを押さえながら、


「……魔王様……がんばれ」


と呟いた。


冷寒が前に出る。


タッ!


「来た!」


魔王が集中する。


ワン!


シュッ!


魔王は避ける。


ツー!


シュッ!


さらに避ける。


そして――


「ハイキック!」


冷寒の脚が大きく振り上がった。


ブンッ!


魔王は素早く身をかがめる。


「よし!」


完全に避けた。


そして――


「次だ!」


魔王の右足が動いた。


ローキック。


シュッ!


冷寒の左脚へ向かう。


「もらった!」


ところが。


冷寒は――


そこで終わらなかった。


「え?」


巨大な体が回転した。


「まだあるのか!」


後ろ回し蹴り。


ブンッ!


「うわっ!」


魔王の目の前を、冷寒の脚が横切る。


魔王はローキックを出したまま――


「危ない!」


そのまま後ろへ倒れ込んだ。


ドサッ!


「魔王様!」


勇気が叫ぶ。


しかし魔王は、地面に寝転がったまま冷寒の蹴りを避けていた。


ブンッ!


冷寒の後ろ回し蹴りが空を切る。


魔王はすぐに体を起こす。


「……危なかった」


ところが。


試合場の別の場所から、


バキッ!カラカラカラ


という音がした。


「ん?」


魔王が振り向く。


冷寒が左脚を押さえていた。


そして――


その左すねの鎧が。


粉々になっていた。


「ええっ!?」


会場が静かになる。


冷寒が、


「……」


ゆっくり左膝をついた。


ガシャン。


魔王は驚いて近づく。


「大丈夫ですか?」


冷寒は答えない。


魔王が見る。


壊れたすねの鎧。


その下から見えているものは――


白い。


とにかく白い。


そして、びっしりと貼り付いている。


「……何だこれ?」


魔王は目を丸くする。


昆布も遠くから目を細める。


「白い物体……?」


便意が言う。


「何かの魔法でしょうか?」


鍋が言う。


「雪でしょうか?」


母さんが首を傾げる。


「お餅じゃない?」


「何で戦闘中にお餅が出てくるんだよ」


魔王が突っ込む。


冷寒は左膝をついたまま、


「……寒い」


と言った。


魔王はさらに近づく。


魔王は素早いステップで近づく。


タッ!


そして白い物体を――


ペリッ。


「取れた」


魔王はそれを手に持った。


そして――


「熱い!」


魔王は思わず手を離しかけた。


「なんだこれ?」


白い物体は熱を持っていた。


魔王はじっと見る。


「……ホッカイロか?」


会場が、


「…………」


静まり返った。


そして。


一人の勇者候補が呟いた。


「ホッカイロ?」


別の候補が答える。


「ホッカイロだな」


さらに別の人。


「じゃあ、あの鎧……」


「防具じゃなくて、防寒具なのか?」


「毛皮も?」


「寒いから着てたのか?」


魔王は冷寒を見る。


冷寒はブルブル震えていた。


「寒い……」


魔王は納得した。


「そういうことだったのか!」


冷寒は左脚を抱えながら言った。


「脚……寒い……」


そして――


「もう無理……」


試験官がすぐに前へ出た。


「そこまで!」


魔王も構えを解いた。


冷寒も立ち上がろうとする。


ドスン。


ガシャン。


しかし左脚が気になるのか、ゆっくり立つ。


試験官が二人を見る。


「試合終了!」


会場から拍手が起こった。


「両者、下がってください」


魔王は冷寒を見る。


「ありがとうございました」


冷寒も頭を下げた。


「ありがとうございました……寒い……」


魔王も頭を下げる。


そして二人はそれぞれの場所へ戻っていった。


壁際に戻った魔王へ、魔王軍が駆け寄る。


「お前、ロー好きだな」


父さんが言った。


「魔王様!」


勇気が嬉しそうに言った。


「すごかったです!」


「ありがとう」


昆布が冷静に分析する。


「避け方は非常に良かったですね」


「でも最後、危なかったよ」


「後ろ回し蹴りは予想外でした」


殴打が言う。


「それでも避けましたね」


五利武も頷く。


「ローキックも入りました」


魔王は自分の膝を見る。


「この膝サポーター……本当にすごいな」


父さんが言った。


「魔王のステップも速かったぞ」


母さんが笑う。


「怪我がなくて良かったわ」


ゴプリンが近づいてきた。


「……魔王様」


「ん?」


「……寒い人……大丈夫?」


「たぶん大丈夫だと思う」


ゴプリンは少し考えた。


「……プリン食べる?」


「何でだよ」


「……暖かくなる?」


「プリンで暖まるのかな……」


鍋が真面目に言った。


「温かいプリンなら可能性はあります」


「鍋さん、料理の方向に持っていかないでください」


その頃。


試験会場では、壁際にいた審判たちが何人か集まっていた。


「魔王選手」


「はい」


「ステップが非常に速かったな」


別の審判がメモを見せる。


「攻撃を避ける判断も早い」


さらに別の審判。


「攻撃力を抑えながら、相手の防具を破壊する程度の威力」


「しかも相手が倒れたところで追撃しない」


「安全第一の作業着だが……」


審判が魔王の背中を見る。


そこには大きく、


安全第一


と書いてある。


「……本当に安全第一だな」


別の審判が頷いた。


「名前も魔王」


「名前は完全に魔王だな」


「でも戦い方はかなり慎重だ」


そして、一人の審判が魔王の膝を見る。


「それと……」


「膝?」


「新しい装備だろう」


「何か特殊な効果があるようだな」


魔王自身もまだ、その正体を知らない。


魔じいちゃんの膝サポーター。


その効果は――


どうやら単なる膝の保護だけではないらしい。


試験官が名簿を確認した。


「それでは――」


会場が再び静かになる。


試験官が次の名前を読み上げようとする。


「次の試合――」


魔王軍も振り返った。


殴打が顔を上げる。


五利武も構える。


昆布はすぐに状況を確認する。


便意は瞬間移動の杖を握る。


鍋はヘル鍋を整える。


父さんはメンタルアタックネクタイを直す。


母さんは子供用巨人のしゃもじを持つ。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップを押さえる。


そして――


試験官が口を開いた。


「次の試合――」


「殴打選手と――」


会場の視線が、一斉に殴打へ向いた。


「……私ですか?」


殴打が驚いた顔をする。


魔王も驚く。


「殴打さん、次か!」


昆布がすぐに立ち上がった。


「殴打さん、落ち着いてください」


殴打は魔法のバットを握る。


「はい」


五利武が言う。


「相手は誰でしょうね」


便意が言う。


「今度はどんな人でしょう?」


父さんがネクタイを締め直す。


「攻撃担当の出番だな」


母さんも笑顔で言う。


「頑張ってね、殴打さん」


鍋は真剣な顔で、


「無理をせずに戦ってください」


ゴプリンも、


「……がんばれ」


と呟いた。


そして――


試験官が、対戦相手の名前を読み上げようとした。


「殴打選手の対戦相手は――」


会場中が静かになる。


殴打は魔法のバットを構えた。


その目が、少しだけ真剣になった。


果たして、次の相手は誰なのか。


そして――


魔法のバットは、本当に魔法を使えるのか?

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