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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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瞬間移動の杖

王都の武器屋。


魔王軍は、次々と新しい装備を手に入れていた。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップ。


殴打は魔法のバット。


五利武はよく飛ぶゴルフクラブ。


昆布は光る靴。


父さんはメンタルアタックネクタイ。


母さんは子供用巨人のしゃもじ。


鍋はヘル鍋。


店内には、もはや普通の冒険者パーティーとは思えない装備の人たちが並んでいた。


そんな中――。


便意は、一人で静かに店内を歩いていた。


彼が向かったのは、


『魔術師コーナー』


だった。


「……おお」


便意の目が輝いた。


そこには大小さまざまな杖が並んでいる。


短い杖。


長い杖。


細い杖。


太い杖。


先端に宝石がついているもの。


炎の形をしたもの。


星の形をしたもの。


さらには、なぜかスプーンのような形をした杖まである。


便意は一つ一つ手に取ってみた。


「これは……小さいな」


次。


「これも小さい」


次。


「……これも」


便意はしばらく考えた。


そして、ぽつりと言った。


「男だから、大きい杖がかっこいいかな」


魔王が少し離れたところから聞いていた。


「便意さん、杖のサイズで男らしさを判断してるの?」


便意は真剣な顔で答えた。


「はい」


「そうなんだ……」


昆布が横から言った。


「魔術師の世界では、杖の大きさと魔力は必ずしも比例しませんよ」


便意が振り返る。


「そうなんですか?」


「はい。小さな杖でも強力な魔法を使えるものがあります」


便意は少し考えた。


「でも……」


「はい」


「かっこいい方がいいです」


昆布はうなずいた。


「それは重要ですね」


魔王が言った。


「昆布さん、納得するんだ」


「装備は本人の気持ちが大切ですから」


便意は再び杖を探し始めた。


「かっこいい杖……」


棚を右へ。


「かっこいい杖……」


棚を左へ。


「かっこいい杖……」


一本手に取る。


「……違う」


戻す。


もう一本。


「……ちょっと違う」


さらに一本。


「これは……悪くない」


しかし、戻した。


「もっとかっこいいのがあるはず」


魔王は思った。


――かなりこだわってるな。


便意は魔術師コーナーの一番奥まで進んだ。


そこには、少し高級そうな杖が何本も並んでいた。


その中でも一本だけ、独特のデザインをしている杖があった。


黒と銀の装飾。


先端には青い宝石。


柄の部分には細かな模様。


しかも、持ち手が少し曲がっていて、魔術師が持つと非常に様になる。


便意が立ち止まった。


「……」


しばらく見つめる。


そして――


「これ、デザインがかっこいいな」


便意が手に取った。


魔王がすぐに近づいた。


「どれどれ?」


便意が杖を見せる。


魔王は目を丸くした。


「その杖、すごい魔法が出そうですね」


「そうですよね」


「何ていう杖ですか?」


便意が杖についている札を読む。


「……」


少し間を置いて。


「瞬間移動の杖と書いてあります」


魔王が驚いた。


「瞬間移動?」


「はい」


「すごいじゃん!」


勇気もやって来た。


「瞬間移動って、消えたり現れたりする魔法ですか?」


「たぶん」


便意は杖を見ながら答えた。


魔王が興奮気味に言った。


「消えたり、現れたりするのは魔術師としてかっこいいですね」


便意も満足そうだった。


「ですよね」


「それにしますか?」


便意は少しも迷わなかった。


「これにします」


そして店員のところへ持っていく。


「これ、お願いします」


店員が杖を確認する。


「瞬間移動の杖ですね」


「はい」


「良い物を選びましたね」


便意が嬉しそうに聞く。


「強いですか?」


店員は少し考えて答えた。


「使いこなせれば便利ですよ」


「使いこなせれば……」


魔王が反応する。


「その言い方、ちょっと怖いな」


店員が説明を続ける。


「瞬間移動は、行き先を正確にイメージする必要があります」


「なるほど」


昆布が真剣に聞いている。


「つまり、場所の把握が重要ということですね」


「その通りです」


昆布は便意を見る。


「便意さんには練習が必要ですね」


「やってみます」


魔王が言った。


「便意さん、まずは近い場所からね」


「はい」


「いきなり王都の外とかに飛ばないでね」


「分かりました」


「あと、屋根の上とかも危ないから」


「はい」


「あと海の中とか」


「分かりました」


「あと――」


便意が魔王を見る。


「魔王様」


「うん?」


「そんなに危険な場所に行きませんよ」


「そうだよね」


魔王は笑った。


すると父さんがやって来た。


「瞬間移動か」


「はい」


「便利そうだな」


「そうですね」


父さんは赤いネクタイを触った。


「俺も瞬間移動できれば、メンタルアタックしやすいな」


魔王が振り返る。


「父さん、メンタルアタックネクタイを使う前提になってるね」


「せっかく買ったからな」


鍋もやって来た。


頭にはヘル鍋。


「瞬間移動ですか?」


「はい」


鍋が考える。


「料理中に瞬間移動したら便利そうですね」


魔王が聞く。


「どこに?」


「台所から食卓へ」


「それ、歩けばいいよ」


「確かに」


母さんも来た。


手には子供用巨人のしゃもじ。


「便意さん、杖を買ったの?」


「はい」


母さんは杖を見る。


「かっこいいわね」


「ありがとうございます」


「これで空も飛べる?」


「瞬間移動の杖なので、たぶん飛ぶのとは違いますね」


「そうなの」


母さんは少し残念そうだった。


「飛べるほうきが欲しかったわ」


魔王が笑う。


「母さん、まだ言ってる」


「魔女だからね」


昆布が言った。


「いずれ空を飛ぶ装備が見つかるかもしれませんね」


母さんは嬉しそうにうなずいた。


「楽しみだわ」


その横で、ゴプリンが便意の杖をじっと見ていた。


鋼鉄のプリンカップの格子越しに、便意を見る。


「……瞬間移動」


「そうだよ」


ゴプリンが少し考える。


「……プリンも?」


便意が笑う。


「プリンも瞬間移動できるかもしれないね」


ゴプリンは真剣だった。


「……プリン……守る」


魔王が言った。


「瞬間移動するなら、まずプリンを落とさないことが大事だね」


ゴプリンはうなずいた。


「……大事」


こうして、便意は新しい杖を手に入れた。


瞬間移動の杖。


これまでの便意の魔法は、


「ウォーター」


と言えばチョロチョロ水が出たり、


「ウォーター」


と言ったら突然ものすごい水圧ビームになったり、


「アイス」


と言えば冷気が出たり、


「アイス、ビッグで」


と言えば巨大なバニラアイスが出たりした。


魔王は杖を見ながら考えた。


「便意さんの魔法、最近かなり成長してるよね」


便意は少し照れた。


「まだまだです」


「いや、ウォータービーム出てたじゃん」


「偶然です」


「巨大アイスも?」


「偶然です」


「トリプルアイスも?」


「……偶然です」


魔王は笑った。


「じゃあ、この瞬間移動も偶然すごいところに飛んだりしないようにね」


便意が杖を握る。


「練習します」


昆布も真剣な表情になる。


「瞬間移動は、今後かなり重要な能力になるかもしれません」


魔王がうなずく。


「そうだね」


昆布は続けた。


「偵察にも使えます」


「なるほど」


「緊急離脱にも使えます」


「便利だね」


「敵の背後にも――」


魔王が止める。


「昆布さん」


「はい」


「できれば戦わない方向で」


昆布はすぐにうなずいた。


「そうでした」


そして白板に書いた。


⑤できれば戦わない。


魔王は満足そうにうなずいた。


便意は新しい杖を眺めた。


「これで、もっと魔法が上手く使えるようになればいいな」


魔王は笑った。


「うん」


便意は杖をしっかり握った。


「これにします。ありがとうございます」


こうして――


便意は、


『瞬間移動の杖』


を手に入れた。


魔王軍の装備は、また一段と魔術師らしくなった。


しかし――


まだ王都の武器屋には、魔王軍の最後の一人が残っている。


魔王だった。


魔王は店内を見回す。


剣。


鎧。


魔法道具。


変な調理器具。


そして、まだ見たことのない装備。


魔王はため息をついた。


「俺は何にしようかな……」


その瞬間。


店の奥から店員の声がした。


「お客様、魔王様にはこちらが……」


魔王が振り返る。


「俺に?」


一同が一斉に魔王を見る。


その棚には――


『魔王専用』


と書かれた札が付いていた。


魔王は固まった。


「……嫌な予感しかしない」

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