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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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父さん、武器を手に入れる

王都の武器屋。


魔王軍は、店の中を順番に見て回っていた。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップ。


殴打は魔法のバット。


五利武は、よく飛ぶゴルフクラブ。


昆布は光る靴。


それぞれ、自分に合った装備を見つけていた。


そして、まだ何も買っていない者たちがいる。


その一人が――父さんだった。


父さんは、店の奥をゆっくり歩いていた。


右を見る。


剣。


左を見る。


盾。


その隣には、鎧。


さらに奥には、魔法の杖。


しかし父さんは、それらにはほとんど興味を示さなかった。


父さんの視線は、ある一つの文字を探していた。


「……メンタル」


父さんが小さくつぶやいた。


魔王が振り返る。


「父さん、何探してるの?」


「メンタルって書いてある物だ」


「やっぱり?」


「うん」


父さんは真剣だった。


剣を見ても、


「これはメンタルじゃないな」


鎧を見ても、


「これは物理防御だな」


魔法の杖を見ても、


「メンタルって書いてないな」


と、次々に通り過ぎていく。


魔王は少し心配になった。


「父さん、武器屋なんだから、メンタルって書いてある物、そんなにあるかな?」


「あるかもしれないだろ」


「まあ……異世界だしね」


昆布も光る靴を履いたまま、父さんの様子を見ていた。


「父さんは、今までずっと防御担当でしたからね」


「そうなんだよ」


父さんはうなずいた。


「俺はメンタルガードだからな」


魔王が言った。


「でも、父さんのメンタルガードって、攻撃じゃないよね」


「そうだな」


「だから今回、攻撃できる物を探してるの?」


「そうだ」


父さんは堂々と言った。


「メンタルが強くなるだけじゃなくて、攻撃できるものがあればいい」


「そんな都合のいい物あるかな……」


「探してみないと分からない」


父さんは再び歩き始めた。


「メンタル」


「メンタル……」


「メンタル……」


まるで店内で宝探しをしているようだった。


その横では、ゴプリンが鋼鉄のプリンカップを装備していた。


格子状の部分から目だけが見えている。


ゴプリンは父さんを見て、


「……メンタル」


とつぶやいた。


父さんが振り返る。


「そうだ。メンタルだ」


ゴプリンは少し考えた。


「……プリン?」


「いや、今回はプリンじゃない」


ゴプリンは納得したように、


「……うん」


と言った。


そして父さんは、また店内を歩いた。


防具コーナー。


魔法道具コーナー。


アクセサリーコーナー。


そして――衣類のような物が並んでいるコーナー。


父さんの足が止まった。


「……」


魔王も止まった。


「どうしたの?」


父さんは棚を見つめている。


そこには何本ものネクタイが並んでいた。


青。


黒。


白。


黄色。


そして――赤。


父さんが赤いネクタイを手に取った。


「これはどうだろう」


魔王が近づく。


「ネクタイ?」


「ああ」


父さんは赤いネクタイを眺めている。


そして、首に巻いた。


キュッ。


父さんがネクタイを締める。


赤いネクタイが胸元にまっすぐ垂れた。


父さんは姿勢を正した。


「……どうだ?」


魔王は少し考えた。


「普通に似合ってるね」


母さんも横から見た。


「パパ、似合ってるわよ」


父さんは満足そうにうなずいた。


「そうか」


そして、ネクタイをもう一度じっくり見た。


その時だった。


父さんの目が大きくなった。


「……ん?」


「どうしたの?」


父さんがネクタイについている小さなタグを見ている。


そこには文字が書かれていた。


父さんが読み上げた。


「……メンタルアタックネクタイ」


魔王が固まった。


「……え?」


父さんがタグを見せる。


「ほら」


魔王が確認する。


「……本当に書いてある」


昆布も近づいてきた。


「メンタルアタックネクタイ……」


殴打もやって来る。


「メンタルアタック?」


五利武も覗き込む。


「アタックって書いてありますね」


鍋もやって来た。


「ネクタイなのに?」


勇気も首をかしげる。


「ネクタイで攻撃するんでしょうか?」


全員が父さんを見る。


父さんは赤いネクタイを指で軽く整えた。


「俺は、これがいいと思う」


魔王が言った。


「父さん、これは……」


「うん」


「ただの赤いネクタイだよね?」


父さんがタグを見る。


「いや、メンタルアタックネクタイって書いてあるぞ」


「確かに書いてあるけど……」


魔王はネクタイをじっと見る。


見た目は完全に普通の赤いネクタイだった。


どこからどう見ても、会社員が着けていそうなネクタイ。


魔法のオーラもない。


剣のように光ってもいない。


炎も出ていない。


風も吹いていない。


ただの赤いネクタイ。


しかし、タグには確かに――


『メンタルアタックネクタイ』


と書いてある。


魔王は少し考えた。


そして言った。


「そっか」


父さんを見る。


「父さんは防御ばかりだから、攻撃も出来た方が良いね」


父さんはうなずいた。


「そうだな」


「今までずっとメンタルガードだったもんね」


「そうだ」


「これからはメンタルアタックもできるかもしれない」


「そういうことだ」


父さんは赤いネクタイをしっかり締め直した。


そして、ネクタイを見つめながら言った。


「アタックって書いてあるから、攻撃するんじゃないか」


魔王は一瞬黙った。


「……まあ、そうだね」


昆布が冷静に言った。


「装備名に能力がそのまま書いてある可能性は高いです」


魔王が昆布を見る。


「でも、光る靴とかもあったよね」


「ありましたね」


「五利武さんのは『よく飛ぶゴルフクラブ』だった」


「はい」


「殴打さんのは『魔法のバット』」


「はい」


魔王は父さんのネクタイを見る。


「だから、メンタルアタックネクタイなら……」


父さんが期待する。


「……メンタルで攻撃するんでしょうね」


父さんは満足そうに笑った。


「よし」


その瞬間、店員がやってきた。


「お客様、そのネクタイがお気に召しましたか?」


父さんが答える。


「はい」


「そちらは当店でも少し変わった商品でして」


魔王が聞いた。


「どんな能力なんですか?」


店員は少し困った顔をした。


「それが……」


「はい」


「私もよく分からないんです」


「分からないんですか?」


「はい」


父さんが尋ねる。


「じゃあ、どうやって使うんですか?」


店員はネクタイを指差した。


「着けていれば、そのうち分かると思います」


「そのうち?」


「はい」


魔王が思わず言った。


「説明書は?」


「ありません」


「能力表は?」


「ありません」


「試着は?」


「もうされていますね」


「なるほど……」


魔王は腕を組んだ。


「異世界の装備、説明がざっくりしてるな……」


昆布が冷静に言った。


「ですが、今まで購入した装備も似たようなものですよ」


魔王が振り返る。


「確かに」


殴打が魔法のバットを軽く持ち上げた。


「俺のも、何の魔法か分からないですからね」


五利武もゴルフクラブを見る。


「私のも、どこまで飛ぶのか分かりません」


昆布は光る靴を見下ろした。


「私の靴は光ります」


魔王が言った。


「それはもう分かってるね」


「はい」


ゴプリンが鋼鉄のプリンカップを叩く。


カン。


「……強い」


魔王が言った。


「ゴプリンのは分かりやすいね」


ゴプリンは満足そうだった。


「……プリン守る」


そして父さん。


赤いネクタイを締めて、胸を張っている。


「俺のはメンタルアタックだ」


魔王が笑った。


「まだ能力が分からないけどね」


父さんは真剣な顔をして言った。


「そのうち分かる」


「うん」


「俺はこれにする」


父さんは店員に言った。


「このメンタルアタックネクタイをください」


「ありがとうございます」


店員がネクタイのタグを確認する。


そして会計を済ませた。


父さんは赤いネクタイを着けたまま、店内の鏡を見た。


「……」


魔王も後ろから見る。


「似合ってるよ、父さん」


母さんが嬉しそうに言った。


「パパ、かっこいいわよ」


父さんは照れながら言った。


「そうか?」


「うん」


魔王も笑った。


「似合ってるから、それにしよう」


父さんは胸を張った。


「よし」


そして、赤いネクタイを軽く指でつまんだ。


「今日から俺は――」


魔王軍全員が父さんを見る。


父さんが言った。


「メンタルガード兼、メンタルアタックだ」


魔王が笑った。


「役割が増えたね」


昆布がすぐに作戦上の整理を始めた。


「では、父さんの役割は防御兼精神攻撃ということで」


父さんがうなずく。


「任せろ」


昆布は白板を取り出した。


「魔王様が魔王の睨み」


「はい」


「魔王様が混乱」


「はい」


「殴打さんが魔法のバット」


「はい」


「五利武さんが飛距離特化ゴルフクラブ」


「はい」


「ゴプリンさんが鋼鉄のプリンカップ」


「……プリン」


「私が光る靴」


「うん」


昆布は最後に父さんを書く。


「そして父さんがメンタルアタックネクタイ」


父さんは腕を組んだ。


「完璧だな」


魔王は笑った。


「まだ何ができるか分からないけどね」


「そこは問題ない」


父さんは自信満々だった。


「メンタルは強いからな」


魔王が聞く。


「じゃあ、敵が怒鳴ってきたら?」


「メンタルガード」


「敵が怖い顔をしてきたら?」


「メンタルガード」


「敵の精神を攻撃できそうだったら?」


父さんは赤いネクタイを見た。


「メンタルアタック」


魔王がうなずく。


「いいね」


すると店員が突然思い出したように言った。


「あ」


魔王が振り返る。


「どうしました?」


店員が父さんを見る。


「ちなみに、そのネクタイ……」


「はい」


「まだ一度もメンタルアタックに成功した人を見たことがありません」


「……」


店内が静かになった。


父さんも黙った。


魔王も黙った。


昆布も黙った。


母さんだけが父さんを見ていた。


「パパなら大丈夫よ」


父さんがゆっくりうなずいた。


「そうだな」


そして赤いネクタイをキュッと締め直す。


「俺のメンタルは強いからな」


魔王は思った。


――それ、攻撃じゃなくて防御なんじゃないかな。


しかし、今は黙っておくことにした。


なぜなら父さんは、とても嬉しそうだったからだ。


こうして父さんは、


メンタルアタックネクタイ


を手に入れた。


果たしてこのネクタイは、本当に敵の精神を攻撃することができるのか。


それとも――


ただの赤いネクタイなのか。


魔王軍はまだ知らなかった。


そして武器屋には、まだまだ妙な装備が残っている。


「次は誰が何を見つけるんだろう?」


魔王が店内を見回す。


その瞬間――


別の棚の奥から、


「これ……何に使うんだ?」


という声が聞こえてきた。


魔王軍全員が振り返った。


「……誰だ?」

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