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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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光る靴

王都の武器屋。


ゴプリンには鋼鉄のプリンカップ。


殴打には魔法のバット。


五利武には、よく飛ぶゴルフクラブ。


一人ずつ、自分に合った装備を見つけていた。


そして――。


「……」


昆布は店内を歩きながら、慎重に商品を見ていた。


魔王軍の中でも、昆布だけは少し様子が違う。


剣を手に取るわけでもない。


槍を振るわけでもない。


斧を眺めるわけでもない。


「昆布さん、何を探しているんですか?」


魔王が聞いた。


「まだ決めていません」


「決めてない?」


「はい」


昆布は腕を組んだ。


「防具にするか、情報収集に使える物を買うか……迷っています」


「なるほど」


魔王も納得する。


昆布の役割は軍師・情報処理担当。


直接攻撃するより、状況を把握し、作戦を立てることのほうが重要だ。


「確かに昆布さんなら、剣より双眼鏡とか地図とかのほうが役に立ちそうですね」


「そうなんです」


昆布は真剣だった。


「敵の位置が分かれば、それだけで作戦の選択肢が増えます」


「なるほど」


「危険な場所が分かれば、避けることもできます」


「それは大事ですね」


「できれば戦わない」


昆布が言った。


「昆布さんらしい」


魔王は笑った。


昆布は防具の棚を見た。


兜。


胸当て。


籠手。


膝当て。


「うーん……」


一つ一つ確認する。


「重いですね」


「軍師が重装備で走るのは大変そうですね」


勇気が言った。


「そうなんです」


昆布は別の防具を見る。


「こちらは軽いですが、防御力が少し低い」


「難しいですね」


「はい」


しばらく考えた後――。


昆布の視線が別の場所へ向いた。


「……」


そこには靴が並んでいた。


「靴コーナーですか?」


魔王が聞く。


「はい」


昆布は靴を眺め始めた。


普通の革靴。


丈夫そうなブーツ。


走るための靴。


滑りにくい靴。


魔法がかかった靴。


そして――。


昆布の手が、一足の靴の前で止まった。


「……?」


昆布が靴に書かれた説明を読む。


「『前が足に出る靴』?」


「……」


魔王も見る。


「なんだそれ」


勇気も覗き込む。


「前が……足に出る?」


母さんもやってきた。


「足が前に出るってこと?」


昆布は商品を持って店員のところへ向かった。


「すみません」


「はい?」


「これ、間違ってますよ」


昆布が靴を見せる。


店員は商品を見る。


「ああ、それですか」


「説明が間違っていますよね」


「いいえ」


店員は笑顔で答えた。


「間違ってないですよ」


「……」


昆布が説明書を見る。


もう一度見る。


「『前が足に出る靴』と書いてあります」


「はい」


「足が前に出る靴じゃないですか?」


「はい」


「……」


昆布はしばらく黙った。


「同じじゃないですか?」


魔王が横から言った。


「私もそう思います」


昆布が答えた。


店員は靴を指差した。


「実際に履いてみてください」


「履けば分かるんですか?」


「はい」


昆布は少し警戒しながら靴を履いた。


「……」


右足。


左足。


「どうです?」


「普通ですね」


昆布が歩いてみる。


一歩。


二歩。


三歩。


「普通の靴に見えますが……」


その瞬間だった。


ヒュンッ!


「え?」


昆布の目の前に――。


もう一人の昆布が現れた。


「わぁっ!」


昆布が飛び退いた。


魔王軍全員が驚く。


「ええっ!?」


勇気が声を上げる。


「昆布さんが二人いる!」


「分身!?」


殴打も驚いた。


五利武も目を丸くする。


「これはすごい」


ゴプリンも鋼鉄のプリンカップの格子越しに、じっと分身を見ている。


「……」


分身も昆布と同じように立っている。


「……」


本物の昆布が分身を見る。


分身も昆布を見る。


「……」


「……」


「私ですね」


「私ですね」


二人が同時に言った。


魔王が頭を抱えた。


「どっちが本物?」


「私です」


「私です」


二人とも同時に答える。


「分からない!」


魔王が叫ぶ。


店員は落ち着いている。


「それが『前が足に出る靴』です」


「そういう意味だったの!?」


魔王が驚く。


店員は頷く。


「履いた人の分身が、足より前に出ます」


「説明としては合ってる……」


昆布は分身を見つめる。


「なるほど」


分身が昆布の隣に立つ。


「……」


昆布が右へ動く。


分身も右へ動く。


昆布が左へ動く。


分身も左へ動く。


「完全に同じ動きをしますね」


昆布が言った。


「はい」


店員が答える。


「偵察などに使えます」


「偵察?」


昆布の目が輝いた。


「はい。分身を先に歩かせれば、安全確認ができます」


「……」


昆布は分身を見る。


「なるほど」


魔王も気づいた。


「これ、昆布さんにかなり合ってない?」


昆布は真剣に考える。


「確かに情報収集には使えます」


「でも、分身が危険な場所に行ったら?」


「消えます」


「消える?」


「はい」


「怪我は?」


「本体には影響ありません」


「それは便利だな」


昆布はさらに詳しく聞く。


「分身はどのくらいの距離まで動けますか?」


「本人の足の上だけです」


「なるほど」


「また、簡単な動作なら命令できます」


「会話は?」


「できません」


「なるほど」


昆布は少し考えた。


「使えるかな」


魔王が言う。


「買う?」


昆布は靴を見た。


「……」


そして――。


「いえ」


「買わないの?」


「まだ迷っています」


「なんで?」


「私が欲しいのは情報収集用の装備ですが……」


昆布は分身を見る。


「これはかなり面白い装備です」


「面白いんだ」


「ただ、他にも見てみたいです」


「なるほど」


昆布は靴を脱いだ。


分身が消える。


「……」


魔王軍全員が少し寂しそうにする。


「消えた」


勇気が言う。


「はい」


昆布はまた歩き始めた。


今度は別の靴。


「これは……」


「速く走れる靴です」


店員が説明する。


昆布が履いてみる。


一歩。


二歩。


「速い!」


昆布の身体が前に飛び出した。


「昆布さん!」


魔王が慌てる。


「止まれますか?」


「……」


昆布が必死に足を動かす。


「止まりません!」


「軍師が逃走用の靴で暴走してる!」


魔王が叫ぶ。


店員が言う。


「止まりたいときは、かかとを三回鳴らしてください」


「先に言ってください!」


昆布が叫ぶ。


コン!


コン!


コン!


ピタッ。


昆布が止まった。


「……」


全員が静かになる。


「危なかったですね」


昆布が息を整える。


「情報収集以前に、自分が制御できないと困ります」


「確かに」


魔王が頷く。


次の靴。


「これは?」


「水の上を歩ける靴です」


「便利そうですね」


昆布が見る。


しかし、店員が続ける。


「ただし、一歩目だけは沈みます」


「それは水の上を歩けないんじゃないですか?」


魔王が突っ込む。


「二歩目から歩けます」


「一歩目で濡れるんだ」


母さんが笑う。


昆布は次の靴へ。


「これは?」


「壁を歩ける靴です」


「……」


昆布がじっと見る。


「便利ですね」


「試しますか?」


「いえ、今はいいです」


「なぜ?」


「天井まで行って戻れなくなったら困るので」


「軍師らしい判断」


魔王が感心する。


さらに次。


「これは透明になる靴です」


「足だけ?」


「はい」


「……」


昆布は考える。


「上半身が見えているので、あまり意味がないですね」


「確かに」


そして、また次。


昆布は一足ずつ確認していく。


軽い靴。


硬い靴。


滑らない靴。


音が出ない靴。


逆に大きな音が出る靴。


「これは?」


「歩くたびに『ドン!』と音がします」


「偵察には向いてないですね」


「そうですね」


「却下」


昆布の装備選びは、意外にも長引いていた。


そして――。


かなりの時間が経ったころ。


昆布が一つの靴を手に取った。


「……」


魔王が近づく。


「何か見つけた?」


昆布はその靴をじっと見ている。


「魔王様」


「はい」


「私はこれにします」


「おっ!」


魔王軍が集まってくる。


「どんな靴ですか?」


魔王が聞いた。


昆布は靴を持ち上げた。


「光る靴です」


「……」


魔王が固まった。


「光る靴?」


「はい」


昆布が頷く。


「歩くと光ります」


「それは子供が履くやつ」


魔王が即座に言った。


「……」


昆布は冷静に商品説明を指差した。


「大人用です」


「大人用なの!?」


魔王が驚く。


母さんが靴を見る。


「本当だわ」


勇気も見る。


「大人用って書いてあります」


殴打が覗き込む。


「光るんですね」


五利武も頷く。


「面白いですね」


父さんも言う。


「夜道では便利そうだ」


魔王は少し考えた。


「……確かに」


昆布は靴を持ったまま説明を続ける。


「暗い場所で足元を照らせます」


「それなら情報収集にも役立つか」


「はい」


「敵に見つかりそうだけど」


「そこは問題です」


昆布が頷く。


「必要なら光らせないこともできます」


「じゃあ普通の靴にもなる?」


「はい」


「それならいいじゃん」


昆布は少し嬉しそうに靴を見る。


「それに、暗い場所で仲間の位置を知らせることもできます」


魔王が納得する。


「なるほど」


「光の点滅で簡単な合図もできます」


「それは軍師向きだな」


昆布は頷いた。


「そう思いました」


魔王は笑った。


「昆布さんが決めたなら、大丈夫だと思います」


そして――。


「それにしましょう」


「ありがとうございます、魔王様」


店員に靴を渡す。


「これ、お願いします」


「かしこまりました」


店員が靴を受け取る。


昆布はその場で履いてみた。


「……」


一歩。


ピカッ。


「おお!」


二歩。


ピカッ。


三歩。


ピカッ。


「本当に光る!」


勇気が笑う。


昆布が少し歩く。


ピカッ。


ピカッ。


ピカッ。


魔王が思わず笑った。


「昆布さん」


「はい」


「軍師というより、夜道を歩く子供みたいだよ」


「大人用です」


「そこは分かってる」


母さんが笑う。


「でも、可愛いわね」


「ありがとうございます」


昆布は真剣な顔で答えた。


「この光は作戦に使えます」


「そこは軍師なんだ」


魔王軍は笑った。


ゴプリンも昆布の足元を見ている。


「……」


ピカッ。


ゴプリンが一歩近づく。


「……」


ピカッ。


ゴプリンがもう一歩。


「……」


ピカッ。


「……プリン」


「ゴプリンちゃんも気に入ったの?」


母さんが聞く。


ゴプリンは少し考えた。


そして自分の鋼鉄プリンカップを触った。


「……」


「プリンカップのほうがいいみたいね」


魔王が笑った。


こうして――。


昆布の新しい装備が決まった。


光る靴。


一見すると子供向けのおもちゃのようだが、暗所での移動、仲間への合図、足元の確認など、軍師である昆布にとって意外にも役立つ装備だった。


そして魔王軍の装備は、ますます個性的になっていく。


ゴプリン――鋼鉄のプリンカップ。


殴打――魔法のバット。


五利武――よく飛ぶゴルフクラブ。


昆布――光る靴。


しかし、まだ四人分。


店内には、魔法杖、防具、奇妙な道具、そして用途の分からない商品が大量に残っている。


魔王は店内を見渡した。


「次は誰の装備を探そうか?」


すると――。


魔法杖の棚の前で、便意が立ち止まった。


「……」


便意は一本の杖をじっと見つめている。


魔王はその姿を見て、少し不安になった。


「便意さん……」


「はい?」


「今度は変な魔法、出ないよね?」


便意は杖を持ち上げた。


「分かりません」


「分からないの!?」


魔王軍の次なる装備選び。

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