よく飛ぶゴルフクラブ!
王都の武器屋。
ゴプリンには鋼鉄のプリンカップ。
殴打には魔法のバット。
魔王軍は少しずつ、それぞれに合った装備を見つけ始めていた。
そして――。
「……」
五利武は、一人で店の奥へと進んでいた。
その目は真剣だった。
「五利武さん?」
勇気が声をかける。
「何を探しているんですか?」
「ゴルフクラブのような武器です」
「やっぱり……」
魔王が苦笑した。
「ここ、武器屋なんだけどな」
「でも、あるんですよ」
五利武が棚を指差した。
そこには――。
本当に大量のゴルフクラブのような武器が並んでいた。
「こんなに?」
魔王が驚く。
「王都の武器屋って何でもあるんだな……」
五利武は一本目を手に取った。
「これは……」
先端が大きく曲がっている。
「曲がったゴルフクラブですね」
魔王が言う。
「はい」
五利武が軽く振る。
シュッ。
「どうですか?」
魔王が聞く。
「打ったボールが曲がりそうです」
「なるほど」
次のクラブ。
今度は――。
持ち手から先端まで、全体がゆるやかに湾曲している。
「これは?」
「曲がるゴルフクラブですね」
「そのまんまだ」
五利武が構える。
軽く振る。
クラブがしなる。
グニッ。
「おお……」
勇気が声を上げる。
「本当に曲がりました」
「面白いですね」
五利武は感触を確かめる。
しかし、首を横に振った。
「これは少し扱いづらいですね」
「プロだからこそ分かる違いか」
魔王が感心する。
次は――。
真っ直ぐなクラブ。
「これは?」
「真っ直ぐ飛ぶゴルフクラブ、と書いてあります」
五利武が見る。
「……」
魔王が笑う。
「名前がもう性能説明だね」
「分かりやすいです」
五利武はそれを手に取る。
構える。
「……」
フォームを確認。
「これは悪くないですね」
シュッ。
素振り。
「確かに振りやすい」
昆布も横から見ている。
「五利武さんなら、そもそもボールの方向をかなり自由に調整できるのでは?」
「そうですね」
五利武は頷いた。
「魔王様の言う通りです」
魔王も言う。
「五利武さんなら、好きなようにボールをコントロールして打てますよね」
「そうですね」
五利武は当然のように答えた。
魔王軍は、その返事を聞いて納得する。
プロゴルファーなのだから当然だ。
「じゃあ、曲がるクラブは必要ないか」
魔王が言う。
「そうですね」
「真っ直ぐ飛ぶクラブも?」
「技術で調整できます」
「なるほど……」
魔王は頷いた。
「じゃあ、あとは……」
五利武が棚を見回した。
「飛距離ですね」
「飛距離?」
「はい」
五利武は頷く。
「方向や弾道は自分で調整できます。でも、飛距離を伸ばせる武器なら、今まで以上の打撃が可能になるかもしれません」
「なるほど」
昆布が頷いた。
「五利武さんの長所をさらに伸ばす装備ですね」
「そういうことです」
五利武は次々とクラブを見ていく。
「これは短い」
戻す。
「これは重い」
戻す。
「これは軽すぎる」
戻す。
「これは……」
握ってみる。
「少し先端が大きいですね」
戻す。
その様子を見ていた魔王。
「五利武さん、完全にゴルフショップにいるみたいだな」
「武器屋です」
昆布が訂正する。
「そうだった」
魔王も頷く。
「でも、見ている物が完全にゴルフクラブなんだよな」
そのときだった。
「……おっ!」
五利武の声が店内に響いた。
魔王が振り返る。
「何か見つかった?」
五利武は一本のクラブを手にしていた。
他のクラブと比べると、見た目は普通。
しかし、握った瞬間――。
五利武の表情が変わった。
「……」
軽く構える。
そして――。
シュッ!
素振り。
もう一度。
シュッ!
さらに――。
シュッ!
「これ良いな」
五利武が呟いた。
魔王が近づく。
「それはどんなゴルフクラブですか?」
五利武はクラブを確認する。
「……飛距離が出そうです」
「飛距離?」
「はい」
クラブの柄に小さな文字が刻まれている。
五利武が読む。
「『良く飛ぶゴルフクラブ』と書いてあります」
魔王が笑った。
「また名前がそのままだ!」
勇気も笑う。
「分かりやすいですね」
昆布はクラブを確認する。
「性能が明確なのは良いことです」
「でも、本当に飛ぶのかな?」
魔王が聞く。
店員が近づいてきた。
「もちろんです」
「そんなに?」
「はい。このクラブは飛距離を伸ばすことに特化しています」
五利武が聞く。
「どのくらいですか?」
「使用者によります」
「なるほど」
店員は続けた。
「ただし、元々の技術が高い人ほど、その性能を引き出せます」
五利武がクラブを見る。
「……」
魔王も五利武を見る。
「それって……」
昆布が先に言った。
「五利武さん向きですね」
「はい」
五利武が頷く。
魔王も笑った。
「五利武さんはゴルフが上手だから、あとは飛距離を伸ばすだけですね」
「そうですね」
五利武はクラブを握り直した。
「これなら、さらに遠くまで飛ばせそうです」
「でも」
魔王が少し不安そうに言う。
「モンスターを打ったら、遠くに飛びすぎない?」
五利武が考える。
「……」
「例えば山の向こうまで」
「可能性はありますね」
「街の外まで?」
「あるかもしれません」
「王都の外まで?」
「条件が良ければ」
魔王は少し黙った。
「……やっぱり、打つ場所は考えよう」
昆布が頷く。
「重要です」
「はい」
五利武も頷いた。
「飛距離が伸びるということは、攻撃範囲も広がります」
「そうだな」
魔王が言う。
「でも、できれば戦わずに済ませたいから、必要なときだけ使おう」
「分かりました」
五利武は素直に答えた。
その横で、殴打が魔法のバットを持ってやってきた。
「五利武さん、それに決めたんですか?」
「はい」
五利武がクラブを見せる。
「飛距離が出るクラブです」
殴打が頷く。
「私の魔法のバットも、どんな魔法になるのか楽しみです」
「お互い、楽しみですね」
五利武が言った。
二人はそれぞれの武器を見る。
魔法のバット。
よく飛ぶゴルフクラブ。
魔王は二人を見て笑った。
「なんだろう」
「どうしました?」
勇気が聞く。
「この二人だけ、武器屋に来たというよりスポーツ用品店に来たみたいになってる」
「確かに」
昆布も頷いた。
そこへ母さんがやってきた。
「二人とも、何を買ったの?」
「私は魔法のバットです」
殴打が答える。
「僕は、よく飛ぶゴルフクラブです」
五利武も答える。
母さんは嬉しそうに頷いた。
「まあ、二人とも自分に合った物を見つけたのね」
「はい」
五利武はクラブを持って構えた。
「これでお願いします」
店員が頷く。
「ありがとうございます」
魔王がお金を支払う。
五利武は新しいクラブを大切そうに持った。
「これから使い込んでみます」
「そうですね」
昆布が言う。
「使っていくうちに、何か特殊な能力が判明する可能性もあります」
「このクラブにも魔法が?」
五利武が店員を見る。
店員は笑った。
「もちろん」
「……」
五利武の目が輝いた。
「どんな魔法ですか?」
「それは――」
店員が少し間を置く。
「使ってみてのお楽しみです」
「なるほど」
五利武はクラブを握る。
「楽しみですね」
魔王軍はまた一つ、重要な装備を手に入れた。
ゴプリンの鋼鉄プリンカップ。
殴打の魔法のバット。
そして――。
五利武の、よく飛ぶゴルフクラブ。
しかし、まだ武器屋には大量の商品が残っている。
「さて……」
魔王が店内を見回した。
「次は誰の番かな?」
便意は魔法杖の棚を見ている。
鍋は調理器具らしき武器を見ている。
勇気は勇者用装備を眺めている。
父さんは防具売り場を見ている。
そして昆布は――。
店内の奥にある、妙に大きな棚を見つめていた。
「……」
魔王が声をかける。
「昆布さん?」
昆布はゆっくり振り返った。
「魔王様」
「何か見つけた?」
昆布は棚を指差した。
「はい」
そこには――。
『軍師・指揮官向け装備』
と書かれた札があった。
魔王は嫌な予感がした。
「……昆布さん専用コーナー?」
昆布は真剣な顔で頷いた。
「調査する必要があります」
魔王軍の武器探しは――まだ終わらない。




