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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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魔法のバット!

王都の武器屋。


ゴプリンが鋼鉄のプリンカップを装備して、店内の一角が妙に盛り上がっていた。


「……」


ゴプリンは自分の頭を覆っている鋼鉄のプリンカップを確認している。


格子状になった目の部分。


頑丈な鋼鉄。


そして、接着剤による完璧な固定。


「……プリン」


ゴプリンは満足そうだった。


魔王も頷く。


「これなら安心だな」


母さんも嬉しそうに笑っている。


「よかったわね、ゴプリンちゃん」


そんな中――。


一人だけ、別の売り場に夢中になっている男がいた。


殴打である。


殴打は武器屋の奥にある武器を、一つずつ手に取っていた。


「……」


まずは、バットに似た武器。


手に取る。


握る。


軽く振る。


「……」


もう一度振る。


「……違うな」


棚に戻す。


次は、少し太いバット。


「これは……」


握る。


構える。


シュッ!


「……」


さらに振る。


シュッ!


「……悪くない」


しかし、戻す。


次に、金属製の棒。


「これは?」


握る。


振る。


ブンッ!


「重いですね」


五利武が横から言った。


「そうですね」


殴打は答える。


「バットとしては少し重い」


「でも、武器としては強そうですよ」


五利武が言う。


「野球選手にとっては、バットは武器ではなく道具ですから」


「……なるほど」


魔王が横から聞いていた。


「なんか深い話になってない?」


昆布も近づいてくる。


「殴打さんは、かなり慎重に選んでいますね」


「はい」


殴打は真剣な顔だった。


「自分の身体に合うものを探しています」


そう言って、次の商品を手に取った。


今度はグローブに似たものだった。


「これは……グローブ?」


殴打が手を入れる。


「大きいですね」


パシッ。


軽く手を動かす。


パシッ。


もう一度。


パシッ。


「捕球には使えそうです」


五利武も手を伸ばす。


「貸してください」


「どうぞ」


五利武がグローブを受け取る。


手を入れる。


「……」


「どうですか?」


殴打が聞く。


「少し大きいですね」


「僕はちょうどいいです」


「そうですか」


二人はしばらくグローブを見ていた。


魔王が言う。


「ここ武器屋なんだけどな……」


店員が聞いていた。


「この辺りは打撃系の装備になります」


「打撃系?」


「はい。魔物と戦う冒険者の中には、剣よりも打撃武器を好む方もいます」


「なるほど」


魔王は納得した。


「じゃあ、バットみたいなものがあっても不思議じゃないのか」


「はい」


そのとき、殴打が別の商品を手に取った。


今度は――。


野球ボールに似た球だった。


「……」


殴打が手のひらに乗せる。


「ボール?」


五利武が覗き込む。


「ボールですね」


「何に使うんでしょう?」


勇気もやってくる。


殴打はボールを軽く握った。


そして――。


「投げてみます」


「ここで?」


魔王が慌てる。


「店内ですよ」


殴打は止まった。


「……そうでした」


「危ないからね」


「すみません」


店員も笑う。


殴打が


「そもそも、玉い速って書いてありますけど、間違えてますよ」


「いえ、そのボールを持っていると足が速くなるんですよ」


「投げるボールじゃないんですか?」


「持って走る用です」


店員が説明した。


「試すのは裏の訓練場でできますよ」


「訓練場があるんですか?」


昆布が驚いた。


「王都の武器屋ですから」


店員は当然のように答えた。


「武器を買ったお客様が試せるようになっています」


「便利ですね」


魔王は感心した。


「本当に何でもありますね」


しかし殴打は、まだ決めていなかった。


バット。


グローブ。


ボール。


それぞれ似たものを手に取っては戻していく。


「これは違う」


「これも違う」


「うーん……」


そして――。


棚の奥。


少し目立たない場所に、一本のバットが置かれていた。


見た目は普通だった。


特別に巨大でもない。


異様に重そうでもない。


派手な装飾もない。


ただの木製バットに見える。


殴打が手に取った。


「……」


握った瞬間。


殴打の表情が変わった。


「……これだ」


「え?」


魔王が振り返る。


殴打はバットを構えた。


そして――。


シュッ!


素振り。


シュッ!


もう一度。


シュッ!


さらにもう一度。


シュッ!


「……」


何度も何度も素振りをする。


その姿を見て、五利武が笑った。


「しっくりきたんですね」


「はい」


殴打は答えながら、また素振り。


シュッ!


シュッ!


シュッ!


「殴打さん」


魔王が声をかける。


「はい」


「バットありました?」


殴打が振り返った。


「魔王様、ありました」


「よかったですね」


「はい」


殴打は嬉しそうだった。


しかし魔王は、ふと疑問に思った。


「材質は何ですか?」


殴打がバットを見る。


軽く叩いてみる。


コン。


「材質は普通のバットみたいですけどね」


「普通?」


「はい」


魔王はバットを眺める。


見た目も普通。


重さも普通。


握った感触も普通。


「何か特徴あるんですか?」


殴打がバットを裏返す。


そこに小さな文字が書いてあった。


「……」


殴打が読む。


「『魔法のバット』って書いてあります」


「魔法のバット!?」


魔王が驚いた。


五利武も覗き込む。


「本当ですね」


勇気も見る。


「魔法のバット……」


昆布が冷静に言った。


「それなら、普通のバットとは何か違うのでしょう」


魔王が店員を見る。


「何の魔法ですか?」


店員は少し笑った。


「それは……」


魔王軍全員が店員を見る。


「……」


店員がバットを見る。


「使ってみないと分かりません」


「分からないんですか?」


魔王が驚く。


「はい」


殴打もバットを見る。


「何の魔法なんでしょうね?」


店員が説明する。


「このバットは、持ち主によって使える魔法が変わるんです」


「持ち主によって?」


昆布が反応した。


「つまり、誰が持っても同じ魔法になるわけではない、と」


「その通りです」


店員は頷く。


「使い続けていると、持ち主の性質や得意分野に合わせて、バットが魔法を覚えていきます」


「なるほど……」


魔王は殴打を見る。


「じゃあ、殴打さん専用の魔法になる可能性があるんですね」


「はい」


殴打はバットを握り直した。


「俺は何の魔法使えるようになるのかな?」


「それは楽しみですね」


勇気が笑う。


五利武も言う。


「殴打さんなら、打撃に関係する魔法かもしれませんね」


「例えば?」


殴打が聞く。


五利武は考えた。


「ものすごく飛ぶ魔法とか」


「ホームラン魔法?」


魔王が言った。


「そんな魔法あるのかな」


昆布が考える。


「飛距離を伸ばす魔法なら、可能性はあります」


「じゃあ、敵を遠くまで飛ばす魔法?」


殴打が言う。


「それは……」


魔王が少し考える。


「今までの殴打さんとあまり変わらないような」


「確かに」


殴打が頷く。


「魔法になった意味がないですね」


「ですよね」


全員が笑った。


すると、ゴプリンが近づいてきた。


「……」


鋼鉄のプリンカップをかぶったまま、殴打のバットを見る。


「ゴプリンも興味あるの?」


母さんが聞く。


「……」


ゴプリンはバットを見る。


そして、自分の鋼鉄プリンカップを見る。


「……」


魔王がその視線に気づいた。


「ゴプリン、まさかバットも欲しいの?」


「……」


ゴプリンは首を横に振った。


「……プリン」


「プリンを守ることしか考えてないな」


魔王が笑う。


母さんも笑った。


「ゴプリンちゃんは、それでいいのよ」


その横で、殴打は再び素振りを始めた。


シュッ!


シュッ!


シュッ!


「やっぱり、これですね」


殴打はバットを気に入っていた。


店員が言う。


「よくお似合いです」


「ありがとうございます」


殴打はバットを大切そうに持った。


魔王は少し考える。


魔王軍には、これから王都で様々な冒険が待っている。


ゴプリンには鋼鉄のプリンカップ。


そして今度は殴打に魔法のバット。


「じゃあ――」


魔王は殴打を見る。


「それにしてみますか?」


殴打は嬉しそうに頷いた。


「はい、魔王様」


魔王は店員に向き直る。


「これ、お願いします」


「ありがとうございます」


店員が魔法のバットを受け取る。


そして会計をする。


魔王がお金を支払う。


「はい、これで」


「ありがとうございます」


殴打は魔法のバットを受け取った。


「……」


一度、握る。


シュッ。


軽く振る。


シュッ。


「いいですね」


殴打の顔が少し嬉しそうになった。


魔王も頷く。


「よかったですね」


「はい」


殴打はバットを見つめる。


「これから使い続けたら、本当に魔法が使えるようになるんですよね?」


店員が答える。


「はい。ただし、どんな魔法になるかは分かりません」


「楽しみですね」


昆布が言った。


「殴打さんの性格や戦い方を考えると、かなり面白い魔法になるかもしれません」


「どんな魔法だろうな」


父さんも興味を持つ。


母さんも笑う。


「もしかしたら、プリンが出てくる魔法かもしれないわよ」


「それはゴプリンさんが喜びますね」


勇気が言う。


「……プリン」


ゴプリンが反応した。


「そこだけ聞こえるんだ」


魔王が笑った。


そして魔王軍は、次の装備を探すために店内を見回した。


ゴプリンは鋼鉄のプリンカップ。


殴打は魔法のバット。


残るメンバーにも、それぞれ似合う装備があるかもしれない。


魔王は店内を見渡す。


「次は誰を見に行こうかな……」


そのとき――。


別の棚から、何かが落ちた。


ガタン!


全員が振り返る。


「……?」


昆布が目を細める。


そこには、五利武が立っていた。


そして、その手には――。


一本の奇妙な棒が握られていた。


「……これ、ゴルフクラブに似ていますね」


五利武が呟いた。


魔王は思わず笑った。


「やっぱり次は五利武さんか……」


王都の武器屋。


魔王軍の装備探しは、まだまだ終わりそうになかった。

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