新プリンカップ!
「いらっしゃいませ!」
武器屋の扉を開けると、威勢のいい声が店内に響いた。
魔王軍の一行は、ぞろぞろと店内へ入っていく。
王都の武器屋だけあって、店の中は想像以上に広かった。
壁には剣。
その隣には槍。
さらにその隣には弓。
棚には短剣、斧、棍棒、杖、鎧、兜、籠手、靴。
そして――。
「……これは何に使うんだ?」
魔王が、棚の奥に置かれていた妙な金属製の道具を見つめた。
「武器でしょうか?」
勇気も覗き込む。
「武器にしては、先端が丸いですね」
「鍋の仲間じゃないですか?」
鍋が真顔で言った。
「なんで武器屋に鍋が売ってるんだよ」
魔王が突っ込む。
「武器屋だからこそ、武器になる鍋があるのかもしれません」
昆布が冷静に分析した。
「鍋さん、それ買う?」
「少し気になります」
「料理に使うんだろ?」
「はい」
「武器屋で買う意味ある?」
「王都の鍋なら、料理がおいしくなるかもしれません」
「そんなブランド鍋みたいな……」
魔王が頭を抱えている間にも、他の魔王軍は店内を見回していた。
そこには、本当に様々な商品が並んでいた。
刃の部分が三本に分かれている剣。
柄が異常に長い斧。
なぜか持ち手が二つ付いた盾。
そして、用途がまったく分からない巨大な金属棒。
五利武がそれを手に取ろうとする。
「これはクラブに似ていますね」
「ゴルフクラブ?」
「はい。ただし、かなり大きいです」
殴打も近づいてきた。
「バットにも見えますね」
「スポーツ用品売り場じゃないんだから」
魔王が突っ込む。
店員が遠くから説明した。
「そちらは『巨人用打撃棒』です!」
「巨人用!」
殴打と五利武の目が輝いた。
魔王は嫌な予感がした。
「……買わないよ」
「まだ何も言ってません」
殴打が言った。
「顔に出てる」
「残念です」
五利武が棒を棚に戻した。
その一方で――。
ゴプリンは、まったく違う方向へ歩いていた。
「……」
ゴプリンは静かだった。
いつものように、編笠をかぶっている。
その下には、あのプリンの顔。
そして全身を覆う分厚い筋肉。
ゴプリンほどの体格になると、そもそも武器が必要なのかどうか、誰にも分からなかった。
「ゴプリンちゃん、何か欲しいものあるの?」
母さんが声をかける。
「……」
ゴプリンは答えない。
棚を一つずつ見ている。
剣。
斧。
槍。
鎧。
籠手。
兜。
どれを見ても、ゴプリンは特に反応しない。
ところが――。
ある商品棚の前で、ゴプリンが止まった。
「……」
じっと見ている。
かなり長い。
「ゴプリンさん、何を見てるんでしょう?」
勇気が近づく。
「……」
ゴプリンは動かない。
「かなり興味を持っていますね」
昆布も様子を見る。
「武器かな?」
魔王も近づこうとした。
しかし、その前に母さんが商品を確認した。
「あら」
母さんが商品を見た。
そして、ゴプリンを見る。
もう一度、商品を見る。
「……」
母さんは確信したような顔をした。
「ゴプリンちゃん」
「……」
「絶対にこれ必要ね」
「え?」
魔王が振り返る。
「何?」
母さんは少し離れたところにいる魔王を手招きした。
「魔王。こっち」
「何か見つかった?」
「ええ。これは絶対に必要よ」
魔王は母さんのところまで歩いていく。
そして――。
商品を見た。
「…………」
魔王は固まった。
「……まさか」
母さんが頷く。
「そうなの」
魔王は商品をじっくり見る。
「まさか、こんな物まであるとは……」
そこに置かれていたのは――。
鋼鉄のプリンカップ。
しかも普通のプリンカップではない。
分厚い鋼鉄で作られている。
頑丈な縁。
しっかりとした底。
そして、側面には何本もの補強用の金属板。
さらに目の部分には――。
細かい格子状の穴が開いていた。
「…………」
魔王は言葉を失った。
母さんが嬉しそうに言う。
「これならゴプリンちゃんのプリンを守れるわ」
「いや……」
魔王は商品を持ち上げる。
「これはもう、防具だな」
昆布も確認する。
「頭部防具として考えるなら、かなり理にかなっています」
「プリンを守るための防具……」
勇気も感心する。
「ゴプリンさんには必要ですね」
父さんも商品を見る。
「これはいい」
「父さんまで?」
「俺のメンタルガードとは違う方向の防御だな」
「そりゃそうだよ」
父さんは鋼鉄プリンカップを見ながら頷いた。
「頭部を完全に守れる」
「いや、ゴプリンの場合は頭というよりプリンだけどね」
「重要なのはそこだ」
「そこなんだ」
その横で、殴打も覗き込んだ。
「これはすごいですね」
五利武も頷く。
「プリンカップなのに、かなり頑丈そうです」
鍋までやってきた。
「これなら厨房でも使えそうですね」
「使うな」
魔王が即座に止めた。
「これはゴプリン専用」
「分かりました」
鍋は素直に離れた。
そしてゴプリンは――。
「……」
鋼鉄のプリンカップを見つめていた。
魔王はゴプリンの肩に手を置いた。
「ゴプリン」
「……」
「これ、買おう」
ゴプリンが魔王を見る。
しばらく黙っている。
そして――。
「……ありがとう」
短い言葉だった。
しかし、その声には明らかに嬉しさがあった。
「よかったわね、ゴプリンちゃん」
母さんが笑う。
「……うん」
ゴプリンは鋼鉄のプリンカップを大切そうに持った。
店員が近づいてくる。
「こちら、ゴプリン様用に調整できますよ」
「調整できるんですか?」
昆布が尋ねた。
「はい。頭部……いえ、プリン部分のサイズに合わせられます」
「プリン部分って正式な呼び方なんですか?」
魔王が聞いた。
店員は真顔で答えた。
「当店ではそう呼んでおります」
「この店、プリン装備の需要があるの?」
魔王が驚く。
店員は少し考えた。
「……最近は増えております」
「増えてるの!?」
全員が驚いた。
「王都では、いろいろなモンスターが来ますから」
店員は慣れた様子で説明する。
「角を守りたい方、耳を守りたい方、髪型を守りたい方、そして……」
店員はゴプリンを見る。
「プリンを守りたい方」
「ゴプリンちゃん、専門家向けだったのね」
母さんが笑った。
「……プリン」
ゴプリンは嬉しそうだった。
店員は鋼鉄のプリンカップをゴプリンの頭に合わせる。
まず、ゴプリンは編笠を脱いだ。
「……」
全員が注目する。
編笠が外れる。
そこには――。
いつものプリンがあった。
「やっぱりプリンだ」
魔王が言った。
「プリンですね」
勇気も頷く。
「プリンです」
昆布も確認する。
「……プリン」
ゴプリン本人も言った。
「本人が言うんだ」
魔王が笑う。
そして店員が鋼鉄のプリンカップを慎重にかぶせた。
「目の部分はこちらです」
格子状の部分が、ゴプリンの目の位置に合う。
「おお……」
魔王軍全員から声が漏れた。
「すごい」
「完全に防具ですね」
「なんか強そう」
「いや、もともと強いけど」
鋼鉄のプリンカップを装備したゴプリン。
さらに、店員がゴプリンの顔を確認する。
「少し動きますね」
「……」
ゴプリンが左右を見る。
鋼鉄のカップも一緒に動く。
問題ない。
「次に固定します」
店員は専用の接着剤を取り出した。
「接着剤もあるんだ……」
魔王が驚く。
「もちろんです」
「何に使う接着剤なんですか?」
「特殊防具用です」
「特殊防具用……」
店員が慎重に固定作業を進めていく。
「右側、固定」
「左側、固定」
「後ろ、固定」
「前面、確認」
最後に、軽く押してみる。
びくともしない。
「固定も完璧です」
昆布が確認する。
「素晴らしい」
父さんも頷いた。
「これなら安心だな」
母さんはゴプリンの頭を優しく撫でようとして――。
鋼鉄のカップに触れた。
「カンッ」
「硬いわね」
「そりゃ鋼鉄だからね」
魔王が笑う。
ゴプリンはゆっくり歩いてみる。
一歩。
二歩。
三歩。
以前ならプリンが落ちないように慎重に歩いていた。
しかし――。
「……」
普通に歩いている。
しかも、かなり速い。
「ゴプリンさん!」
勇気が驚く。
「歩く速度が上がっています!」
昆布が分析する。
「プリンを守ることを考えなくてよくなったので、身体能力をそのまま発揮できるようになったのでしょう」
ゴプリンが少しだけ速く歩く。
「……」
さらに速くなる。
「ちょっと待って」
魔王が慌てる。
「店の中では走らないで!」
ゴプリンが止まる。
「……ごめん」
「いや、いいんだけど……」
魔王は改めてゴプリンを見る。
鋼鉄のプリンカップ。
格子状の目。
編笠を脱いだことによって、今まで以上に顔がはっきりしている。
しかも全身筋肉。
「……なんか」
魔王が呟く。
「どう見てもボスだな」
「……プリン」
「本人はプリンだけどね」
すると、店員が別の商品を持ってきた。
「こちらの装備も組み合わせられますよ」
「まだあるんですか?」
魔王が驚く。
店員が出してきたのは――。
鋼鉄製の小さな皿だった。
「これは?」
昆布が尋ねる。
「予備のプリン皿です」
ゴプリンの目が格子の奥で輝いた。
「……」
じーっ。
「ゴプリンちゃん」
母さんが笑う。
「欲しいの?」
「……」
ゴプリンは頷いた。
「魔王」
母さんが振り返る。
「今度はお皿も必要みたい」
「装備がどんどんプリン屋になってる……」
魔王は苦笑した。
しかし、その一方で――。
店内にはまだ大量の商品が並んでいる。
剣。
槍。
鎧。
魔法杖。
奇妙な道具。
そして、魔王軍それぞれの能力に合いそうな装備も、まだいくつもありそうだった。
殴打はバット型の武器を探している。
五利武はゴルフクラブに似た武器を探している。
便意は魔法杖の棚を見ている。
鍋はなぜかフライパンの棚を見ている。
父さんは防具売り場を見ている。
勇気は勇者用装備を眺めている。
昆布は店内全体を見渡していた。
そして魔王は――。
「……俺は便利屋だから、武器はいらないかな」
そう言った瞬間。
店員が一つの商品を取り出した。
「では、こちらはいかがでしょう?」
「何ですか?」
「便利屋用万能武器です」
「便利屋用?」
魔王が目を丸くする。
その商品を見た魔王軍全員が、一斉に近づいてきた。
「魔王様」
昆布が言った。
「これは調査する価値があります」
魔王は商品を見つめた。
「……嫌な予感しかしない」
王都の武器屋。
ゴプリンの鋼鉄プリンカップに続いて――。
今度は誰が、どんな奇妙な装備を手に入れるのか。
魔王軍の装備探しは、まだ始まったばかりだった。




