王都
魔王軍と商人は、ついに王都へ到着した。
巨大な城壁。
大きな門。
そして、その向こう側には、これまで見たことのないほど大きな街が広がっていた。
人々が行き交い、商店が並び、馬車が走っている。
遠くには大きな建物や塔も見える。
魔王は王都を見上げた。
「……大きいな」
五利武も周囲を見渡す。
「本当に大きいですね」
殴打が言う。
「人も多いです」
鍋も驚いている。
「こんなに人がいるんですね」
便意はスマートフォンを取り出して、周囲を見回した。
「電波……あるかな」
魔王が振り返る。
「ここ、異世界だよ?」
「そうでした」
便意はスマートフォンをしまった。
ゴプリンはというと――
相変わらず虚無僧風の編笠をかぶっていた。
その下には、ぷるんとしたプリン。
王都の人々がゴプリンを見る。
「……」
「……」
「……」
何人かが振り返る。
ゴプリンも振り返る。
「……」
魔王が小声で言う。
「ゴプリン、見られてるよ」
「……うん」
「大丈夫?」
「……プリン……守る」
「そこなんだ」
昆布は苦笑した。
そのとき商人が荷車を止めた。
「皆さん」
魔王軍が振り返る。
「ここまで来れば、王都です」
商人はほっとした表情をしていた。
魔王も頷く。
「それでは――」
魔王軍全員が商人の方を向いた。
「護衛任務は完了ですね」
「はい」
商人は深く頭を下げた。
「皆さん、本当にありがとうございました」
そして商人は報酬を取り出した。
「こちらは報酬です」
魔王が受け取る。
「ありがとうございます」
そして笑顔で、
「また、ご依頼よろしくお願いします」
と言った。
商人も笑う。
「もちろんです」
殴打が小声で言った。
「次はどんな依頼でしょうね」
五利武も、
「また護衛でしょうか」
昆布は腕を組んだ。
「依頼は内容次第ですね」
父さんが言う。
「できれば、危険じゃない仕事がいいな」
魔王が頷く。
「僕もです」
母さんが笑う。
「でも、皆で行くと楽しいわね」
ゴプリンも、
「……うん」
と答えた。
すると魔王が商人に言った。
「せっかくなので、武器屋まで一緒に行きましょう」
「え?」
商人が驚く。
「いいんですか?」
「はい」
魔王は荷車を見る。
「荷車もありますし、交代で押していけばいいですよ」
「ありがとうございます!」
こうして魔王軍は、王都の中を商人と一緒に歩くことになった。
商人が荷車を押す。
「よいしょ……」
しばらくすると、殴打が交代する。
「私が押します」
「ありがとうございます」
さらに五利武。
「次は私が」
「ありがとうございます」
鍋。
「私も押します」
父さん。
「俺もやるぞ」
母さん。
「私も少しなら」
便意。
「僕もやります」
そして――
「次、ゴプリンさんお願いできますか?」
昆布が聞く。
ゴプリンは荷車を見る。
「……」
両手で持つ。
「……持つ」
グッ。
ゴゴゴゴゴ……
荷車がものすごい勢いで動き始めた。
「ちょっと待って!」
魔王が叫ぶ。
「ゴプリンさん、速いです!」
ゴプリンは慌てて速度を落とす。
「……ごめん」
「いえ、助かってます」
商人は笑った。
「皆さん、本当に親切ですね」
魔王軍は王都の大通りを進んでいく。
魔王が周囲を見渡す。
「王都は広いし、人が多いですね」
「そうですね」
商人が答えた。
「ここは王国でも一番大きな都市ですから」
昆布が周囲を観察する。
人。
馬車。
商店。
冒険者らしき人。
武器を持った人。
魔法使いらしき人。
そして――
「あれ?」
勇気が立ち止まりそうになる。
「どうしました?」
魔王が聞く。
「あそこにいる人……」
勇気が指差した。
そこには剣を持った若者が歩いていた。
背中には大きな盾。
腰には剣。
「勇者……?」
魔王が呟く。
商人が頷く。
「王都には勇者もいますよ」
「勇者も?」
魔王軍全員が驚いた。
「勇者とモンスター!」
魔王が思わず叫んだ。
「両方いるんですか?」
「はい」
商人は何でもないことのように答える。
「王都ですから」
魔王軍は顔を見合わせた。
昆布が確認する。
「モンスターも王都に入れるんですか?」
「はい」
「普通に?」
「安全なモンスターだけです」
魔王軍はゴプリンを見る。
ゴプリンも魔王軍を見る。
「……」
「……」
魔王が言う。
「ゴプリンは安全なモンスターだよね?」
ゴプリンは少し考えた。
「……たぶん」
「たぶんなんだ」
昆布が苦笑する。
「ゴプリンさんは、今のところ魔王軍の仲間ですし、問題ないでしょう」
商人も頷いた。
「王都では、人間とモンスターが一緒に暮らしている場所もあります」
「へえ……」
母さんが感心する。
「じゃあ、ゴプリンちゃんも普通に歩けるのね」
「はい」
しかし、商人は少し声を落とした。
「ただ――」
「ただ?」
魔王が聞く。
「王都なので、たまに事件が起きたりします」
「……」
魔王軍の足が少し止まった。
昆布が聞く。
「事件ですか?」
「はい」
商人が答える。
「モンスター同士の騒ぎだったり、盗難だったり、勇者とモンスターのトラブルだったり……」
魔王が眉をひそめる。
「やっぱり、治安は悪いのか」
商人は苦笑した。
「大都市ですからね」
昆布は周囲を見る。
確かに人が多い。
人が多いということは、それだけいろいろな人がいる。
勇者。
冒険者。
商人。
魔法使い。
そしてモンスター。
魔王軍も、その中の一組だった。
魔王が小声で言う。
「なんか……僕たち、王都に来たら普通に紛れ込めそうだね」
昆布が答える。
「そうですね」
「魔王軍なのに?」
「そこが問題です」
「やっぱり?」
ゴプリンが前を見た。
「……プリン屋……ある?」
「探すの早いな!」
魔王が突っ込む。
母さんが笑った。
「王都なら美味しいプリン屋さんもあるかもしれないわね」
ゴプリンの目が少し輝いた。
「……!」
「ゴプリンちゃん、元気になったわね」
父さんが笑う。
「プリンがあれば大丈夫なんだろ」
「……大事」
そんな話をしながら、魔王軍は王都の大通りを進んでいった。
しばらく歩くと――
商人が前を指差した。
「あそこです」
「どこですか?」
魔王が見る。
大きな看板が出ていた。
そこには、
『王都武器商会』
と書かれている。
「おお!」
殴打が声を上げる。
「武器屋です!」
五利武も頷く。
「ようやくですね」
商人が荷車を止めた。
「ここで武器を仕入れます」
魔王軍も店の前に立つ。
店の入り口には、巨大な剣。
その横には槍。
斧。
弓。
そして、見たこともないような形の武器まで並んでいる。
魔王が店を見上げる。
「……すごいな」
昆布も店を観察する。
「品揃えがかなり多そうです」
殴打はバットを持っている。
五利武はゴルフクラブを持っている。
便意はスマートフォンを持っている。
鍋は鍋を持っている。
ゴプリンはプリンを守る編笠をかぶっている。
父さんは――何も持っていない。
魔王も素手。
店の前で、全員が一度顔を見合わせた。
魔王が言った。
「……さて」
昆布が頷く。
「武器を見てみましょう」
商人が店の扉を開ける。
カランカラン――。
店内から声が聞こえた。
「いらっしゃい!」
魔王軍は武器屋へ入っていった。
そこには、まだ誰も見たことのない武器が大量に並んでいた。




