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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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荷車は止まらない

 荷車は、坂道をものすごい勢いで下っていた。


 ガタガタガタガタ――!


 車輪が地面の小石を跳ね飛ばしながら回転している。


 その荷車の上には、魔王軍の仲間たちが何段にも重なるようにして乗っていた。


 下には、


 殴打。

 五利武。

 ゴプリン。

 父さん。

 魔王。

 鍋。


 その上には、


 便意。

 勇気。

 母さん。

 昆布。


 全員、荷車から振り落とされないように必死につかまっている。


 後ろからは――


「ゴオオオオオオオオオオオッ!」


 巨大カエルの鳴き声。


 いや、もはや鳴き声というより、地面そのものが震えているような音だった。


 巨大カエルは何度も大きくジャンプしていた。


 ドンッ!


 着地。


 ドドンッ!


 また着地。


 そして――


 ビュンッ!


 長い舌を伸ばしてくる。


「うわあああああ!」


「また来た!」


「つかまってください!」


 昆布が必死に周囲を確認する。


 そして、ふと上に乗っている便意を見る。


「便意さん!」


「はい!」


「巨大カエルに魔法を使って下さい!」


「わかりました!」


 便意は片手で荷車につかまりながら、もう片方の手を巨大カエルへ向けた。


「ウォーター!」


 ドシュッ!


「うわっ!」


 便意の手から、水圧ビームが飛び出した。


 水圧ビームは坂道を下ってくる巨大カエルへ向かって一直線に飛んでいく。


 しかし――


 巨大カエルの体に水がかかった。


 巨大カエルは、


「ゴオ?」


 と、少し首を傾げただけだった。


 昆布が即座に叫ぶ。


「便意さん!」


「はい!」


「カエルに水をかけるのは逆効果です!」


「えっ?」


「水を得た魚になるだけです!」


 魔王が振り返った。


「昆布さん、それ……カエルですよ」


「……」


「魚じゃないですよ」


「例えです!」


「なるほど」


 魔王は納得した。


 その横で父さんが言った。


「でも、確かにカエルに水は効かなそうだな」


 母さんも頷く。


「カエルさん、水好きそうだものね」


 ゴプリンも、


「……水……好き」


 と呟いた。


 巨大カエルは元気そうにジャンプしている。


「ゴオオオオッ!」


 ドンッ!


「やっぱり元気ですね」


 魔王が言った。


 昆布は真剣な顔で考えた。


「では……別の魔法です」


「別の魔法?」


「便意さん」


「はい」


「氷の魔法は使えますか?」


 便意は少し考えた。


「氷……ですか」


「はい」


「やってみます」


 便意は再び手を巨大カエルへ向けた。


「冷気の魔法――」


 一瞬、風が止まった。


「アイスウィンド!」


 シュウウウウ……


 便意の手から、ほんの少し冷たい空気が流れた。


「……」


「……」


「……」


 魔王軍全員が黙った。


 冷たい風は、便意の手からほんの少し出ただけだった。


 そして消えた。


 昆布が言った。


「便意さん」


「はい」


「続けて下さい」


「わかりました」


 便意は気合を入れた。


「アイス!」


 シュッ。


「アイス!」


 シュッ。


「アイス!」


 シュッ。


「アイス!」


 シュッ。


「アイス!」


 シュッ。


 何度も唱える。


 すると――


 少しずつ周囲の空気が冷たくなってきた。


「……あれ?」


 魔王が腕をさする。


「なんか寒くない?」


「寒いですね」


 殴打が言った。


「確かに寒い」


 五利武も言う。


「ゴプリンさん、大丈夫ですか?」


 勇気が聞く。


 ゴプリンは帽子の中のプリンを確認しながら、


「……寒い」


 と言った。


「プリンも寒いのかな?」


 母さんが心配する。


「……冷えたプリンになりそう……たぶん」


「そうなのね」


 母さんは真剣に心配した。


 その間にも便意は、


「アイス! アイス! アイス!」


 と唱え続ける。


 シュウウウウウ……


 冷気が強くなっていく。


 魔王は震えながら言った。


「便意さん……」


「はい!」


「寒いです」


「すみません!」


「いや、謝らなくていいけど……」


 昆布が周囲を見渡す。


「これは使えます」


「使える?」


 魔王が聞く。


「はい」


 昆布は便意に言った。


「冷気を巨大カエルだけに集中させる事は出来ませんか?」


 便意は困った顔をした。


「まだコントロールが難しいです」


「そうですか……」


 昆布は巨大カエルを見る。


 巨大カエルはまだ追ってきている。


 しかし、冷気の影響を受けているのか、さっきより少し動きが鈍い。


 昆布は決断した。


「じゃあ、寒くなってもしょうがないので」


 全員が昆布を見る。


「アイスの魔法を出来るだけ大きくして下さい」


「わかりました」


 便意が頷いた。


 勇気が声をかける。


「便意さんなら出来ます。頑張ってください!」


「……勇気さん」


 便意は少し驚いた。


 そして、ゆっくり息を吸った。


「やってみます」


 便意の周囲の空気が変わった。


 魔王はそれを感じた。


「……あれ?」


 便意から、何か大きな魔力が出ているような気がする。


「便意さん……」


 魔王が言った。


「なんか……魔力が増えてない?」


 昆布も目を見開いた。


「確かに……」


 便意は荷車につかまっていた。


 坂道はさらに急になっている。


 荷車はガタガタと揺れている。


 それでも便意は片手を前へ伸ばした。


「いきます」


「頑張って!」


 勇気が叫ぶ。


 便意は叫んだ。


「アイス――」


 一瞬、間があった。


「ビッグで!」


「……」


 魔王が固まった。


「何でお店で注文するような呪文なんだ」


 便意自身も少し首を傾げた。


「……そう言われると、確かに」


「でも、出るなら何でもいいです!」


 昆布が叫ぶ。


「お願いします!」


「はい!」


 便意は片手で荷車につかまり、もう片方の手を巨大カエルへ向けた。


「アイス、ビッグで!」


 ボンッ!


 巨大な何かが出現した。


「……え?」


 魔王が目を丸くする。


 それは――


 巨大なバニラアイスだった。


「……アイスクリーム?」


 母さんが言った。


「バニラ味ですね」


 鍋が確認する。


「何で魔法から食べ物が出るんですか?」


 魔王が叫ぶ。


 昆布も驚いている。


「私にも分かりません!」


「魔法ですよね?」


「たぶん!」


「たぶんなんだ……」


 巨大なバニラアイスは、便意の手から飛び出した。


 ちょうどそのとき――


「ゴオオオオオオッ!」


 巨大カエルが大きく口を開けた。


 そして舌を伸ばした。


 ビュンッ!


「今です!」


 昆布が叫ぶ。


 巨大カエルの舌が魔王軍へ向かって伸びてくる。


 しかし――


 その舌の先に、


 巨大なバニラアイスが乗った。


「……」


「……」


「……」


 全員が見つめる。


 巨大カエルも見つめる。


 そして――


 ペロッ。


 巨大カエルは、そのままバニラアイスの乗った舌を口の中へ戻した。


 巨大なバニラアイスも一緒に口の中へ入っていった。


「食べた……」


 魔王が呟いた。


 巨大カエルは満足そうに、


「ゴオ……」


 と鳴いた。


 しかし――


 次の瞬間。


「……?」


 巨大カエルの体が震え始めた。


「ブルブルブルブル……」


「寒いのか?」


 父さんが言った。


「ブルブルブルブル……!」


 巨大カエルは体を震わせる。


 足も震えている。


「ゴオ……」


 巨大カエルが一歩進もうとする。


 しかし、


「ブルッ」


 止まった。


 もう一度進もうとする。


「ブルブルッ」


 また止まる。


 昆布がじっと観察する。


「……効いてます」


 魔王が聞いた。


「本当ですか?」


「はい」


 昆布は巨大カエルを指差した。


「巨大カエルが寒くなって、動けなくなりましたね」


 巨大カエルはその場で、


「ブルブルブルブル……」


 と震えている。


 やがて、追いかけてこなくなった。


「やった!」


 勇気が喜ぶ。


「便意さん、すごいです!」


「僕も……自分でびっくりしています」


 便意は自分の手を見る。


「アイスが出ました」


 魔王が言った。


「しかもビッグサイズ」


「はい」


「何でアイス?」


「分かりません」


 母さんが笑った。


「でも、美味しそうだったわね」


「母さん、食べる気だったの?」


「ちょっとだけ」


 魔王は苦笑した。


 しかし――


「……あれ?」


 五利武が前を見る。


「どうしました?」


 殴打が聞く。


「荷車……」


 五利武が指差した。


 荷車はまだ坂道を下っていた。


 しかも――


 さっきより速い。


「ガタガタガタガタガタガタ!」


「……」


「……」


「……」


 全員が黙った。


 巨大カエルは止まった。


 だが、荷車は止まっていない。


 むしろ――


 どんどん加速している。


「おかしいな」


 魔王が言った。


 荷車はさらに加速した。


「ガタガタガタガタ!」


「速い!」


 父さんが叫ぶ。


「かなり速いぞ!」


 鍋が荷車の端をつかむ。


「これは料理どころではありません!」


 ゴプリンも帽子を押さえる。


「……プリン……飛ぶ」


「ゴプリンちゃん、頑張って!」


 母さんが叫ぶ。


 魔王は前を見る。


 坂道はまだ続いている。


 しかも、先の方がよく見えない。


「昆布さん!」


「はい!」


「荷車はどうやって止める?」


 昆布は前方を見た。


 車輪は猛烈な勢いで回っている。


 ブレーキなどない。


 馬もいない。


 魔法もない。


 そして全員が荷車に乗っている。


 昆布の額に、冷や汗が流れた。


「……」


 数秒考える。


「魔王様」


「はい」


「今度は――」


 昆布が真剣な顔で言った。


「巨大カエルより、荷車の方が危険かもしれません」


 魔王は前を見る。


「……ですよね」


 荷車はさらに加速した。


 ガタガタガタガタガタガタ――!


「止まれええええええええ!」


 全員の声が坂道に響いた。


 しかし荷車は止まらない。


 むしろ――


 さらに速くなっていた。

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