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キラキラネーム魔王の俺、魔王になってみた。  作者: 耀悟


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102/207

巨大カエルから逃げる

巨大カエルの目が、ゆっくりと開いた。


 魔王軍は凍りついていた。


 誰も動かない。


 誰も声を出さない。


 商人も息を止めている。


 そして――。


「……」


 巨大カエルの顔が、魔王軍の方を向いた。


 魔王は小声で言った。


「……起きた?」


 昆布が答える。


「……おそらく」


「どうする?」


「逃げましょう」


「やっぱり?」


「はい」


 昆布は即座に立ち上がった。


「急いで荷車を押して行きましょう!」


「押すの!?」


「はい!」


 全員が一斉に荷車へ駆け寄った。


「行きます!」


 殴打が荷車を押す。


「私も押します!」


 五利武も加わる。


 父さんも荷車の後ろへ回った。


「押すぞ!」


 魔王も手をかける。


「せーの!」


 グッ!


 荷車が動く。


「行け!」


 勇気が叫んだ。


 魔王軍は走り始めた。


 しかし――。


 後ろから、


 ズズズズズ……!


 巨大な音がする。


 魔王が振り返った。


「来てる!」


 巨大カエルが立ち上がっていた。


「でかい!」


 五利武が叫ぶ。


「分かってる!」


 魔王が走る。


「もっと速く!」


「荷車が重いです!」


 商人が叫ぶ。


「でも、空ですよ!」


「皆さんが乗っていますから!」


「まだ乗ってないよ!」


 魔王が突っ込んだ。


 その瞬間だった。


 巨大カエルが大きく口を開いた。


「……!」


 魔王軍全員が振り返る。


「口……」


 勇気が呟く。


「開きましたね」


 鍋が言う。


「ものすごく大きいです」


 便意が言った。


「……」


 魔王は走りながら巨大な口を見る。


「まさか……」


 次の瞬間。


 シュルルルルッ!


「うわぁぁぁ!」


 巨大カエルの口から――。


 巨大な舌が伸びてきた。


「舌!」


 魔王が叫ぶ。


 舌は一直線に魔王軍へ向かってくる。


「逃げろ!」


 昆布が叫ぶ。


 全員が必死に走る。


 シュルルルルルッ!


 舌が伸びる。


「近い!」


「もっと走って!」


 父さんが叫ぶ。


「うわぁぁ!」


 魔王軍の背後を舌が通過する。


 しかし――。


 ギリギリ届かなかった。


「……!」


 舌が空を切る。


 巨大カエルが舌を引っ込める。


「助かった……」


 魔王が息を切らす。


 昆布は後ろを見る。


「今の距離では、いつか追いつかれます」


「どうする?」


「走り続けるしか――」


 昆布が前を見る。


 そして突然、目を見開いた。


「……!」


「どうした?」


 魔王が聞く。


「ここから、下りが続きます」


「下り?」


 魔王も前を見る。


 確かに街道が急な下り坂になっている。


「かなり急ですね」


 五利武が言った。


「荷車を押すのが大変そうです」


 昆布は一瞬考えた。


 そして――。


「……いや」


「?」


「逆です」


 昆布が荷車を見る。


「この下りなら、荷車を押す必要はありません」


「どういうこと?」


 魔王が聞く。


「もう、みんなで荷車に乗るしかありません」


「乗る?」


「はい」


 昆布が指示を出す。


「体の大きい人は下にうつ伏せで寝てください」


「うつ伏せ?」


「その上に便意さんと体の軽い人がうつ伏せに乗ってください」


「……」


 魔王は荷車を見る。


「全員乗るの?」


「全員です」


「入る?」


「入れるしかありません」


 巨大カエルが後ろから迫ってくる。


「ゴーッ!」


 魔王は即決した。


「乗ろう!」


「はい!」


 魔王軍が一斉に荷車へ乗り込む。


 まず下の段。


 殴打。


 五利武。


 ゴプリン。


 父さん。


 魔王。


 鍋。


「狭い!」


 殴打が言った。


「狭いですね」


 五利武も言う。


「ゴプリン、大丈夫?」


「……プリン……」


 ゴプリンは頭のプリンを守る。


「そこは絶対守るんだね」


 魔王が言った。


 父さんも荷車の床にうつ伏せになる。


「よし」


 魔王もその隣にうつ伏せになる。


「鍋さんも!」


「はい!」


 鍋が乗る。


 下の段が完成した。


「次!」


 昆布が言う。


 便意が上に乗る。


「失礼します!」


 便意が殴打たちの上にうつ伏せになる。


「重いですか?」


「大丈夫です」


 殴打が答える。


 勇気がその上。


「失礼します!」


「はい」


 さらに母さん。


「よいしょ」


 そして最後に昆布。


「私も乗ります」


「昆布さんまで?」


 魔王が驚く。


「作戦を立てる人間が一番上です」


「それ、危なくない?」


「状況を確認しやすいです」


 昆布は魔王たちの上にうつ伏せになった。


 荷車の上は――。


 人。


 人。


 人。


 人。


 人。


 そしてゴプリン。


 完全に積み重なっている。


 商人は荷車の後ろに立っていた。


「私も乗った方がいいでしょうか?」


 魔王が叫ぶ。


「もちろんです!」


「分かりました!」


 昆布が顔を上げる。


「皆さん、しっかり掴まって下さい!」


 全員が荷車の縁を掴む。


「はい!」


「掴みました!」


「大丈夫です!」


「私はプリンを――」


「ゴプリンはプリンを掴んでて!」


「……うん」


「行きます!」


 荷車が下り坂へ入った。


 最初はゆっくりだった。


 ゴロ……。


「動きましたね」


 勇気が言う。


「まだ大丈夫です」


 昆布が答える。


 ゴロゴロ……。


「少し速くなりました」


 五利武が言う。


「さらに速くなっています」


 殴打が言った。


「これは――」


 魔王が顔を上げる。


「速い!」


 ゴロゴロゴロゴロゴロ!


「うわぁぁぁぁ!」


 荷車が坂を下り始めた。


「速い! 速い!」


 商人が叫ぶ。


「止められません!」


「どうするんですか!」


 魔王が叫ぶ。


「下り坂ですから!」


「それは分かってる!」


 荷車はどんどん加速する。


 ゴロゴロゴロゴロ!


「しっかり掴まってください!」


 昆布が叫ぶ。


「離したら飛びます!」


「飛びたくない!」


 便意が叫ぶ。


「ウォーター!」


「今は使わないで!」


 魔王が叫んだ。


「はい!」


 便意が慌てて口を閉じる。


 しかし――。


 後ろから地響きがする。


「……」


 昆布が振り返る。


「来ています」


「え?」


 魔王が振り返る。


「巨大カエルが?」


「はい」


 巨大カエルが迫ってくる。


 その巨大な体を――。


 大きく縮めた。


「……」


 昆布の顔が変わった。


「まずい」


「何?」


 魔王が聞く。


「跳びます」


「跳ぶ?」


 巨大カエルが――。


 地面を蹴った。


 ドンッ!


「うわぁぁぁぁ!」


 巨大な体が空中へ飛び上がった。


「飛んだ!」


 勇気が叫ぶ。


「カエルってあんなに飛ぶの!?」


 魔王が叫ぶ。


「巨大なのに!」


 巨大カエルは空中を飛んでいる。


 そして――。


 ドォォォン!


 前方に着地した。


 地面が揺れる。


 荷車も揺れる。


「うわっ!」


「掴まって!」


 昆布が叫ぶ。


 巨大カエルが再び口を開いた。


「まさか……」


 魔王が言う。


 シュルルルルッ!


 舌が伸びる。


「来た!」


 舌が荷車へ向かってくる。


 ギリギリ。


 荷車が下り坂をさらに加速する。


 舌が荷車の後ろをかすめる。


「危ない!」


 商人が叫ぶ。


 荷車はさらに下へ。


 ゴロゴロゴロゴロゴロ!


 巨大カエルも再び跳ぶ。


 ドンッ!


 そして着地。


 シュルルルルッ!


 また舌。


「うわぁぁぁ!」


 魔王軍は必死に荷車にしがみついている。


 上に昆布。


 母さん。


 勇気。


 便意。


 さらに下に――。


 殴打。


 五利武。


 ゴプリン。


 父さん。


 魔王。


 鍋。


「……」


 魔王は自分の状況を考えた。


「俺、今……」


「何ですか?」


 昆布が聞く。


「人間荷物みたいになってる」


「今はそれどころではありません」


「そうだね!」


 荷車は坂を下り続ける。


 巨大カエルも跳び続ける。


 跳ぶ。


 着地。


 舌。


 跳ぶ。


 着地。


 舌。


 まるで巨大な追跡者だった。


「昆布さん!」


 魔王が叫ぶ。


「このままじゃ追いつかれるよ!」


「分かっています!」


「何か作戦は?」


「考えています!」


「何か思いついた?」


「まだです!」


「珍しくまだなんだ!」


 昆布が必死に前を見る。


「ゴーッ!」


 巨大な声が湿地帯に響く。


 舌が伸びる。


 荷車はそれをぎりぎりでかわす。

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