7話 外の刺激に触れて③
「なるほど、それで下層に心を惹かれたと。」
後日、テムスの所に赴いて。
勢いに流されるままに模擬武器で打ち合いながら、当初の目的も並行する。
「まぁ、そうなります、ね。」
「随分と簡単に認めるんだな、プライドとか度外視で。」
テムスの棍の大振りをいなし、距離を詰め。仕掛けた剣の一撃は、しかしテムスの防御が間に合う。
「…いけませんか?」
「いや、ハルドレーン師匠と似てるなと思っただけだ。」
弾かれ距離を開けられ、改めて向かい合い仕切りなおし。
「…兄上と私が?」
「あぁ。
貴族階級はロンドラーレ家の方が上、個人としても嬢の兄上は武術の師匠。
なのに、俺が時々下層への視察にも行くって話をした途端、中々の質問攻めに転じられてな。」
あの兄上と同じに見られてる事に思う所はあるけど、今は飲み込む。
「此度訪れたのは、兄上の事もあります。」
兄が出ていく直前の事、客観的なものでもいいので、何か異変などありませんでしたか?」
攻め込んできたテムスを剣で受け流し、テムスの棍が地面をたたく音が響く。
「やはり出て行ったのは、突然なのだな。」
「…そもそもあまり関わらせたくないという父上の意向も感じます。
避けてるつもりはないのに、出ていく直前の様子を、あまり覚えていなくて。」
テムスの連撃をしのいでる間に、テムスが言う。
「ヴェリダール嬢も、実は『そう』なのか?」
連撃の隙間、一太刀仕掛ける。
「『そう』といいますと?」
しかし大きく後退し避けられる。
「わざわざ来た本命は、また違う話なのだろう?」
既に十分推測の根拠はあるだろうし、隠しても仕方のない事だ。
「下層…いえ『上層の外』はどういう印象でした?」
身近にある実体験談、それに飛び付かずに居る事はできなかった。
少しの間を置き、テムスが答える。
「『枷の外』とでも言うべきかな。
下層の者は仕事上での上下こそあれど、生来による立場の差は無い。
…低級貴族としては、羨ましい限りだ。」
落ち目貴族の身の自分としても、気にはなる話。
けど当初の目的とは違う。剣を構えなおしながら気を整え、直接的に切り出す。
「下層の食事処については、どうなんです?」
「あー…そこはあまり詳しくないな。あくまで仕事で行ってるだけだから同行者に任せて、俺は基本干渉してないんだ。」
当ては外れ、か。
けど分からないという事、未知がそこにあるという事に、沸き立ちはじめる気持ちもあった。




