3話 飽きていた日常は②
「こんな所で奇遇じゃないか、ヴェリダール嬢!」
憂鬱な気分とは程遠い大きな声。
それに返しで届きつつも、抑えた声量で答える。
「何か用でしょうか、プラーネ家の跡継ぎ。」
「毎度の事ながら言っておろう、この俺にはテムス・プラーネという名があると!」
「それで、何の用でしょうか?」
隣まで近寄ってきたテムスに、問う。
「衛兵としては、壁の上に人が座り込んでいるのを見て素通りはできないのでな。」
「下層募兵審査を行うという話、聞いてません?」
「いや、その話は聞き及んでおる。ヴェリダール嬢と確認が取れた以上、問題は無い。」
「ところで、兄ハルドレーンの行方捜索の進捗の程、衛兵団として聞き及んでません?」
数日前、家の方から衛兵団に依頼されてた話。丁度いいタイミングだし、とそれを切り出す。
「すまない、まだ何の情報も掴めていないのだ。」
「そう、ですか。」
報せが来ない事から察してはいた。そして現時点で不明という事は、既に管轄外の場所に居る、そんな可能性も十分考えられる。
「失望させて申し訳ない。
だが、この俺とてハルドレーン殿には世話になった身だ。その行方は気になるところではある。」
「…今もそれで父上はお怒りですけどね。森人の伝統剣術を徒人如きに、と。」
「そうと推察できるのに、軽率に伝授を受けてしまった俺にも非がある。申し訳が無い。」
「いえ、私自身は、その点については別に気にしてませんよ。
…失踪した事による皺寄せは重いですけどね。」




