2話 飽きていた日常は①
高く無骨で大きな壁。
その上から見下ろす景色は、この壁で隔たれた2つの街並み。
街全体のゆるやかな傾斜もあって「上層」「下層」と呼び分けられる、この街シントの2つの側面。
その片方、「下層」と呼ばれる側。
関所のある足元だからというのもあるだろう、遠くの広場に至るまで、堅苦しい格好の人の往来が見える。
それでも昼時の休息時間、振舞いはどこか抜けてる者も少なくはない。
そんな者共の流れを受け入れる大通り。
建物の外観こそ節度を守り、上から見る分には区画整備の賜物がよく見える。
しかし掲げる看板は、看板秩序に基づきつつも、「ユニオンブレッド」「マイルドコーヒー」「レーニス風」などと、視線を奪い合うように目立つ飾り文字で書かれている。
そこに出入りする民、店前で迷う民。些細な日常風景だけど、各々がそれぞれの選んだ目的を以て行動している。
自分には縁遠い世界だ。
一方、手前側「上層」。私が暮らす、見慣れた街並み。
装飾こ細やかさには、建築者の美術力が垣間見える。
けど派手にし過ぎはしない。目立つ事は暗黙の御法度、許されるのは更に上の階級の家だけ。
それ以外は気品を崩さない為に手を抜かず、けど輪を乱す突出は叩かれる。
そんな社会性による統一感。
…気が滅入る考えはやめよう。
その事情を知らなければ、実際街全体が美術品のようで綺麗ではある。
壁の彫りの模様はそれぞれ違う人によるデザインにもかかわらず、そう聞いても分からないくらいにデザインを寄せられた、見事な統一感。
わざわざ主張を強める必要性の無い看板は、建物美術の一部かのように佇んでいる。
家に居るよりはマシ、と早めに来たとはいえ、それはそれで結局暇な事には変わりない。
なんて考えているところに、背後から呼ぶ声がひとつ。
「こんな所で奇遇じゃないか、ヴェリダール嬢!」
憂鬱な気分とは程遠い大きな声。
それに返しで届きつつも、抑えた声量で答える。
「何か用でしょうか、プラーネ家の跡継ぎ。」
「毎度の事ながら言っておろう、この俺にはテムス・プラーネという名があると!」




