10話 それに触れる機会を得て②
少し経って、父上の部屋の前。
…あれでも結構意気込んでやっと言えた事なのに。仕切り直しになって、改めて決意を整える。
…あの食卓を見て、思う所が無いわけではなかった。
以前は兄上が隣に座ってたから、僅かとはいえまだ卓として様になってた。そこから1人減った空間的な寂しさは、思った以上のものだった。
これからの自分の立ち回り次第では、あそこから更に1人減るのかと思うと、引け目が無くはない。
けど、それを天秤にかけたとしても、引くつもりはない。
下層への興味ももちろん理由のひとつだけど、説得に足る理由も持ってきた。
いつもより重く感じるドアの向こうでは、既に父上が待ち構えていた。
「座れ。」
その短い言葉に従い、正面から向かい合う。
最初の一言を言おうとしたところで、父上の方から流れを切り出す。
「下層で新設される兵団、その戦闘指導の任を買って出たい、という話だったな?」
「はい、その通りです。」
「兄ハルドレーンの行いと、それのロンドラーレ家への影響を理解している上で、言っているのだな?」
圧。力強い語調、動じない風格は堅牢な壁のようにも錯覚する。
それでも、揺らがないよう強く答える。
「はい。」
「お前も『ロンドラーレ流剣術』を、外部の者へと流出させる気か?」
そう、それが兄上が嫌がった事であり、父上との亀裂の引き金。
かつてロンドラーレが貴族になったきっかけが、シント創立の時に防衛の要の騎士の地位に居た事。
その鍵となったのが、当時「対人最強の剣術」と言われたロンドラーレ流剣術。伝聞でそう聞いている。
しかしそれを継承する当事者としては、継承しなければならない、しかし外部に真髄を漏らしてはいけない、そんな二重の不自由でしかない。
自分ですらそう思う。兄上がそれを嫌がった事自体には同意せざるを得ない。その結果の行動は褒められたものではないけど。
けど、その2面に挟まれ継承で身動きが取れずにいるのが、貴族としての衰退の一因と断ずる。その真偽を確かめる術は無いが、突かれれば否定はできない。
「戦闘指導はあくまで基礎的な箇所のみにし、ロンドラーレ流剣術を見せことすれど、それを教示するつもりはありません。
むしろロンドラーレ流剣術が今も健在という事、それを披露する事もまた重要と考えます。
それに騎士家系として、街を導く側になるべきではないでしょうか?」
対する返答は静かな一考の時間を経てからだった。
「そう言うのなら、お前のロンドラーレ流剣術が見せるに足るものかどうか確かめてやろう。
…だが今日はもう遅い。明日来なさい。」




