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二章⑧




(ル、ルーナ……!?)


 モーヴハルト王子と私の間に飛び込んできたルーナは、それまでにない緊迫した面持ちで、王子に向かって訴えた。


「ルーナ……!? 騙されるなとは、どう意味です?」


「リュミエールが怯えているんです! これまでどんな魔物と戦っても、こんなことはなかったのに……! ーーきっと、ここにいるのはプリム様の姿を偽った、恐ろしい魔物に違いありませんっ! 今すぐに倒さないと、この学園が大変なことになりますっ!!」


「なっ!? 魔物だと……!?」


「ええっ!? ちが、違いますよっ!!」


「嘘ですっ! なら、どうしてこの子がこんなに怯えているんですか!? 聖なる光の魔力から生まれた、光の聖獣であるこの子が!」


「ーーーーっ!?」


 ルーナの言葉とともに、その腕に眩い光が弾け、白銀の毛並みを持つ兎のような生き物が現れる。


 光の聖獣リュミエールだ。


 額に生えた小さな角やルビーのような赤い目は、確かに、ゲームで見たままの姿だがーー


(い、いくらなんでも、呼び出すのが早すぎない!? ゲームでは、ラスボスであるサルファードとのバトルシーンで、ようやく召喚に成功するのに……!)


 サルファードや王子の好感度の高さといい、それだけこの世界のルーナが優秀だということなのだろうが、それにしても早すぎる。

 

 使命感に燃える彼女は、私の言葉に聞く耳を持ってくれない。オロオロと狼狽えていると、王子が待ってくださいと落ち着いた声で(たしな)めた。


「しかし、ルーナ。王宮専属の魔法医師団による検査の結果、彼女は確かにプリマヴェラ本人であると証明されたのですよ?」


「そんなの関係ありませんっ! よく考えてみてください! あのプリム様に、誠意ある立派な謝罪なんてできるわけないじゃないですかっ!! ーーお願い、モーヴ様っ! 月の乙女であるルーナにはわかるんです! どうか信じてください……っ!!」


「ルーナ……! し、しかしーー」


(あのプリム様にーーって、あれ? そ、それはいくらなんでも失礼すぎない!? 確かに、ルーナは正義感溢れる女の子だけど、あんな言い方をするような子だっけ……?)


 サルファードと同じく、こちらの世界の彼女にも誤差があるのだろうかと首を捻る。そんな私を尻目に、ルーナはギュッ! とモーヴハルト王子の両手を握り締め、うるうると琥珀色の瞳を潤ませた。


 ーー可愛い。


 流石はリアルのヒロイン、ゲーム以上の可愛いさだ。だが、いくら可愛らしく訴えたとしても、私の最推しである王子は、根拠もない憶測を信じるような軟派な男ではなーー


「……わかりました。ルーナ。貴女の言葉を信じます」


「えええっ!? ち、ちょっと待ってください! 王子っ! 私は間違いなくプリマヴェラ本人ですっ!! 魔物なんかじゃありませんっっ!!」


 予想外だ。


 解釈違いにもほどがある王子の言葉を、大慌てで否定する。だが、こちらを向き直った王子は、先ほど以上に激しい怒りを露わにした。


「黙りなさいっ!! ルーナの言う通りです! あの傲慢不遜の権化のような貴女が、私に跪き謝罪するなどあり得ませんっ! ーーシリウス! 学園騎士団員を率い、この魔物を捕らえよ! 公爵家の報告など信用ならない。王宮の地下牢に閉じ込めて、正体を表すまで鞭打ってくれる!」


「そ、そんな……!? 私は、私、本当にーーうぐっ!?」


 ガッと背後から私の腕を掴み上げ、あっという間に床に組み伏せたのは、長い真紅の髪と翡翠の瞳を持つ精悍な体躯の青年ーーこの学園の生徒でありながら王太子側近を勤める攻略キャラクター、シリウス・ローゼンベルグだった。


「シ、シリウス……! お願い、この手を離して……っ!」


「……黙りな。痛い目を見たくないなら、大人しくしてろ」


 ギシッ! 


 縄もないのに、一瞬で身体の自由を奪われて唖然とする。よく見ると、床に組み伏せられた私の身体を、翠緑に光る荊棘いばらの蔓のようなものが縛り上げていた。ゲームでシリウスが得意としていた束縛魔法だ。強い魔力で編み上げられた蔓は、巨大な魔物を易々と捕縛する。魔力の無い今の私では、どうすることも出来ない。


「流石はルーナ様だ! 死人が生き返るなんて、あり得ないと思った!」


「ああ! まさか、魔物だっただなんて!」


「なんて恐ろしい……! 赤薔薇の騎士様、早く、その魔物の首を跳ねてくださいませ!!」


 ルーナの言葉に、それまで様子を伺っていた生徒達が一斉に殺気立つ。


 これでは葬儀のときと同じだ。もう、なにを言っても聞いてもらえない。「死ね!」、「殺せ!」と口々に喚く生徒達に、あの葬儀の場で殺されかけたトラウマが鮮烈に蘇った。


 ーー怖い。


 あの場にいた貴族達が私の死を望んていたように、ここにいる生徒達も、皆、私の死を望んでいる。


 誰一人として、生きていて欲しいと望んでくれる人はいない。


 ただの一人も、いないのだーー


(捕らえられて、鞭打たれて……それからどうなるんだろう……? 月の乙女であるルーナに魔物だなんて断言されたら、私、今度こそ殺されてしまうかもしれない……!)


「た、助けて……、助けて……! 義兄様……っ!!」


 全身が戦慄くような恐怖に囚われながら、微かな望みを胸に、押さえつけられている首を無理矢理捻った。


 サルファードには、生徒達とのトラブルは契約外だと言われたが、命を助けると契約したことも確かだ。一生懸命に頼み込めば、あの葬儀のときのように助けてくれるかもしれない。


 身体を動かすたびに、鋭い棘のある荊棘が皮膚に食い込んで激痛が走ったが、構わなかった。


 そして、ついに。少し離れた位置からこちらを見つめている、サルファードの姿を見つけた。


 ーーだが、視線が合ったその瞬間。


「…………フ……ッ、アハハハッ!!」


「ーーーーっ!?」


(笑っ、た……?)


 目を細め、喉を逸らして。床に組み伏せられて、荊棘で縛り上げられた私を眺めながら、サルファードは心の底から愉快そうに笑ったのだ。


(……そうか。サルファードが、葬儀のときに私を助けてくれたのは、このためだったんだ)


 プリマヴェラとして生き返ってから、ずっと心の中に抱えていた疑問の答えが、ようやくわかった。


 サルファードには、私を助けるつもりなんてこれっぽっちもなかったのだ。


 助かったと希望を持たせて。


 まだ生きていられると喜ばせてーーそうした後で、絶望のドン底に突き落としたかっただけなのだ。


 きっと、サルファードはこの瞬間を楽しむためだけに、私とあんな契約を結んだのだ。


 暗殺者から守るだなんて、偽りの契約を。


「ひ……っ、い……ッ!」


 荊棘の棘に肌を刺される痛みに、耐え切れず悲鳴が漏れた。滲む涙と瞼の向こうに、サルファードの姿が消えていくーーその暗闇の中に、ゾッとするほど艶のある低音が響いた。


「ーーいい顔だ。俺に守られなければ死んでしまうお前は、哀れで滑稽で、愛しくて堪らないよ」




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