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二章⑦


 


 ーー悪役令嬢プリマヴェラ。


 彼女が恋敵であるルーナにしてきた嫌がらせは、常識知らずを馬鹿にしたり、勝手に愛称呼びされるのを無視したりという稚拙なものながら、この世界に不慣れなルーナを深く傷つけた。


 だから、擁護するつもりはない。しかし、優秀な王太子妃候補だった彼女がただの悪役令嬢になってしまった理由には、共感できるものがある。


 プリマヴェラは、ある日突然、王宮に現れた月の乙女(ルーナ)によって、婚約者である王子を奪われてしまった不憫な令嬢だ。


 ルーナはこの世界の人間ではないため、礼儀知らずな上、一般の令嬢教育すら受けていない。それなのに、彼女の保護者となったモーヴハルト王子には、まるで本当の妹のように甘やかされる。だからこそ、厳しい王妃教育に耐えてきたプリマヴェラは、強い不満と嫉妬心を抱いていくのだ。


 さらに、学園中の生徒や貴族達に『王子はプリマヴェラより月の乙女を寵愛している』だの、『真に王太子妃に相応しいのはルーナだ』だの、好き勝手に陰口を叩かれ、挙句の果てには、父親である公爵にまで『王子の婚約者として彼の寵愛を取り戻せ』と命じられて、精神的に追い込まれてしまう。


 ーーそして、そんなプリマヴェラに、王子が手を差し伸べることはない。


(そう、本当に一切ないの……! これ、プレイしたときにすごく違和感があったんだよね! 万人に優しい博愛主義の王子が、どうしてプリマヴェラだけに冷たいのかって。改めて考察して思ったけど、王子はそのことに気がついてたんじゃないかな……?)


 王子は幼い頃に兄を失って以来、たった一人で王太子としての重積を担ってきた聡明な人だ。欲望渦巻く王宮で人を見る目を養ってきたからこそ、ルーナの芯の強さ、自己の犠牲も厭わない優しさを見抜き、惹かれていく。


 だから、全てわかっていた上で、プリマヴェラのことを試していたのではないだろうか。


 ルーナが現れたことをきっかけに、彼女がそれまでの傲慢不遜な自分自身を変えることができるかどうか。


 将来、王となる自分の隣に立つ女性として、王国の救世主であるルーナを共に守ることができる度量を持っているかどうかを。


 それが証拠に、ゲームでは王子の攻略に失敗しても、プリマヴェラは王太子妃に選ばれることなく、彼は他国の王女を娶ってしまう。


 豪華なドレスや宝石で身を飾り、ルーナを虐げることでしか自分の優位性を示せなかった悪役令嬢を、伴侶(パートナー)に選ぶことはないのだ。


 だが、プリマヴェラは彼の真意に気づかずに、罪を重ね、自滅してしまった。


 だからーー


「殿下……! 生前の私は、未来の王妃として王国の救世主を守らねばならないという責務よりも、彼女よりも婚約者である自分を大切にして欲しいという私情を優先させてしまいました! 浅はかな嫉妬心により、ルーナ様を傷つけてしまったこと。誠に狭量であったと自責しております!!」


「ぐう……っ!?」


(王子が動揺してる……!! やっぱり、私の考察は正しかった! 王子! 貴方がプリマヴェラに何度も謝罪を求めたのは、きっと、そんな自分の真意に気づいて欲しいと思っていたからですよね!? そして、今もきっと、そう思っているんですよね……! ーーよし、どんどんいくぞ……! ええっと、彼が生き返った(プリマヴェラ)に対して、こんなに激しく怒っているのは、謝罪も反省もしなかったプリマヴェラが、事故死したことを逆恨みして、ルーナに復讐することを警戒しているから……!)


「今の私に復讐の意思はございません! ご迷惑を承知で学園に復帰致しましたのは、お二人に謝罪するためと、傲慢不遜で不出来な令嬢であった過去の自分自身を省み、今一度、鍛錬を積むためです! 私が貶めてしまった公爵家の権威は、私自身が模範的な生徒となり、優秀な成績を収めることでしか回復できないと判断しました!!」


「ぐはあぁ……っ!?」


 ーー以上! これが、今の私にできる全力の考察であり、ありとあらゆる根拠をかき集めた二次創作だ。


 王子が求めていた通り、これまでの態度を改め、謝罪をして、ルーナに対する復讐の意思がないことを示すこと。


 それ以外に、この針の筵のような現状を打開する術はない……!!


「…………そう、ですか」


 私の謝罪を聞いた後、王子は険しい顔で思案していたが、やがて、安堵するようにポツリと呟いた。


「それが、今の貴女の意思なのですね……。正直に言って、驚きましたよ。プライドの高い貴女が、クラスメイト達の前で、膝を折ってまで謝罪するとは。ーーわかりました。この場は、貴女の謝罪を受け入れ、和解すると致しましょう」


「ほ、本当ですか……!? ありがとうございます……っ!!」


「……ええ。ですが、私はまだ過去の全てを許したわけではありません。本当に許すかどうかは、これからの貴女を見て判断することにします。よろしいですね?」


「はいっ! 充分です……!」


(はうわああああああ――っ!! 流石は王子……っ! たとえ相手が因縁のある悪役令嬢でも、誠実冷静に公正の余地を与えるこの神対応ッ!! これぞ、これぞ私の推しっ! ああっ! 推しが尊すぎてしんどいいいいぃーーーーッッ!!)


 嬉し涙で滲む視界に、スッと、白い手のひらが差し伸べられる。


「え……?」


 ーー王子だ。まだ、優しく微笑んでこそくれないものの、床に膝をついた私に向かって、なんとその手を差し伸べてくれているではないか。


 信じられない光景(スチル)にポカンとしていたら、王子は呆れたように碧い双眸を丸くした。


「さあ。もう泣くのはやめて、お立ちなさい。公爵家の令嬢たる貴女を、いつまでも床に跪かせているわけにはいきません」


「は、はい……っ!」


(え……っ!? こ、これ……握っていいの? 私、推しに触っていいの? ていうか、触れるの!? 幻みたいに擦り抜けたりしない!?)


 爆発して胸から飛び出しそうな心臓を抱えながら、これがプリマヴェラの身体で本当によかったと思う。前の世界の私なら、確実に心臓発作を起こしていたに違いない。


 だが、嬉し涙を拭って、間近にある王子の顔をおずおずと見上げたとき。彼の碧い双眸が、濃い隈に縁取られていることに気がついた。


 よく見れば、怒りが失せたその顔は蒼白い。


(どうしたんだろう? 体調が悪いのかな……も、もしかして、私のせい!? 私が生き返ったせいで、貴族達がパニックになっちゃったから……!?)


 誠に申し訳ない!!

 

 推しの体調を崩させるなんて、モブファン失格だ……!!


 痛む胸を抑えつつ、差し出された彼の手のひらに震える手を伸ばす。


 ――だが、指先が触れる直前、小さな手に遮られた。


「モーヴ様っ!! 騙されないでくださいっ!!」




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