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二章③



 ルミナリス王立魔法学園。


 かつて、月の女神ルミナスにより闇の魔王が封じられた地、ルミナリス王国。女神の恩恵と加護厚きこの地は、豊かな魔力と精霊達に恵まれ、優秀な魔法士達が数多く誕生した。


 魔法士達はその魔力と叡智で王を守り、国を支える礎となった。王は彼等の偉業を讃え、親愛の印に特別な称号を与えた。


 それが、この王国における貴族ーー魔法貴族の始まりだ。


 この学園には、そんな魔法貴族の血を受け継ぐ才能豊かな魔法士の卵達が集い、鍛錬と研鑽の日々を送っている。




            ***



 純白の大理石による荘厳な内装。華やかな彫金装飾の隅々にまで凝らされた職人の意匠。


 学生のための学舎がこんなにも豪華なのは、高台に移築される前の旧王宮が校舎に再利用されているからだ。築何百年という建造物にも関わらず、まるで時が止まっているかのように美しい。


 ーーそんな、伝統と歴史あるルミナリス王立魔法学園を、まさかまさか、この足で歩くことができるなんて……!


(聖地巡礼だあーーっ!! すごいっ! 夢にまで見た魔法学園に通えるなんて、廊下を踏み締める一歩一歩が尊い……! それになにより、この制服を着ることができるなんて思わなかった……っ!!)


 ゲームのシナリオは学園の入学式から始まり、一年後に終わる。終盤である今は秋の盛りであり、中庭には白い秋薔薇と、深い青のクレマチスが競うように咲き誇っていた。


 大きな池に、秋空に映える白亜の校舎が映り込んでいる。それらを取り巻く回廊を歩きながら、私はうきうきと水面に映る自分の姿を見下ろした。


 ルミナリス王立魔法学園の制服。


 真っ白なブレザーは聖なる光を。臙脂色のスカートは魔法士の血脈を。胸元に輝く金の月と杖を模した校章は、月の女神の祝福を表している。袖口や襟に施された金糸の刺繍に至るまで、とにかくすべてが上品で可愛い。


 ゲームのプリマヴェラは日替わりで豪華なドレスを着ていたが、それは彼女の我儘による特例だったらしく、もうそんなものは一切認めないとモーヴハルト王子直々に通達があったそうだ。


 でも、私にとっては窮屈なドレスよりも、こっちの方がずっといい。ただ、あの巨大なクロワッサンのようなザ・悪役令嬢縦ロールは流石に合わなかったので、サルファードの勧めもあり、毛先を緩く巻いてハーフアップにしてもらった。


 真新しい制服にドキドキしながら袖を通し、自分の足で学校に登校する。


 前の世界ではどれだけ願っても絶対に叶えることができなかった願いを、今こうして、最高の舞台で叶えることができている。


 ーー嬉しい。


 とてつもなく嬉しい。


 隣に冷たい目をしたサルファードさえ歩いていなければ、バンザイしながらスキップしていたに違いない。


 チラリとその美貌を盗み見ると、すかさず極寒の視線に射抜かれた。


「ーー全く、お前のせいで時間ギリギリじゃないか。授業に遅れたらどうしてくれるんだい? ほら、もっと早く歩きなさい」


「す、すみませんーーうぐ……っ!?」


 サルファードの歩幅に合わせて小走りしようとした瞬間、ズキンと下腹部が痛んだ。登校前に無体な真似をされたせいだ。鋭い痛みに呻く私に、サルファードは迷惑そうに足を止める。


「どうしたの? 言っておくけど、仮病でズル休みなんて許さないからね」


「笑いすぎてお腹が痛いんですよ……っ!! 遅刻しそうなのも、義兄様のせいじゃないですか! 嫌だって言ってるのに、弱いところばっかりくすぐり続けるから……っ!!」


 ズキンズキンと痛むお腹を抑えながら、涙目で抗議する。


 そうなのだ。


 あの後、サルファードはお仕置きと称して、床に押し倒した私にあんなことやこんなことをーーではなく、私の両脇を無慈悲&無表情にくすぐり続けたのである。


 ただのくすぐりと侮るなかれ。


 処刑時間は、なんと一時間。いくら嫌だと喚いても、やめてと泣いて叫んでも、笑いすぎて呼吸困難に陥ろうとも、サルファードは絶対にその手を止めなかった。むしろ、嫌がれば嫌がるほど更に弱い部分を探し出し、徹底的に責め抜かれたのだ。


 ーー拷問だ。


 ただのくすぐりも、国家最強の暗殺者の手にかかれば恐ろしい拷問と化すのだということを、身をもって思い知った。


「おかげで腹筋は痛いし、喉は枯れるし、あちこち痙攣するし、ずっと笑いながら泣いてたせいで涙腺が緩みっぱなしになっちゃうし……! 明日は、絶対に筋肉痛ですよ……!!」


「大袈裟な。大体、悪いのは寝坊したお前だろう? ご主人様の命令を無視して寝こけてた下僕に対して、ちょっと脇をくすぐるだけで許してあげたんだから、感謝して欲しいくらいだよ」


「一時間は、ちょっとじゃありません! あんなの完全に拷問です……!」


「拷問? まさか。くすぐりを拷問に利用するなら、山羊を使わないと。裸にして身体中に塩水を塗り、数日間絶食させた山羊に舐めさせるんだ。最初のうちはくすぐったいだけだけど、山羊の舌はヤスリのように少しずつ皮を削いでいき、やがては血が滲み出す。肉が削げ落ちて、骨が見え始めても、山羊は構わず、ずーーっと舐め続ける」


「…………」


「お前は俺の契約者だから、契約終了まで危害を加えることはできない。だから、できるだけ優しいお仕置きをと思ったんだけど、俺の手よりも山羊がいいなら、次からはうんと腹を減らした奴を用意す」


「義兄様がいいですっっ!! これからもずっと、お仕置きの際には義兄様の手でくすぐってください……っ!!」


「お仕置きを前提に考えるな。お前がしたことは立派な契約違反だよ」


 私を見つめるサルファードの瞳が暗さを増す。彼はお腹を抑えて蹲る私に近づくと、長身を屈めて耳朶に囁いた。


 その声は、低く厳しい。


「お前も知っての通り、暗殺者(おれたち)にとって契約は絶対だ。お前は命を守られる代わりに、俺の下僕となり絶対服従を誓った。言わば、命と自己の支配権の等価交換。それをおざなりにするなら、いざ命を狙われた際に、俺に見捨てられても文句は言えないよ?」


「う……っ! ……そ、そうですね。すみません。次からは、きちんと義兄様のご命令に従います」


「従順にね。そうすれば、どんな奴が襲ってこようが守ってあげる」


 絶対に、と言って蹲る私に手を差し伸べる彼の言葉に、昨夜の記憶が蘇った。就寝間際、私の寝室を訪れたサルファードは、この学園の制服と鞄、教材一式を手渡して、明日から学園に復帰するよう伝えたのだ。




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