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二章① 悪役令嬢は断罪イベントを許さない!




『ーープリマヴェラ。今日は、俺の下僕になったお前に、特別な仕事を与えてあげるよ』


「特別な仕事……ですか?」


 冷たい闇色の瞳。襟足の長い、夜天色の艶やかな髪。


 私を見下ろして薄い微笑みを浮かべる彼は、ゲームで目にしてきたラスボスヴィランのサルファードそのものだ。


 出生の秘密を隠すため、銀髪蒼眼に容姿を偽っている彼が、この姿になることは滅多にない。それに加えて、いつになく上機嫌な表情に、ゾクリと背筋が震えた。


 ーー嫌な予感がする。


 だが、彼は戸惑う私に構わず手を取ると、公爵邸の長い廊下を突き進んでいく。


 足元に敷かれた絨毯の深い真紅が、血溜まりのように見えて気味が悪い。


「あの……わ、私は、なにをすればいいんですか……?」


『簡単なことだよ。俺の部屋にあるゴミを、始末して欲しいんだ』


「ゴミ……? 義兄様の部屋を、掃除しろってことですか?」


 返事の代わりに、彼は廊下の突き当たりに聳える黒い百合が彫刻された大きな扉の前まで私を連れてくると、迷わず押し開いた。中は、ごく限られた調度品しか置かれていない、上質だが殺風景な部屋だ。


 部屋の中心には一つだけ椅子が置かれており、そこに座った青年の姿に、ヒッと悲鳴が漏れた。乱れた金の髪。顔は蒼白で気を失っている。口には猿轡を噛まされ、幾重にも巻きつけられた鎖で身体の自由を奪われた、その人物が誰なのか。


 一目で悟った私は、あまりの恐怖に震え上がった。


「モーヴハルト王子……!? ど、どうしてこんな……! 王子に一体、なにをしたんですか!?」


『どうして? 俺がこいつを誰よりも憎んでいることは、お前もよく知っているだろう? ーーさあ、初仕事だ。お前の手で、こいつを殺せ』


 眉一つ動かさずに彼は言い、私の手に漆黒の暗器(ダガー)を握り込ませる。わずかな光も反射しない両刀の暗器から伝わる冷気と、言い渡された命令の冷酷さに怖気が走った。


「い、嫌です……っ! 王子を殺すなんて、できません……!」


『嫌? 下僕に拒絶なんて許されないよ。お前は、自分の命惜しさに他人の命を売ったんだ。暗殺者(おれ)の下僕になるっていうのは、そういう意味だよ』


「そ、んな……」


『どうしても出来ないなら、仕方ないね。今回だけ、義兄の俺が手伝ってあげる。出来の悪い義妹のために、特別にね……』


 暗器を握らされた手ごと捕まれ、恐ろしい力で引きずられていく。いくら暴れても、声が潰れるほど泣き叫んでも、サルファードの力は緩まない。


 戦慄く瞳で呆然と見上げた先、彼はその薄い唇に、愉悦の笑みを浮かべていた。


 その冷たい笑みは、ゲームで闇堕ちした彼のスチルそのものだ。


「い、嫌ですっ!! やめてください、義兄様ッ!!」


『さあ、プリマヴェラ。早く、こいつを殺せ』


 漆黒の刃がモーヴハルトの白い首筋にあてがわれ、易々と沈み込んでいくーー


『殺せ』


「嫌ッ!! 嫌です! 嫌あああーーーーッ!!」




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