第一部 ローウェル子爵領 旅立ち
1字下げ忘れのため投稿し直しました。
「ああっ!やっぱり心配だわ!もし道中で獣魔に襲われたりしたら……」
「お母さまったら、何度目よそれ」
家の門の前に横付けされた馬車を前に母のすでに五回は繰り返されたセリフがまたも繰り返され、姉が呆れ気味にため息をつく。
俺はそれを横目に見ながら3つ目の荷物が詰まった鞄を馬車に詰め込んだ。
すでに荷馬車にいっぱいの荷物を先に送っているのだが、何故か荷を送り出した後も荷物は増え続け、
「寮の部屋に入りきらないだろ」
こっそりそう呟かずにはいられない量になっている。
が、それもようやく終わり。
自室で魔力増加の訓練をしたり、レティの所に行って彼女をからかって遊んだり、レティが買ってきた日本のマンガを読み漁ったりしている内にあっという間に時は過ぎて、俺はこれから馬車に乗って王立学校に向かう。
母と姉はその見送りだ。
父や兄たちは仕事のため見送りはなし。
その代わりに父からは銀貨や銅貨たっぷり入った巾着を。
一番上の兄からは鉄の剣を。
二番目の兄からは皮のブーツをもらった。
これまで護身用の短剣だったから剣がもらえたのは嬉しいな。
ブーツもしっかりとした造りのもので、母がいくつも用意したちょっと歩いただけで疲れそうなものと違い実用性の高いものだ。
たまに素振りをしている所に出くわしたりしていたから、兄二人のものはそれで選んでくれたのかも知れない。
存分に使わせてもらおう。
「あの、奥様。そろそろ……」
なかなか出発させてくれない母に馬野番のオヤジが御者台から恐る恐る声をかける。
王立学校のあるゴルディア伯爵領までは馬車でちょうど一日。
隣の男爵領で一泊して、翌日の夕刻に伯爵領に入る。
家や隣の男爵領と違い広大な面積を誇る伯爵領のこと、領内に入ってもそこから祖父の邸がある領都までは馬車で二日。
王立学校がある副領都フォルスの街へは馬車で一日半がかかる。
「そろそろ出ませんとセベラ男爵領に到着するのが夜中になってしまいます」
「ですって。さ、お母さま」
姉が手を引いて後ろに下がった二人に馬車に乗り込みながら手を振って、荷物でずいぶん狭くなってしまった座席に腰を下ろした。するとすぐに馬車が動き始める。
オヤジの焦り具合がよくわかるな。
夜までに男爵領内の町に着かなければ街道で野宿する羽目になりかねないのだから、ムリはない。
俺はドアに凭れて、離れていく自宅を窓の向こうに見送った。
「部屋は二階の一番奥になります。なにかありましたら私は下におりますので」
なんとか無事男爵領の予約していた宿に着いた。
小さいけど小綺麗な宿だ。
出迎えてくれた女将さんが美人だった。
耳がちょっと長くて尖ってだから、もしかするとエルフの血を引いているのかも。
エルフは西の大陸の奥地に住む少数民族で、総じて魔力が高くて美人が多い。女性が生まれやすい種族とも言われている。
確か奴隷にしようと拐われることが多くて、深い森の中に隠れ住んでるとか。
俺も過去の世界でさえ見たことがない。
馬屋番のオヤジと護衛に付いてきた兵士二人は「では」と頭を下げて宿の奥に消えていく。
宿には大抵酒場が併設されているから、そちらで一杯やるのだろう。
俺はというと大人しくあてがわれた部屋に入ると、手荷物を置いてクローゼットに向かう。
自室のものよりも一回りサイズが小さい。
だが、人一人が通り抜けるには充分なサイズだ。
レティには今日は俺の動向を把握して宿のクローゼットに通路を移動させるように言ってある。
「開けゴマ!」
合言葉を言って、一応ノックしてからドアを開けた。
が、中身はただのクローゼットの中身のまま。
『……ち、ちょっと待って下さいー!』
頭の中にレティの声が。
『スミマセン一度閉めてもう一回お願いします』
まったく。
仕事が遅いな。
あの残念女神は。
仕方なくドアを閉めて、もう一度。
「開けゴマ!」
即効でドアを開けた。
「……ちっ」
まだクローゼットのままだったらそれを理由にイジメてやるはずだったのに。
「ほっ、間に合いました」
目の前には胸を撫で下ろしたレティの姿があった。




