第164話(5-4-9)
「ほわ・・・・・ほわ・・・・ほわああああああああああああ!!!!」
私は歓喜の声を上げた。凄い、凄すぎた。あの迫りくる深紅の雷撃を纏った黒い巨大な爆風を、斬ったのだ。彼女の後ろだけ一直線に花畑が残り、それ以外見渡す限り全ての花が爆風で地面ごと捲れ上がり黒い土と共に地面に散らばっている。生きている花は、命は、彼女の後ろだけ。彼女が、二本の剣で爆風を真っ二つに斬ったのだ。改めて、何なんだこの人・・・・・何なんだ、この人!!!
「・・・・姐さん!!」
「あっ、悪いけどハグは今止めてもらいたいな」
あまりの神業に言葉を失っていたエドウィージュさんがそう言ってアンドロメダさんにハグしようとすると、アンドロメダさんが爽やかな顔でそれを拒否した。あれ?意外と冷たい人なのかな?と一瞬思ったがそうではなかった。
「両腕、粉砕骨折した」
彼女はそう言ってニコっと笑ってから二本の剣を無気力に地面に落とした。
「マヂか、姐さん・・・・・姐さんの腕を壊すなんて・・・流石先輩」
エドウィージュさんが花畑の上に置かれたまだ根元から血が滴っているナイトストームさんの頭を拾い上げながら言った。
「君、一応聞いておくけど、その頭は爆発しないだろうね?」
「ああ大丈夫っすね。もう完全に先輩の魔力消えましたから」
「それは良かった。カーラくんにお世話になるのはもう少し先の未来だと思っていたけど、まさか今日だとはね。今度、皆に沢山ソウルティアのお土産を持って行かないとね」
「助かり~~~」
「いいんだよ。君たちが全員『魔女』になったら世界が危ないからね。それにしても、結界の中で戦ってくれて本当にありがとう。周りを見て御覧よ。この有様だ。結界の外だったら軽く番地のひとつやふたつ吹き飛んでいたよ。あの怪物にここで戦うよう仕向けてくれたのはどの子かな?」
「エーデルです。エーデルが彼女をここで戦うように誘導してくれました!」
アンドロメダさんがそう言うと、凄い速さでフランがそう言った。
「そうか。君には特別にお礼を言わせてもらうよ。本当は頭を撫でてあげたいが、もう腕が痛くてもビクとも動かないんだ。悪いね。あとついでだから落ちてる『天装』を腰のホルスターに戻しておいてくれないかい?」
彼女は少し恥ずかしそうにそう言いながら微笑んだ。ホワっとした雰囲気で親しみやすくて、美人で、『罹人』も『テンプル騎士団』も、『一般人』も隔たりなく大事にする。そして、彼女にはそれを現実に出来る圧倒的な『力』がある。私も、いつか、こんな人みたいになりたい。この人は、私の『理想』そのものだ。
「ありがとう。ん??なんだい?そんなにジっと見て。飴ちゃんが欲しいのかい??それなら悪いけど、自分で勝手に取ってくれるかい?」
「あっ、いえ、そのっ・・・・・そっ、そっ、そういう訳じゃ・・・・・」
「そうか。それじゃあ、一旦ここから出ようか」
「そっ、そうですね!」
「ストップ。それなら、先に出てて貰っていいッスか??紛いなりにもお世話になった先輩なんで、一応最後にお別れの言葉言いたさあります」
「そうだね。彼女は君たちの姉貴分だからね。でも、済んだらその頭は持って帰って来て欲しいな」
「ッス」
「・・・・」
「あら、あなた大人しく待っていたのね」
結界から公衆トイレの中に出るなり、おぶっていたフランが暇そうに蓋をした便器の上に座っていたクリームに向けてそう言った。
「当たり前じゃん。僕、もう仲間だから!」
彼女はそう言って親指を立てた。
「それでさぁ、エーデルぅ~~。無事に生きて帰って来れたって事は、なんか僕に言う事ない?絶対あるよねぇ?」
クリームはそう言いながら私の目の前まで来て、ふふんって感じの雰囲気で私の顔をじろじろと見る。
「・・・・・きょっ、今日は、助けてくれて、そっ、そのっ、あっ、ありがとう」
「だよね、だよねぇ!!僕がいなかったら今日の勝利はなかったよねぇ!!だったら、もう一声なんかあるんじゃない?!例えば、コ・レ・と・か」
彼女はそう言って自分の首に巻き付いた機械の首輪を人差し指でコツコツと叩いた。言いたい事が分かった。この首輪は私が頼んで彼女に付けさせた彼女の頭だけを吹き飛ばす小さな爆発を起こす首輪。私がやれと言えば、彼女の頭が吹き飛ぶ。彼女は私の友達を殺した怪物。首輪は、罪の証。でも、彼女の言う通り最初の私の救出作戦は完全に彼女の力が前提だった。今日の全てが彼女のお陰でもあるのは事実だ。今日、今ここに居るメンバーが1人でも欠けていれば今日の勝利はなかった。きっと、この勝利は多くの人を救った筈だ。それでも、それでも、彼女の顔を見ると、どうしても、スリーの顔が、あの日、一緒にお風呂で語り合った最後の思い出が頭を過るのだ。
首輪を外してあげたい。でも、それは、彼女を許す事になってしまわないだろうか。私は、まだ彼女を許せない。でも、彼女は『ヴァルプルギスの夜』に必要な人間で、でも、でも、でも。
「そんな恐い顔しないでさ。言ってよ、〝もう首輪は要らないね〟って」
私に向けそう言った彼女の顔の眼帯のトケイソウが目に留まった。トゥワイスとモアが彼女にプレゼントしたと云う眼帯。2人が見てないところでも付けていると言う事は相当気に入ってるのだろう。
そうか・・・・・・それなら・・・・・・。
「分かった。もう、首輪は、要らないね」
「エーデル、本当にいいの!?!?」
「うん。後で取ってあげて」
「・・・・・・・分かった。これはあなたの所有物だからあなたに従うわ。ついでに首輪は今ここで外せるわ。あなただけが首輪を外せるようにプログラムしてあるから。後ろの切れ目から簡単外せるはず」
「ありがとう」
「・・・・・・でも、本当にいいのね?彼女を信頼するのね」
「・・・・・・・・・・・・うん」
「やりぃい!!話が分かるね、流石我らがお姫様!」
「・・・・・」
「ちょっとちょっと勿体ぶらずに早く取ってよ!」
「あなたの、『ヴァルプルギスの夜』での活躍はフランからよく聞いてる。あなたのお陰で生活に余裕が増えたって」
「そうでしょ、そうでしょ。もっと褒めていいよ!」
「だから、これからも、いや、これからは、本物の『ヴァルプルギスの夜』のメンバーとして引き続き働いて」
「はい任されよ。早く取って取って!」
「皆を、〝トゥワイスとモアを〟、絶対に魔女なんかにさせないで」
私はトゥワイスとモアの部分を強調し、そう告げてから彼女の首輪をゆっくりと外した。予想通り彼女のヘラヘラした態度が凍り付く。
「・・・・・・・それを言うのは、ズルじゃん」
首輪から解き放たれた筈の彼女が、眉を顰めそう口にした。
「ごめんなさい。でも、私はまだあなたを許せてないから。本当は今でも殺してやりたいよ。でも、あなたは多くの『罹人』を救う特別な力を持ってる。あなたとナイトストームさんの違いは私にとってそれだけ。あなたも怪物だけど、あなたは、多分生きていた方が皆のためになる。だから、このまま、生きて、生きて、沢山の人を救って、罪を償い続けて欲しいの」
私は思いの丈を全て彼女に伝えた。自分でも卑怯な事を言った自覚がある。年端もいかない幼い2人に取り入って殺しにくくさせた彼女の行動を逆手に取ったのだ。プレゼントの眼帯で確信できた。爆発する首輪なんかよりもっと強くて重い鎖を新しく付けたのだ。彼女が自分で作った繋がりだ。私はそれを利用した。これできっと彼女は首輪なんてなくとも裏切らない。
幼い2人を利用した。私は最低だ。でも、これで罪を許さず、今日の感謝は出来たと思う。
これでいい。これでいいんだ。
「先輩、負けちゃいましたね。今日先輩が勝ったら世界を救えたのに残念っすね。多分もう誰も私たち『ヴァルプルギスの夜』を止められませんよ。お姫様は頭がお花畑だから気付いてないみたいですけど、クリームの周囲の魔女を集めるって能力は私たちに大量のソウルティアをもたらす事だけに止まらず、同時に現地の『罹人』たちのご飯を無理やり奪い尽くす事にもなる。つまり、現地の『罹人』に諦めて『魔女』に堕ちるか、歯向かって滅ぼされるか、私たちに付き従うかの3択を無理やり迫れる。そんな感じでうちらは今爆発的に勢力が増えてるんすよ。お姫様のお陰でボスや私たちの夢物語がどんどん現実味を帯びてきてる。私たちの『世界征服』、地獄で楽しみに見ててくださいよ」
「・・・・・さて、いい加減飛び散った肉片に向かって話しかけてるのも絵面が悪いんで、そろそろ行きますね。先輩、あの時、チビだった私たち悪ガキ3人組を拾って世話してくれて有難うございます。今度こそ、永遠に、さようなら・・・・・・あっ、ちなみに、この首は姐さんがお土産として欲しがってるんで貰っていきますね!」




