第162話(5-4-7)
「・・・・・エーデル、大丈夫?」
真っ白な意識の中、目を開けると地面に膝をつけたフランが私を心配そうに見ていた。ただかく言う彼女は右腕がなく、右目も潰れ、右膝の下の地面には大きな血だまりが出来ていて、現在進行形で右半身から血がボトボトと滴っている。どう考えても人を心配してる場合じゃない。
「ふっ、フラン!!私は、大丈夫!そっ、それより、早く・・・・カーラさんのところに!!!」
私は起き上がり急いで言った。思ったよりも自分の身体も傷ついていたが、あの強烈な竜巻と真正面からぶつかったフランの怪我に比べればかすり傷みたいなものだ。いち早くエドウィージュさんに頼んで、カーラさんの元に連れてってもらわないと。えっ、エドウィージュさんは、どこ???そう思い立ち上がって後ろを向いた。すぐに見つかった。エドウィージュさんではなく、ナイトストームに。
「エイトぉ、今のは痛かったぜ」
ナイトストームが爆発で出来たクレーターの端っこに立ったまま楽しそうに言う。そっ、そんな・・・・たっ、倒せていなかった・・・・・しかも、まだ余力を残していそうな振る舞い。もうフランは、戦えない。どうしたら・・・・・えっ、エドウィージュさんは!?・・・・・あっ、倒れたまま人間の姿に戻ってる・・・・・・・じゃっ、じゃあ、クリームは・・・・・・・いた。いたけど・・・・彼女も人間の姿で、結界の入り口の空間の裂け目の前で横に倒れピクリとも動いていない。おまけに彼女を囲む花が赤く染められている。そっ、そんな・・・・・そんな・・・・・。
「残念だったなお姫様。クリームはエイトとやり合ってる片手間でテキトウにノシといから。あいつの絶叫には一本取られたからな。にしても、良いね。その顔、絶望に染まった顔。人間のそういう顔好きだぜ。良い顔見せてくれたお礼に良い物見せてやるよ。俺の『ニグレド』。ワープやアリス、トランプに『ニグレド』を教えてやったのは俺なんだぜ」
「・・・・」
「・・・・・デル、あっ、あなただけでも逃げて。私は、大丈夫だから」
「嘘だよ。大丈夫な訳ない。それに、フランや仲間を置いて逃げるなんて!」
「・・・・平気よ、エーデル。大丈夫だから。あなたは、大丈夫。あなたを無事に結界の外に出すくらいの力はまだ残ってる」
フランが消え入りそうな声で私の頬に触れながら言う。
違う。違う。そんなの駄目だ!!
「私だけ無事に逃げて何になるの!?!?そんなの意味ない!!!フラン、少しだけ私に力を貸して!!!私が、私が戦う!!!私があいつを倒す!!!」
「なっ、何を言ってるの、・・・・・そんなの無茶よ。変な気を起こしちゃ駄目」
「私はフランの事を信じてる!!だから、フランも私の事を信じて!!」
「それとこれとは話が違ッ___」
「違わない!!フランは私の事を信じてくれないの!?!?」
「_____ッ」
「フラン、私を信じて。私とフランなら何だって出来るって先に言ったのはフランでしょ??お願い。私に、ほんの少しだけ力を貸して」
私はそう言いながら泣いていた。
フランも泣いていた。
「ああ・・・ああ、あああ・・・・・エーデル、エーデル・・・・そこまで、私の事を・・・・『信頼』が足りていなかったのは、まさか、私の方、だったのね」
フランはそう言って涙を流しながら自分の左手を私の右手に重ね。ゆっくりと、自分の顔を私の顔に寄せる。
「エーデル、私はあなたを信じる。だから、改めてもう一度言うわ。一緒に、世界の全てをひっくり返しましょう」
フランはそう言って私の唇にソっと自分の唇を重ねる。淡く湿った唇の感触。生々しい血の匂い。2人の誓いの証。彼女の唇から力が流れ込み全身を巡る。暗くて、深くて、重たい奔流。でも、信じるんだ。フランの想いを。私一人ではできない。でも、フランと私なら!!!!
「黙って見てたけど、『罹人』でも何でもない奴がリンクで魔力貰ったってたかが知れてるからなぁ。まっ、4人とも綺麗さっぱり片付けてやるよ」
ナイトストームがそう言っておもむろに自分の左手首を自分の口の前に持って行った。それが見えた瞬間、脳内にバチバチと過去の映像がフラッシュバックする。自分の両目を潰して変身したシズカ、自分の頭を捻じって変身したマルグリット、頭から角を無理やり引っ張り出して変身したペイン。自分のお腹を切って変身したメロエ。つまり、人間から『魔女』の姿になるトリガーは自傷行為!!! そうはさせない!!!閃き流、奥義・・・・・迅雷!!!
「っと、危ねぇ。おいおい。一瞬で10mくらい詰めてきやがって。今の、完全に人間がしていい動きじゃなかったぞ!!!」
駄目だ。避けられた。でも、変身は阻止できた。このまま攻め続ければ!!
「___ッ」
小さい竜巻で吹っ飛ばされた。マズイ!!
「人間風情が!!!魔力借りたくらいで調子に乗るんじゃねぇよ!!」
私が体勢を立て直している隙にナイトストームはそう叫び、自分の手首に思い切り噛み付いた。くっ、来る!!!変身の衝撃に巻き込まれないようにフランを遠くへ!!
「フラン、フランはここで待っ__!!」
フランを担ぎ少し離れた場所まで走ってそう言おうとした瞬間、近くに飛行機でも落ちたような凄い音がして、それとほぼ同時に衝撃波が来て私たちは仲良く吹っ飛ばされた。
「フっ、フラン・・・・・だっ、大丈夫?」
「ええ、ええ、、なんとか・・・・・・・でも・・・・・・」
フランはそう言って前を見る様に身振りで伝えて来た。前を見ると、体長20mを悠に超える巨大な黒い煙の集合体みたいな怪物が悠然と私を見下ろしていた。なんとか衝撃波を受けただけで済んだが、さっき一瞬の判断で遠くに離れていなかったら変身時の爆発で死んでいた・・・・・攻撃ですらない変身時の爆発でだ・・・・・私は、巨大な黒い煙の怪物を見上げながら息を呑む。
その怪物が、ゆっくりとした動きで左腕を横に広げる。すると、地面から例の赤い電撃を帯びた黒い竜巻が壁を作るように何本も吹き上がり、それが轟音と共に一気に私たち目がけ襲い掛かってくる。
大丈夫。大丈夫。信じろ、信じろ!!
私たちなら、何でも出来る!!!!今度は、私がフランを守る番だ!!
私はフランをその場に残し、自ら竜巻の方へ突っ込んでいく。
閃き流、奥義・・・・・・雷轟一閃!!!!
「嗚呼、凄い。暗くて、深くて、罪深い、私の魔法なのに。あんなに眩しく見える。私は間違っていた。あなたを守るべき弱い存在だと。私はなんて傲慢だったのでしょう。あなたは誰よりも強い。私の光、私の女神様______」




