第158話(5-4-3)
『今月12日、ベルリン ミッテ地区のホテルアドロンピンスキー付近で巨大な竜巻が複数発生した件について続報です。ベルリンの消防は先ほど本災害の被害者のうち新たに8人の身元を発表しました。消防の発表によりますと死亡が確認されたのは、当ホテルで集会を行っていた現財務省大臣のホルセス・ブラウンさん59歳~~~~~~~~グレタ・イェーケンさん39歳、その次女マリアちゃん9歳の8名です。尚、グレタ・イェーケンさんの長女リザロッテちゃんは病院に運ばれましたが、命に別状はないということです。本災害につきまして気象局は________』
「許せねぇ・・・・・・・許せねぇよ!!!なぁ、ラヴィ!!っておい、大丈夫か?」
「おう゛ぇえええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え!!!」
ニュースを見た後、私は離れたテーブルにいる同期の皆にも聞こえるほど大きな音で派手にえずいた。私のせいじゃない。私のせいじゃないと『ヴァルプルギスの夜』の皆が言ってくれた。それでも、それでも・・・・・・・・10歳にもならない女の子とその母親まで犠牲になってしまったと聞くと・・・・・・私は、私は・・・・・・。
私は口から吹き出しそうになるついさっき食べたばかりのサラダとコーンスープを両手で抑え、頬を膨らませながらトイレに走った。
「げえええ゛え゛え゛・・・・・・え゛あっ、あっ・・・・・・ゅうう゛え゛え゛え゛え゛はぁはぁ・・・・・・あ゛っ、あ゛あ゛げぇえええええ゛え゛え゛」
トイレに駆け込み、床のタイルに膝を付き便器を両手で持ったまま思い切り吐く。夕食をすべて吐き出し、その後も黄色い胃液を吐く。涙も鼻水も止まらない。これまでに発表された犠牲者だけでもう40人を越え、まだ瓦礫に埋もれ行方不明の人が20人以上いる。彼らは、フランが私を助けるために蘇らせた怪物が殺したのだ。本当に、本当に私のせいじゃないの???無理だよ、フラン・・・・・・こんなの・・・・こんなの、堪えられないよ。私は、私は、どうすればいいの???黙ってフランたちが彼女を倒してくれるのを待ってる事しか出来ないの!?!?!
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
便器に向かって叫び、そのせいで喉がやられまた吐き気が上ってくる。
せめて、せめて、フランと肩を並べて戦う事が出来たなら・・・・・・
吐き気が落ち着き、トイレの個室の床に腰を下ろし背中を壁に預け天井を見つめる。私は、本当に何の役にも立たない無能だ。こんな無能の命のために、フランは・・・・・そう思うと、一度収まったはずの涙が、再び頬を伝う。
「ごっ、ごめんなさい・・・・・・・・」
次の日、私は言った。今日はパトロールの日で、どんな仮病を使おうか考えていたが、昨日の例のニュースを聞いて本当に体調がやられてしまった。頭も痛いし、寒気もする。
「いいって、いいって。お前は優しいから、感じ易いんだよな。今日は部屋でゆっくり録画してた猫特番でも観て回復しな」
「あっ、ありがとう、ルミナス」
「ラヴィ、あんたはそうして一生休んでていいよ」
「ザクロ、いくら自分がルミナスと一緒になりたいからってそれは酷いよ」
「べっ、別にそんなんじゃないから!!」
「それに、あいつがいなくなっても、ザクロの相棒はロンネのままなんよ」
「そっ、そんなの分かってるし!それより、ロンネは平気なわけ??」
「何を言ってるんよ。完全無欠のロンネがあれしきのニュースで体調崩すほどヤワな訳がないんよ。むしろ、早くママとパパの仇を討ちたくてうずうずしてるんよ」
「あっそ、良かったね。なら、良かった」
「なんよ」
「・・・・・・あれ? 今のアイコンタクトの感じ、2人の関係何か進展してない??昨晩、2人きりのイベントがあった!?!?あじゅ、アジュ!!ルミナス、決まってる、決まってるギブギブ!!」
「うちのチームメイトが下世話ですまん」
「ルミナス〝も〟大変だね」
「〝も〟ってなんなんよ。〝も〟って。それじゃあ、まるでロンネもこいつらと同じ問題児みたいなんよ」
「そうだけど」
「あっ、あは、はははは」
部屋のソファに腰掛けながら私は少しだけ笑った。今日は、やけに皆が遠くに感じる。同じ部屋の中、こんなに近くにいるのに。後から来た2人がまるで私なんていなくてもいいみたいにルミナスとミーミルと話している。まるで、4人のチームのように。
ここでも・・・・・私は、要らないのかな・・・・・。
「じゃっ、今回は4人でパトロール行ってくるから!お前は大事にな!!」
「いってきま~す」
「ばいばいなんよ」
「さようなら、ラヴィンロール」
「・・・・・・」
「ん? 何か、言い忘れか?」
「あっ」
無意識に背を向け行こうとするルミナスの服の袖を掴んでいた。
「あっ、あのっ、あの・・よっ、4人とも気を付けて」
私は振り絞るように言った。
「も~~~ラヴィったら、そんな今生の別れみたいな顔でやめてよ。どうせ今回も当たり無しで外食してゲームセンターに遠征して帰ってくるだけなんだから!」
「ついでにハッピーエイトでアイスも食べるんよ」
「こいつら舐め切ってんな」
「ほんとだな、全く。いくら討伐隊の3人の巡回ルートが近くだからって弛みすぎるなよな」
「そうだね。『テンプル騎士団』ミーミル、命を懸けてパトロールします!」
「お前が言うとふざけてるようにしか聞こえないんだけど」
「なんよ」
「皆、酷いなぁ。ラヴィ、ちょっと助け舟だしてよ!」
「あっ」
「えっ、どったの??私の顔に何か付いてた??」
「うっ、ううん。なっ、何でもない。ミーミル。ミーミルも本当に気を付けてね」
「お?ぉおおん。なんだかよく分からないけど、今日は本当に気を付けるよ」
ミーミルが私の顔を見て、シュっと真面目な顔になり言った。
そして、4人の背中を見送る。
ふと頭で思ってしまったのだ。フランを苦しめるためには、私を苦しめる必要がある。私を苦しめるためには、『ヴァルプルギスの夜』ではなく強い『罹人』のたちに守られていない私の大切な、大切な、仲間、そして、家族を・・・・・いやいや、きっとナイトストームはそこまで考えていないはず。だいたい一番先に矛先が向くのはまず自分を殺した討伐隊のはずだ。そして、ナイトストームはそこでもう一度討伐隊に倒される。だから。4人は大丈夫だ。大丈夫に決まってる。心配性の私の取り越し苦労だ。4人はどこかのレストランで昼食を取り、ゲームセンターで遊び、帰りにアイスを食べて帰ってくる。そうだ、そうに決まってる。




