第150話(5-2-3)
二人乗りのウサギのゴーカートで煌びやかな電飾とエキゾチックな花たちで飾り付けられた幻想的なコースを進む。運転しているモニカちゃんは見た事もない景色とゴーカートの運転で大はしゃぎだ。でも、右の助手席の私は気が気じゃない。例の遊園地のマスコットみたいな『魔女』が自分の顔のついた変てこなゴーカートで、私たちの左に付け並走しているのだ。そして、たまに私たちに手を振ってくる。いつ襲ってくるか分かったものではない、だから私が注意深く見張っておかないと。
ちなみに、フジマルさんは亀のゴーカートに乗って後ろをノロノロと走っている。フジマルさんまでゴーカートに乗る必要は全く無かった気もするが、流れでこうなってしまった。でも、もし、これが『魔女』の作戦だったとしたら・・・・。
そんな私の心配を余所に規定の周回数を終え、ゴーカートが無事終了した。
「クマさん、楽しかった!見た事ないお花が一杯あって凄く綺麗だった!!」
モニカちゃんが無邪気に『魔女』に言う。すると、『魔女』が〝そうでしょう、そうでしょう〟とでも言いたげに人差し指を立てて、それを上げたり倒したりする。そして、少し離れたバイキングを指差し、モニカちゃんに手を差し伸べる。あっ、危ない!それだけは阻止しないと!慌てて、2人の合間に入りモニカちゃんと手を繋ぐ。すると、『魔女』が〝お姉ちゃんは偉いね〟みたいな感じで私の頭を撫でてくる。なんだか、とってもやりにくい『魔女』だ。でも、こいつは恐ろしい怪物。その事だけはずっと頭に残しておかないと。
『魔女』がバイギングの席についた私たちにしっかりとシートベルトを付ける。そして、身振りで安全バーをしっかり握るように伝える。絶叫系のアトラクションは苦手だが、バイキングなんてちょっと振り子のように揺れるだけだから大丈夫だろう・・・・・・って、そうじゃない!!しっかりと、『魔女』を見ておかないと!『魔女』はモニカちゃんがしっかりと安全バーを握ったのを確認すると、スっと船から降りて少し離れた所から私たちに手を振る。
それを合図に大きなバイキングが少しずつ動き出す。離れたところで見ていた『魔女』は、ポケットからカラフルな瓶と変わった形のストローのような物を取り出し、ストローをカラフルな瓶に付けこちらに向けて吹く・・・・・・シャボン玉を吹いてる。なんだ、コイツ。
「わあああああああああああ!!!」
それから、少しずつ船のふり幅が増えて行き、モニカちゃんが大きな歓声を上げる。私は、思ったよりもバイキングは激しいアトラクションだなと思いながら、『魔女』が悪さをしないように見張っている。『魔女』は相変わらず、沢山のシャボン玉をこちらに送り出している。ちなみに、幻想的な遊園地がよく見えて綺麗だ。
「きゃあああああああああああああああ!!!」
「うおおおおおおおお!!」
「゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!」
ある程度、揺れに慣れてしまってきた頃、急にスピードが上がって振れ幅が大きくなり、私たちは同時に大きな声を上げた。そして、船はその勢いまま逆さまになり、どうして、あの『魔女』が念入りにシートベルトを確認し安全バーの指導をしたのか理解した。
そんなこんなで、今回も特に何の事件もなく。私たちはバインキグから降りた。不規則なタイミングで急加速したり、逆さまのまま停止したり、思ったよりもだいぶ心臓に悪かった。モニカちゃんと、フジマルさんはかなり満足そうだが。私はちょっと吐きそうだ。いや、それより、『魔女』は・・・・・・少し離れたところで無意味に腰を左右に振って、私がモニカちゃんと手を繋ぐのを待っているみたいだ。本当に何を考えているのか分からない『魔女』だ。でも、ひとつだけ確かな事がある。出口もそのヒントも見つけられないままメリーゴーランドまでの全てのアトラクションを終えてしまったと云う事だ。マズい。非常によくない。
そして、出口らしきものすら見つけられないまま、『魔女』に連れられるがまま、ついに最後のメリーゴーランドまで来てしまった。
「なぁ、クマ公。さっきのバインキングで随分ハードル上がってるけど、最後の締めがメリーゴーランドで大丈夫か?」
フジマルさんが言う。何の心配をしているんだこの人は!
それに対して、『魔女』は両手の親指を立てて、私たち3人にメリーゴーランドに乗るように促す。乗っては駄目と、本能が言ってる気がする。でも、幻想的で美しいメリーゴーランドに目を奪われている一瞬の隙にモニカちゃんの手を握る私の手が一瞬緩み、モニカちゃんが白とピンクの馬車に走って行ってしまった。連れ戻そうと、馬車の方へ走り私もメリーゴーランドの領域に入ると、『魔女』が右手をパチンッと鳴らした。
「すごーーーーーーーーい!!!!」
モニカちゃんが今まで一番大きな歓声を上げる。しかし、私はそれを見て恐怖で言葉を失い、馬車の手前でその光景を目の当たりにしたまま凍りついた。『魔女』が指を鳴らした直後、メリーゴーランドの外の景色が、今まで歩いてきた道が、アトラクションが、曇天の空ごと全て深い闇に崩れ落ち、一瞬で色とりどり星と不気味な月の浮かぶお伽噺の中の夜の世界になってしまったのだ。今、この『結界』にあるのは唯一の高台となったこのメリーゴーランドと多分落ちたら二度と帰れない『結界』と『現実世界』の狭間『深淵』だけ。もう逃げ場はどこにもない。
「・・・・・・なんじゃこりゃ」
ギリギリメリーゴーランドの領域に入っていて『深淵』に落ちるのを免れたフジマルさんが突然眼前に広がった夜空を見ながらそう漏らす。すると、『魔女』はそんなフジマルさんの肩を叩き、身体を低くお辞儀をして〝さぁ、早く馬にお乗りください〟と身振りで言う。夜空に煌めくメリーゴーランドのイルミネーションがそんな『魔女』を不気味に照らす。
「フジマル、フジマルも早く乗って!じゃないと始まらないよ!」
「おいおいおい、いくら夢だからって、こいつは、すげぇなぁ」
「フジマル、早く早く!!」
「おう、待ってろ。すぐ行く!」
フジマルさんはそう言って、颯爽と馬に飛び乗った。この人・・・・・だいぶ、楽しんでる気がする。
ついに逃げ場がないところまで連れてこられてしまった。でも、私には何も・・・・・武器もない、片腕だけでは何も・・・・。いや、ほんとうに何も出来ないのか??考えろ、考えろ!!最終手段としては一応話が通じそうなので無事に帰して貰えないか交渉してみる???話を聞く気が無かったら、こんな落ちたら一巻の終わりの彼女のフィールドで、武器も無しに彼女と戦う??私は、どうすれば・・・・・・。
そんな思考を巡らせていると、不意に視界の端の『魔女』が目に留った。
メリーゴーランドの端っこで夜空を見上げている。何をして・・・・そう思った刹那、『魔女』の身体が、『深淵』へと落ちて行った。
「は?」
「クマちゃん!?!!?」
「あ゛っ?」
3人の声が重なった。
意味が分からない!!!あいつ、何をして!?!!?
しかし、数秒後、それがアトラクションの始まりだと分かった。『魔女』が両手を広げ、空飛ぶ大きな真っ白のクジラの背中に乗って『深淵』の底から、カラフルな光の粒を携え上がってきたのだ。
「うおぉぉわああああああああああああああああああ!!!!」
モニカちゃんが目を輝かせて叫ぶと、それを合図にしたようにメリーゴーランドが動き出し、先ほど『魔女』がモニカちゃんに見せたオルゴールと同じ音楽が流れ出す。
『魔女』は空飛ぶクジラの背中で指揮するように腕を動かし周りの色とりどりの光を操りながら、メリーゴーランドの周りを回遊する。光はどんどん増え、メリーゴーランドの周りに眩い光の海が出来る。その光の海の中を空飛ぶクジラが悠然と泳いでいるのだ。それは、今まで私が見てきた景色の中で、間違いなく一番見事な光景だった。一瞬、呼吸すら忘れてしまう程、見事な光のショー。
時々うち上がる球状の花火や海月のように気まぐれにフワフワと漂うカラフルな風船が、私たちを更に幻想的な世界に引き込んでいく。
「わーーーーークジラさん、こっち来たぁああああああああ!!!!」
「うっ、うん、すっ、凄いね!!」
「わーーーーーーーお口から一杯シャボン玉が出て来たよ!!!」
「綺麗だね。触っちゃおうか!」
「うん!わーーーーー、触ったら弾けて金ぴかのシュワシュワが出てきたよ!」
「アハハハハハ、本当だね!!!綺麗!!!」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ!!!フジマルも楽しい!?!!?」
「おう、こんなの俺も初めてだぜ!!!」
「アハハハハハハハハハ、来れて良かったね!」
「うん、そうだね!!!」
「おう!!!!」
瞬く光のショーの中、花火や光が流れる音に負けないよう大声で話す。
そして、時が経ちショーはクライマックスを迎える。『深淵』から大量に登ってきた数多の風船がメリーゴーランドの周りを囲み、それが一気に弾け、虹色の滝が出来る。その虹色の滝の中を空飛ぶクジラが光を纏いながらアクロバットに泳ぐ。それはもう見事と云う他なかった。
虹色の滝が消えると、『魔女』はこちらに寄ってきてクジラの背中からメリーゴーランドに飛び移った。そして、何もない空間に左手をかざし、虚空を握りつぶした。すると、周りの夜空がグチャっと歪み、一瞬で周りがバルーンハウスの中みたいになった。メリーゴーランドの外の領域は『深淵』ではなくボールプールに変わっている。もうこいつ何でもアリだな。まぁでも、楽しいからいいか。
『魔女』はボールプールにぴょんっと降り、落ちているボールをひとつ手に取って、それをフジマルさんに投げつけた。フジマルさんにぶつかったボールはパンっと弾けカラフルな小さい光を一瞬出した。
「イタっ_____くねぇな、おい。まあ1回は1回だぜ」
フジマルさんはそう言って馬から降り、ボールプールからボールをひとつ取り『魔女』に向かって投げる。すると、『魔女』に当たったボールが小さい光の花火に変わる。なんだか、楽しそうだ。そう思い私が馬車から降りる頃にはモニカちゃんはもう飛び出して笑顔で『魔女』にボールを投げていた。そんなモニカちゃんに遠巻きに近付き、こっそりボールを拾い、それを彼女の頭に向かって投げる。
「あたっ!!あっ!エーデル、やったなぁ!!これでもくらえ、ボールガトリング!」
「あはははははははは、モニカちゃんやめてぇー!!!」
「よしっ、援護するぞ、エーデルちゃん!!!」
「ズルい!!!じゃあ、私、クマちゃんとチームになる!!!クマちゃん!!2人を一緒にやっつけちゃおう!!!」
「あびゅっ。モニカちゃん、凄いコントロール!!」
「負けてられなねぇぞ、喰らえ、クマ公!魔球・シューティング・デス!!!」
「クマちゃあああああああん!!!!」
「はははははっ、やったぜ、コラっ!!!」
「クマちゃあああああん、立ってぁええええええええええええ!」
「うわっ、立つの早っ!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!」
「うりゃうりゃうりゃあ!!!!!」
「にゃあああああああ!!!!!!」
「はっはっはっはっはっはっは」
「アハハハハハハハハ」
「うひへへへへへっ」
あははははハハハ。
楽しいなぁ。楽しいなぁ




