第148話(5-2-1)
ノクターンさんに頼まれヴィース巡礼教会の審問官さんに報告書を届けた帰り道の電車の中。窓の外の優しい夕焼けが眠気を誘う。それにしても、向こうの審問官のドゥルジさんもノクターンさんに負けず劣らずの中々のクセものだった。ドアフォンを鳴らし返事が来てからオフィスに入ったのになぜか部屋が真っ暗で、おかしいなと思って名前を呼ぼうとしたら、不意に暗闇から真っ白い腕が伸びてきて心臓が止まるかと思った。肌は真っ白だし、フリフリの黒いドレスを着ていてフランス人形みたいな人だった。本当に教会には色んな人がいるんだなと改めて思った。
そういえば、この車両、人が少ない気がする。あまり電車に乗らないので分からないが、ちょうど学校帰りや主婦が家に帰らなきゃいけないこの夕暮れ時の車両に私以外2人しか乗っていないなんてちょっと不思議だ。1人は半透明な茶色いサングラスをした金髪のちょっと不良っぽいお兄さん。椅子の端っこに座り壁にもたれ掛って爆睡しているみたいだ。もう1人は黄色いコートを羽織った茶髪の女の子。歳はトゥワイスやモアと同じくらいだろうか。ピンクの鞄を抱きしめこっくりこっくりしている。
そんな2人を見ていたら更に眠気が・・・・・降りる駅まであと6駅、ギリギリ起きれるだろうか???
ふわあああ。大きな欠伸が出た。少し眠ろう。多分起きれる、多分。それに、仮に終点まで寝過ごしてしまっても全然取り返しのつかなくなる時間じゃない。寝よう。うん。
「・・・・ちゃん。・・・・・嬢ちゃん」
みゅ・・・・うーん、・・・・・うぅうん、もう少し、もう少し・・・・・はっ!!
私は寝過ごしてしまった事を悟り、ハっと目を開けた。すると、目の前にいたのは終点に着いて起こしに来た車掌さんではなく先ほど壁にもたれ掛かって爆睡していた茶色いサングラスをした金髪のお兄さんだった。横には黄色いコートを着た茶髪の女の子もいる。
「嬢ちゃん、外見てみ。面白い事になってっぞ」
金髪のお兄さんがそう言って、後ろの窓を見る様に促してきた。
「・・・・・・遊園地の、エントランス????」
私は言った。私の目に映ったのは、どこの駅でもなく大きな噴水と色とりどりの花が植えられた綺麗な花壇のあるどこかの遊園地のエントランスらしき場所だった。空は夕焼けではなく曇天・・・・・・どっ、どういう・・・・・・座席に膝を乗せより詳しく見ると、どうやら私たちの居た車両だけポツンとここに飛ばされたようだった。いや、どういう事!?いや、いや・・・・・おち、落ち着け、寝起きのモヤモヤを払って考えろ・・・・ここは、『魔女』の結界・・・・・いつ、いつ、入った? それとも、最初からこの車両そのものが・・・・どっちにしろ、今、私は左腕にギブスを巻いていて戦えない。どうしよう、どうしよう!!
「お姉ちゃん、きっと、私たちの日頃の行いが良いから神様が秘密の遊園地に招待してくれたんだよ!!!だから、早く外に出よう!!」
心配で頭が一杯の私を余所に黄色いコートの女の子が無邪気に言う。武器が使えなくても、この子だけは・・・・・いや、お兄さんも。絶対に、絶対に、無事に帰すんだ。武器が使えなくても出口を探すくらいなら。でも、どう説明すれば・・・・。どうせ無事に外に出られたら忘却薬を飲まして記憶を消すので洗いざらい全部話してしまおうか?変に嘘をついて頑張って誘導するより、ここがどんなに恐ろしい場所なのかきちんと説明した方が危険は減るだろう、多分・・・・よしっ、決めた。
「あっ、あのっ!」
「にしても、こんなリアルな夢、初めてだな。折角だし、モニカちゃんの言う通り遊園地の中、入ってみっか。ここに残って夢が覚めるのを待ってるのも面白くねぇしな」
「わーい!!!行こう行こう!!」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと、待ってください!!」
「あっ、どうした?そっちの嬢ちゃん・・・・えっと、名前は」
「えっ、わっ、わっ、私は、えっ、エーデルです、はい!」
「よし。よろしくな、エーデルちゃん。それで、どした?」
「あっ、あのっ、ここは、そのっ、ゆゆゆゆ、夢の中じゃなくて・・・・・」
「エーデルちゃん、面白い喋り方すんね」
「・・・・・・・・はい。あの、それで、話の続き・・・・」
「悪い悪い」
「あのっ、しっ、信じて、貰えないかもしれない、です、けど・・・・・」
「フジマル!!!!開いたよ!!!」
話しの途中で黄色いコートの女の子が、えっと、確か、モニカちゃんって呼ばれていた女の子が、嬉しそうに叫び、さっきまで閉まっていた筈の車両のドアから勢いよく外に飛び出して行ってしまった。ああああああああああ!!!私は自分でもビックリするスピードで車両を飛び出し、噴水に向かう彼女を後ろから義手で捕まえ抱き寄せた・・・・あっ、危ない!!
「はあはあ。ひっ、ひっ、1人で、行ったら、迷子になっちゃうから、おっ、お姉ちゃんたちと、いっ、一緒に行こうね」
「あははははは。お姉ちゃんの喋り方へーーん!!!」
「あっ、あははは、そっ、そうだね・・・・でも、これからは、1人で行かないでね。しっ、知らない場所で、はぐれたら、大変だから。もっ、モニカちゃんは良い子だから、そのっ、分かってくれるよね?」
「うーーーーん、分かった!モニカ良い子だから、ちゃんとフジマルとお姉ちゃんと一緒に回る!!モニカね、モニカはまずメリーゴーランドに乗りたい!!」
「ぁあああ、うん・・・・・・えっと」
「まあいいんじゃね。どうせ夢なんだから楽しまねぇと、損じゃん?」
応えに窮していると、サングラスのお兄さん改めフジマルさんが私の背中を軽く叩きそう言ってきた。
「人生楽しまなきゃ、ソン、ソン!」
「おっ、いい事言うねぇ、モニカちゃん!」
「フジマル、フジマルは、何に乗りたい!?」
「俺か、俺は何でもいいわ。モニカちゃんとエーデルちゃんの好きなモノに乗り」
「分かった、ありがとう、フジマル。それじゃあ行こう!お姉ちゃんもう離して!!もうモニカ1人で行かないよ!」
「うっ、うん・・・・あのっ、でも、中に入る前に2人とも聞いてください!!」
私はモニカちゃんを地面に降ろしてから、真面目に聞いて貰える様に語尾を気持ち強めにして言った。ここではっきり伝えておかないと、2人の夢見心地の雰囲気のまま遠足気分で人間を食べる恐ろしい怪物の住処に赴く事になってしまう。
「こっ、ここは、夢の中じゃないです!!この空間は、『魔女』って呼ばれる怪物の住処で、私たちは眠っている間に引き込まれてしまった、みたいなんです!」
「何言ってんだ? エーデルちゃん」
「まっ、『魔女』は人を食べます。だっ、だから、私たちの、やるべき事は、その『魔女』に見つからないように、この空間の出口を探していち早く現実世界に戻る事。たっ、多分、それ以外、現実世界に戻る、道は、ないと思います」
「・・・・」
「・・・・」
私が話を終えると、フジマルさんとモニカちゃんがキョトンとした顔で顔を見合わせた。
「なるほど・・・・・つまり、そういう設定の夢って事か」
「えっ、どういう事??フジマル」
「つまりだな、これは脱出ゲームな訳だ。怪物に見つからないように遊園地の中にある出口を探すゲーム」
「うーーん、よく分らないけど、楽しそう!!!」
「おう、いっちょやってやるか!2人とも安心しな、もし怪物に見つかっても俺がぶっ殺してやるから」
「あっ、いや、それは・・・・・」
「心配すんなって、こう見えても、お兄さん強いからよ!」
フジマルさんが指をパキパキ鳴らしながら言う。でも、心配しかない。
私たちは、無事この空間から脱出できるだろうか。




