第147話(5-1-3)
「フリージャと同じくヴィース巡礼教会から来たロンネなんよね。趣味は鉄道模型を集める事と鉄道の写真を撮る事。所謂、撮り鉄って奴なんよね。あっ、でも、ちゃんと撮影する時は役所や地主さんに許可を貰うか同行して貰ってる光の撮り鉄だから迫害しないで欲しいんよね。最近は闇の撮り鉄の悪行ばかりが目立って、ロンネのような光の撮り鉄まで白い目で見られて困るんよ。それで、好きな食べ物はチョコミント味の食べ物全般。中でもおすすめはハッピーエイトのチョコミントアイスなんよね。シンプルイズベスト、あれこそ起点にして頂点なんよね。嫌いな物は、生魚と嘘つきと『罹人』。生魚は磯臭くてどうしても無理なんよね。嘘つきはシンプルに嫌いなんよね。ロンネに嘘は通じないから嘘つきは覚悟しておくんよね。それで、『罹人』が嫌いな理由は、後でこの教会に来た経緯と一緒にじっくり話すから楽しみにしていて欲しいんよね。次は夢、ロンネの夢は、一杯一杯『魔女』と『罹人』を殺して功績を積んで審問官になって、自分だけの大きな部屋を貰って部屋一杯に鉄道模型とジオラマを飾る事なんよね。早く貸倉庫で眠ってる電車ちゃんたちに日の目を見せてあげたいんよ。だから、皆、ロンネの昇進のために協力して欲しいんよね。ロンネは強いから、『魔女』や『罹人』を見つけたら遠慮なくロンネを呼んでもらっていいんよね。ロンネはロンネが〝敵〟を倒したと云う事実さえ残ればいいからソウルティアも要らないんよ。それで、ここからは、満を持してロンネがこの教会に来た経緯、ロンネが『テンプル騎士団』を志した経緯の話を・・・・・・」
「ストップ、ストップ!」
「クマの先生、止めないで欲しいんよね」
「その話はまた今度にしょうな!!」
「そうしたらクラスの皆がロンネがどうして『テンプル騎士団』になったか気になってきっと今日の寝付きが悪くなってしまうんよね。だから、皆のために今ここで話さないと駄目なんよね」
「ロンネの両親はナイトストームと呼ばれた『罹人』の大量殺戮に巻き込まれてロンネの目の前で亡くなりました。だから、ロンネは『罹人』が大嫌いで、『テンプル騎士団』になりました。ちなみにナイトストームは無事教会の討伐隊に討伐されもういません」
「フリージャ、涙なしでは語れないロンネの悲しい過去を3行くらいのトークで終わらせないで欲しかったんよね。オチがバレちゃったら、もう面白くないんよ」
「ロンネ、ホームルームの時間もうとっくに過ぎてる。教室の外で待ってるあの若い先生の顔見て」
「この世の全てを諦めたような悲しい顔をしているんよ」
「・・・・・ロンネのせいだよ」
凄いのが来た。多分、私以外もそう思っただろう。
ただお喋りな子なら良かった。だが、事件が起きてしまった。彼女がこのクラスに来て初めての中休み。クラスの誰かが忠告するよりも早く。彼女は神速でこのクラスの地雷のひとつを思い切り踏み抜いてしまったのだ。
「朝からずっと気になってたんけど、おまえ何でそんなダサい服着てるんの??」
ロンネは授業が終わった後すぐに立ち上がって私の斜め後ろのセンスの席の前まで行き、まだ席についたままのいつも通りカラフルで個性的な服を着た彼女に向かって言った。その光景を目撃してしまった私はあまりのショックで持っていた鉛筆を床に落としてしまった。いや、ショックを受けたのは私だけではない。クラス全体が凍りつく。
「は?」
センスの返答はそれだけだった。
「いや、〝は?〟じゃなくて。何でそんなダサくて奇抜な服着てるんのって。誰かに虐められてその服着ろって言われてるんの???それならロンネが助けてあげるんよ???」
それを聞いたセンスが静かに立ち上がり、ソっと机を横にずらす。
「何なn__」
言葉の途中でロンネの顔面に強烈な蹴りが炸裂し、吹っ飛んできたロンネの身体が見事に私の机を押し倒し、机の上のノートと筆箱、中の教科書を床にぶち撒く。あんな綺麗な上段回し蹴り初めて見た。いや、それよりロンネが・・・・・・・。
「だっ、大丈夫?」
何で蹴られたのか本気で分からないと言った表情で蹴られた右頬を抑えて尻もちをついているロンネにとりあえず手を差し伸べる。
「今、ロンネ、何で蹴られたんの?」
「・・・・・あっ、あっ、あのね、ロンネ・・・・」
「お前の喋り方、なんか吃ってて気持ち悪いんよ」
「・・・・」
「急に黙らないで欲しいんよね」
「・・・・」
「あーーーもういいんよ。これが、こっちの教会の〝歓迎〟って訳なんね」
ロンネは、久しぶりに吃りを指摘されてショックで言葉を失いぷるぷる震えている私の手を払いのけ右手を床につけた。何をするんだ?っと思った瞬間、そのついた右手だけを軸にクルっと回転し、逆立ちになって油断していたセンスの鼻に手痛い蹴りを入れた。
かっ、カポエラ!!?
「語尾だけじゃなくて、戦い方もイカれてんなお前」
鼻から流れた血を親指でサっと拭き取りセンスが言う。
「イカれてるのはお前の服のセンスなんよね」
両手を床に付けカエルみたいな体勢をしているロンネが火に油を注ぐ。
おっ、お願いだ、もっ、もう止めてくれ!!!
「殺す!!」
「なんて野蛮な歓迎をする教会なんよ。でも、受けて立ってやるんよね」
「後悔させてやるよ、ナンヨ」
「〝ナンヨ〟じゃなくてロンネなんよね」
「どうでもいいわ、死ね!!!」
「痛い目を見るのはお前なんよね!!!」
もう駄目だ!と私が目を背けようとした瞬間、2人の勇者が今にも殺し合いを始めそうな2人を止めてくれた。1人はブライトだ。ブライトがセンスを羽交い締めする。
「センス、熱くなり過ぎだぜ。あいつとはたまたま服の好みが合わなかっただけだろ。きっと、あいつはガキだからすぐ口に出ちまうんだ。だから、お前が大人になれ、なっ??」
「・・・・・分かった、わ」
「よし。お前は、大人だな」
もう1人はフリージャだ。フリージャがいつもの爽やかでなんとなく儚い顔のままカエル座りしているロンネの両肩を思い切り押さえつけている。
「ロンネ、ロンネは思った事をすぐに口にしないようにトレーニングしようね。ロンネも言われたら嫌な事があるでしょ。例えば、いつも被っているあの大きなキャスケット、汚いから早く捨てろって言われたら」
「許さないんよね!!!あれはパパとママの唯一の形見なんよね!!!」
「そうでしょ。だから、ロンネは言葉を口に出す前にそれを言っていいか一旦止まって考えないと。お互いのためにね。じゃないと、知らない間にキャスケット燃やされちゃうよ」
「それは絶対駄目なんよね。犯人を殺してもキャスケットは戻らないんよね」
「そう。失ってから後悔しても遅いんだよ」
〝失ってから後悔しても遅いんだよ〟フリージャはとても悲しそうな顔で言った。
まるで、自分に言い聞かせるように。
とにかく、2人の勇者のお蔭で最悪の事態は回避できた。フリージャもかっこ良かったが、ブライトもかっこ良かった。やっぱり、ブライトも御多分に漏れずクラス想いの良い人なんだ。私にだけ冷たいだけで。
過去最高に心臓に悪い中休みだった。
事の発端のロンネとセンスに倒れた机や散らばった勉強道具を元に戻すのを手伝ってもらいながら思う。優しい口調で気遣いが上手なフリージャが優しい〝そよ風〟なら、ロンネは荒々しい〝竜巻〟だ。
だが、私にとってのロンネは、ただの〝竜巻〟よりももっと恐い存在。なぜなら、ロンネは両親を『罹人』に殺されているのだ。『魔女』に父親を殺されたルミナスよりももっと直接的に『罹人』を恨んでいる。『罹人』の友達が沢山いて、『罹人』に助けられてきた私と、『罹人』に両親を奪われたロンネ。彼女とは必ずどこかで衝突する。これは予感じゃなく、宿命。
戦いたくない、殺し合いたくない。でも、どうしたら彼女と分かり合えるだろうか。
私はロンネの席の横に掛かったあの大きめのキャスケットが視界に入る度に胸を焦がすだろう。




