第146話(5-1-2)
「ほへひしへほ、ひょへおああはえひなんへあうぃえややふやあ」
「うっ、うん」
「ちょっとちょっと、駄目だよ、ラヴィ。ラヴィがそうやっていつも返事しちゃうからルミナスがお口に物入れながら喋る癖が治らないんだよ!」
「ごっ、ごめん・・・・・」
「幼稚園生じゃないんだから、こういうのはきっちり卒業して貰わないと!」
「ひひゅにひ・・・イゃねぇかよ。伝わってるんだから。ラヴィ、俺がさっき何て言ったかちゃんと分かってて返事したんだろ???」
「〝それにしても、初手お墓参りなんて真面目な奴だな〟だっ、だよね?」
「ほらな?」
「〝ほらな〟じゃないよ、もう!!!そんなんじゃ、またカスケードに馬鹿にされるよ!いいの!?」
「・・・・・まぁ、でも、あいつだって目につく変なクセあるだろ?」
「そうだっけ?? 例えば???」
「・・・・・・・・」
「るっ、ルミナス?」
「ちょっと、今は思い出せないけど」
「もーーーーールミナスってば」
「あっ、あっ、あははは・・・・・・・・」
土曜日の朝、私はオコジョとクズリと一緒に太極拳をやった後、こうして同じチームの2人と食堂で朝食を取る。だいたいの人は毎日チームの人と朝食を取るが、私の場合、月火水木は6階のラボで実験の下準備をして、そのまま6階の休憩室で6階の皆と食事をとる。金曜日の朝はノクターンさんの部屋の掃除をして、そのままフィンブルさんの手料理をノクターンさんと一緒に頂く。とはいえ、流石のルミナスも〝何で毎日俺と一緒に朝食を取らないんだ!〟とかは言わない。昼と夜は毎日一緒なのだから。
それにしても、隣の空席がよく目に留る。ザクロが来る前はここの空席が当たり前だったのに、今はもう私の隣ルミナスの向かいは完全にザクロの指定席だ。なんとなく私だけ目の仇にされているような気がしない事もないが、ザクロがあの時の戦いで死ななくて本当に良かった。もし彼女が受け身を取れずに死んでいたら私たち3人は空席を見る度に心を痛めていただろう。なぜか彼女とはよく衝突するが、やっぱり、早く退院して戻って来て欲しい。
「あのっ、ここ座っていいですか?」
そんな事を想いながら私がコッペパンを口にしようとした瞬間、後ろから聞き覚えのある儚く透き通った声が聞えた。パンを置いて後ろを向くと、そこには朝食のおぼんを持ったフリージャが立っていた。
「あっ、、、、あっ、おっ、おおっ、おはよう・・・・フリージャ!」
「おはよう、ラヴィータ」
フリージャが優しく爽やかに微笑む。相変わらず嘘みたいな美人だ。
「およぉ、これが巷で噂のフリージャちゃんですか。こりゃあ噂以上の別嬪さんだわ。どうぞどうぞお座りください!!」
そんなフリージャの風貌を見たミーミルが露骨にテンションを上げて、手早く近くから誰も座っていない椅子をひとつ引っ張ってきて新たにお誕生日席を用意してそこにフリージャを座らせた。
「ごめんね、ラヴィの隣は今入院中でいないザクロって子の指定席だから」
そして、言う。
「そうなんだ。こちらこそ気を遣わせてごめんなさい」
「なんのなんの。私は、ラヴィと同じチームのミーミル、どうぞよろしくね!!」
ミーミルはそう元気に言い放ち、半ば無理やりフリージャと熱い握手を交わす。そして、中々離さない。フリージャが困ってる。困ってる顔も綺麗だ。いや、まず止めないと。
「今度はお前の悪いクセが出てんぞ」
しかし、私が席を立つ前にルミナスが興奮するミーミルのベルトを引っ張り無理矢理席に戻した。良かった。流石、ルミナス。
「はっ!こいつは失敬。つい興奮して野生の一面が出てしまいました」
「・・・・・野生の一面」
「ごめんな。こいつビアンで同年代の美少女にはいつもこんな感じなんだ」
「そっか。じゃあ私は、美少女ってカウントして貰えたんだね。それは嬉しいな」
「ははっ。でも、あんまり気を許すとマヂで尻とか触ってくるから気を付けろよ」
「ちょっとちょっと、ルミナス、初めましての子に何てこと吹き込むの!!違うよ、今のはルミナスが私を貶めるためについた嘘で!!」
「わっ、私と、初対面の時は、じっ、自己紹介する前から、わっ、私の、お尻触って、きっ、きたよね?あっ、あの時、こっ、恐かったよ」
「ラヴィまで!?」
「ふふっ、3人は本当に仲良しなんだね。えっと、それで、そっちの白い髪の子がルミナスなんだね。これから、よろしく」
「おっ?おう、よろしくな!!」
「ルミナスは真っ白い花みたいで、見てて安心する」
「・・・・・・もしかして、俺の事、口説いてるのか?」
「あっ、いや。私の知り合いにも髪の白い子がいるんだけど、その子と君は対照的だなって思って。彼女は君みたいに快活なタイプじゃなくて、口数も少ない子で、でもずっと燻っていて、君の白が花なら、彼女の白は、灰みたいなんだ。切なくて、恐い、燻った灰」
「そいつに何かされたのか?」
「いや、私が教会に拾われる前の友達なんだ。今頃どうしてるか」
「ふーんそっか。なんか複雑な事情がありそうだけどまた会えるといいな」
「・・・・そうだね」
フリージャは少し含みのある同意の仕方をしてから、床に置いた自分のバッグからおもむろにオレンジ色のドロドロした何かが入った小瓶を取り出しテーブルの上に置いた。そして、コッペパンをひとつまみ千切り、バターナイフで小瓶の中身を千切ったコッペパンに塗り始める。
「マイジャムを持ち歩いてるなんて見た目によらずやるね。オレンジジャムかな?」
思わずミーミルが聞く。
「あっ、これはオレンジじゃなくて梅ジャム」
「ほほぅ、中々渋いチョイスだね。私も少し貰っていい?」
「うーん、いいけど、私の手作りだからあんまり味は期待しないで欲しい、かな」
「はーーー手作りね、手作り!?!?」
「うっ、うん・・・・・私、ジャムを作るのが、趣味だから」
「あらまぁーーーーなんつー女子力!!」
「・・・・・女子力」
「これは凄い女子力ですよ。ねぇ、ラヴィ」
「えっ? うっ、うん」
「それじゃあ、まあ手作りって事で評価は甘めって事で」
「有難う。そう言って貰えると気が楽だよ」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・マズい」
「ちょっ、ちょっ、ちょっと!」
「おい、ミーミル、そんなはっきり言わなくてもいいだろ!!」
「これは非常にマズいよ。こんな美味しいジャム食べたらどんな男もフリージャにメロメロになっちゃうよ!!ただでさえ息を呑むほどの美少女なのに!!!こんな美味しいジャム作っちゃって!!フリージャ、フリージャの手作りジェムを男に食べさせるのは禁止します!!絶対禁止!!」
「えっ、えっ??」
「そんなに美味いのかよ、なら俺もいいか?」
「わっ、わっ、私もいい?」
「うっ、うん」
「うっっま」
フリージャの手作りジャムを口にした後、ルミナスが言う。私は何度も首を縦に振りそれに同意する。こんな美味しいジャム生まれて初めて食べた。梅と云うから少し酸っぱいのかと思ったら全然そんな事なく、爽やかな梅の甘さが口の中でジュワっと広がり、文字通りほっぺが落ちそうになった。美少女で、お淑やかで、おまけに美味しい手作りジャムまで作れるなんて・・・・完璧超人すぎる。ミーミルがああ言った気持ちもなんとなく分かってしまう。こんなの男子には堪らないだろう。同性で、ビアンではない私でさえ心惹かれそうになってしまうのだから。
「・・・・気に入って貰えたみたいで良かった」
そんな私たちを見て、フリージャが例の人懐っこい幼気な少女のような笑みを私たちに送った。ギリギリ恋はしていないが、絶対フリージャにはエンヴィとチームになってこの教会に残って欲しいと思う。きっと、フリージャならすぐにここの教会の個性的なメンバーにも馴染めるだろう。
もしこれからBクラスに入る2人を〝新しい風〟と表現するなら、フリージャは〝そよ風〟だろう。そして、もう1人、ザクロの相棒になるロンネは_______。




