第140話(4-12-6)
鎧のような甲殻を纏った巨大な『魔女』が持っていた黒い人の形の何かを思い切り握り潰し、大きく振りかぶる。何だ、何を、して・・・・・・。
「ラヴィ!!!」
叫びが聞こえ横を見ると、ミスリードが私めがけ全速力で突進してきていた。
「あギュ!!!」
私はそのまま彼女のタックルを受け、思い切り地面のタイルに叩き付けられた。痛い。急に何を、そう文句を言おうとした瞬間、さっきまで私がいた場所が、轟音と共に砲撃を受けたように破壊され、抉れたタイルの残骸と下の土が私の方まで飛んできた。心臓がばくばくと高鳴り、呼吸が荒くなる。私が、あのまま、あそこで立ち竦んでいたら・・・・。
「バカ!!何ボケっとしてんの!?!?」
ミスリードが私に覆い被さったまま怒鳴る。その通りだ。でも、恐怖で、声が出ない、息が苦しい。震えが止まらない。
「これ・・・・・・今、あいつが、投げてきた黒いの・・・・・タナトスじゃん」
屋根を降りこっちまで来たザクロがさっきまで私のいた場所を見ながら震えた声色で言い、黒いグチャグチャになった何かからゆっくりと焦げたネックレスを拾い上げた。・・・・・・は???
「これ、私が、ダッサって馬鹿にしたネックレスじゃん・・・・ふざっ、、ふざけんなよ・・・・・ふざけんなよ・・・・・・ふざけんなよ」
ザクロがネックレスをそっと元に戻し、静かに『天装』を展開する。
「ザクロ、迂闊に飛び出すな!!!!」
「ふざけんじゃねぇよ、トリケラトプス野郎!!!!!!!」
ミスリードの忠告を無視し、ザクロが怒りのままは魔女の方に走り出す。
駄目だ、行っちゃ、駄目だ。ザクロ、ザクロ!!
「ぁガっ」
それは一瞬だった。『魔女』の手の甲が走ってきたザクロの身体を2軒先の民家の中まで弾き飛ばした。手の甲が彼女の身体に当たった瞬間、彼女の身体が変に曲がったように見えた。
「ザクロ!!!!!!!!」
ミスリードが叫ぶ。しかし、誰も応えず、嫌な静寂が当たりを包むだけ。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・ラヴィ、聞いて」
ミスリードが私に手を差し伸べ、私を立ちあがらせながら言う。
「うっ、うん」
「あんたは、逃げて。ヤバイ『魔人』がいたって教会の皆に知らせるの」
「えっ!?いや、でも・・・・・・」
「大丈夫、私が時間を稼ぐから」
「そっ、そんな、だっ、駄目だよ。みっ、皆を、おっ、置いて、なんて!」
「皆死んだら、誰がこいつの脅威を教会に伝えるの!?誰かが伝えなきゃもっと犠牲が増えるの、分かるでしょ!?スリーが殺された時、ニャンゾルとミルゲが怒りを呑んで撤退したから、私たちは『絶叫の魔人』や『顎の魔人』の対策ができた。だから、あんたも!!!」
「でもっ!!」
「モタモタしてるから『魔女』が動き出しちゃったじゃない!!早く行け!!」
「でもっ!!」
「うざい、行け!!!走れ!!!」
ミスリードは最後はそう言って私の背中を蹴り飛ばし、仕方なく私は小走りでその場を離れ始める。確かに、ミスリードの言う通りかもしれない。私がいたって何の役にも立たない。それなら、せめてこの『鎧の魔人』の事を教会に伝え、これ以上犠牲が出ないように努める。きっと、それが弱い私に出来る最善。恩人のミスリードを、まだ生きているかもしれないエンヴィとザクロを見捨て・・・・でも、私が、生きて、私が生きる事でより多くの命が救えるなら・・・・・・小走りで遠ざかりながらもチラチラと後ろを見る。『魔女』の巨体がゆっくりと武器を構えたミスリードに迫っている。幸い、私の方に来る様子はなさそうだ。もうすぐ私は角に入り、彼女が、ミスリードの姿を終えなくなる。でも、これで、これでいいんだ・・・・ごめんなさい、ごめんなさい。
後ろを見ながら角を曲がる直前、『魔女』が目にも止まらぬ早さでミスリードの身体を鷲掴みにしたのが見えた。思わず足を止める。頭に、さきほど握りつぶされグチャグチャにされたタナトスが浮かぶ。嘘だ・・・・嫌だ、嫌だ・・・・止めて・・・・・私の大切の人を、奪わないで!!!私は心の中で叫んだ。
その願いが届いたのか、『魔女』はミスリードを掴んだまま。ゆっくりと姿勢を落とし、立膝を付いて、彼女を掴んだ手を、近くに行けば私の手の届くようなところまで持ってきた。まるで、『さぁ、助けに来い』と言わんばかりに。でも、違う・・・・・・これは、私の『願い』が届いたんじゃない。これは、『罠』だ。ここからはよく聞こえないが、ミスリードが必死で私に何かを叫んでいる。分かってる、分かってるよ。あの『魔人』はああして、私を誘い込み全滅させる気なんだ。分かってる。分かってるよ。今、あの『魔人』はいつでもミスリードを殺せる。私が助けに行ってもどうせ間に合わない。それより、このまま無視して教会の皆にこいつの脅威を伝える方が多くの命を救える。フランも言っていた。生きてこそだって、あなたが生きている事で結果的により多くの命を救えるんだって。そうだ。どうせ勝てないし、行っても無駄なんだ。だから、全速力で、全速力で、出口へ。
『苦手だから、相性が悪いから。そうやって、挑む前から諦めるんだ』
覚悟を決めようとした瞬間、そんなミスリードの言葉が頭を過った。
『私の日々の我儘に付いて来れるのってアイツくらいだし、このままずるずる一緒に過ごして、成人したら普通に結婚するんだと思う』
続けざまにあの時の彼女の落ち着いた笑顔が浮かぶ。このままずるずる一緒に過ごして、成人したら普通に結婚・・・・・・・成人したら結婚・・・・・・成人したら・・・・・・・ミスリード、ミスリード・・・・・私は、私は・・・・・・・・分かってるよ。逃げるのが、最善で。それが、今の私の使命だって。分かってる。
分かってるよ。
分かってる。
「分がっでる゛よ゛ぉぉぉおお゛お゛お゛!!!!!!!!!」
私は、『天装』を展開し、『魔女』に向けて走り出していた。ミスリードがものすごい剣幕で私に怒鳴っているのが聞こえる。うるさい、うるさい・・・・・・・挑む前から逃げるなって、教えてくれたのはミスリードじゃないか!!! 成人したらストリームと結婚するって言ったじゃないか!!!!
高速で襲い掛かる『魔女』の右拳をスライディングで躱すと、『魔女』はミスリードを持つ左拳を大きく振りかぶった。私ごと彼女も潰す気なのだろう。でも、これはチャンスだ、この一瞬で決める!!!私は、拳が落ちて来る前に自分でも信じれない様な身体捌きで体勢を立て直し、構えを取った。目を閉じ、全ての力を両腕に込める。彼女が、ミスリードが助かるなら、私の両腕などくれてやる!!
閃き流、必殺奥義、、、『月牙絶唱』!!!!!!
『縺舌♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀!!!!!!!!!!』
魔女が絶叫を上げる。魔女の左手首から鮮血が吹き出し、左手に握っていたミスリードの身体を宙に逃がす。やった!!!!やったのだ!!!!あの鎧のような白い甲殻を越え『魔女』の手首を斬ったのだ!!!やった、私は、やったのだ!!!!ルミナス!!!!私はやった!!!




