第139話(4-12-5)
「ラヴィータ、そこを動くなよ!!」
左側の屋根の上からタナトスの声が聞こえ、私は『天装』を構えたままその場に留まる。刹那、タナトスが紫の狼の頭部に向け散弾を放った。しかし、『魔女』は右腕でそれを防ぎ、そのままタナトスのいる屋根の上に1回のジャンプで跳んで行き、彼に襲い掛かる。すかさずカバーに入ったミスリードが『シュガールの稲妻』でそれを防ぎ、その間にタナトスが通りに降り、代わりにエンヴィが屋根に駆け上がる。
「馬鹿、何ボサっと眺めてんの!?私らはこっちの取り巻きをやるよ!!」
ザクロがそう言って屋根から飛び降りる。そうだ、呑気に見ている場合じゃない。私も戦わないと!!私は近い方の灰色の狼に向かって走り込む。
「先に倒した方の勝ちだから!!」
ザクロが溶かした華苺石の小瓶を狼の顔に投げつけて先制する。こんな時まで対抗心を燃やさなくても・・・・・いや、とにかく、私は、私の出来る事をやるだけだ。『魔女』と戦う3人に負担を掛けないために全力で目の前の敵を倒す!!!
こいつはさっきまでのゾンビとはまるで違う。私の『ブレイヴ・ソード』の刀身を受け止める程に腕は頑丈で、動きの機敏さもさっきの有象無象のゾンビたちとは全然違う。でも、負けられない、負けられないんだ!!!
「に゛ゃああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛お゛お゛お゛!!」
雄叫びを上げ、狼のクロスした両腕に巨大な刀身を押し込む。
『縺舌♀縺翫♀縺翫♀縺翫♀繧ェ!!!!』
向こうも負けじと声を上げ刀身を押し返そうとする。今だ!!
私はくるりと身を翻し、少しだけ横に避ける。すると、力の行き場を失った狼の腕は大きく左右に開き姿勢が前のめりになる。その一瞬の隙に、わき腹を!!!
『繧ー繧ョ!!』
私は狼のわき腹を突き刺し、そのまま力任せに民家の壁まで押し込む。突き刺さった刀身を抜くことが叶わずやぶれかぶれになった狼が私の顔面を無茶苦茶に引っ掻き始める。痛い!痛い!痛い痛い痛い痛い痛い!!!でも、ここで怯んだら駄目だ!!私は顔を引っ掻く狼の指に思い切り噛みつき、そのまま刀身を更に深くまで沈めこむ。
私は、私は、こんなところで負ける訳には行かないんだ!!!
渾身の力を両腕に込め、わき腹に刺した刀身を少しずつ上にズラす。すると、狼は途中で仔犬のような高い悲鳴を一度上げた後、一気に力が抜け首がカクンっと垂れた。指を口から離し、刀身を引き抜くと、狼の身体がガクっと枯れた芝生に落ちる。顔が燃えてるみたい痛い。瞼が切れ、瞬きをするだけで激痛が走る、でも、なんとか・・・・・トドメを・・・・・・・とりあえず、視界を塞ぐ血だけを右腕で雑に拭い、もう一度『天装』に力を込めようとすると、私より先にかなり見覚えのある赤紫の刀身が狼の頭を穿った。
「私の勝ちね・・・・・・って、何、その酷い顔!!」
そして、赤紫の刀身を持つ『天装』の主が言った。どうやら、ザクロは既に自分の方の狼を片付けたらしい。やっぱり、ザクロの実力は本物だ。たった数ヶ月でここまで強くなってしまうなんて・・・いや、それよりすぐに『魔女』本体と戦っている3人の援護にっ____。
そう思った瞬間、紫の狼が逃れる様に屋根から通りに降りてきて、それを追う様にミスリードが跳んできた。
「ムォチャオレイ!!」
そして、狼の太い腕の攻撃を防ぎながらそう叫んだ。そう、これは、この前私の心臓を爆発させた最大出力の電流を一気に周囲に放出する技だ。紫の狼は尻尾を踏まれた犬のような悲鳴を上げ、両腕を構えた変なポーズのまま固まった。殺すまではいかなかったが、身体が痺れて動けなくなっているようだ。
今のうちに!! ザクロとアイコンタクトをし、走り出そうとすると、空から雄叫びを上げながらエンヴィが大ジャンプしてきて、大きな盾を横に振り紫の狼の首を一撃で攫って行った。そして、すぐさま落とした首を何度も盾の先端で突き刺し執拗にぐちゃぐちゃにする。すっ、凄い・・・・前から思っていたが、エンヴィは眼鏡をかけていて、いつも本を読んでいて、武器も盾なので全然そんなイメージはないが、実はかなりのパワータイプなのだ。
『魔女』の身体とぐちゃぐちゃになった頭だった赤黒い塊が光に帰りソウルティアが現れると、やっと、エンヴィは一息ついたように空を仰いだ。私も安堵の息を漏らす。おっ、終わった。なんとか、なんとか、今日も生き残れた・・・・・良かった・・・・良かった。でも、鏡を見たくない。
「うぇーい、お疲れぃ!!ってオイ!!ラヴィータ、その顔、どしたぁ!?!」
脅威が消えたと分かるとタナトスがいつもの感じで歩いて来て、私の顔面を見て急停止した。
「うわぁ・・・・・痛っそ。その顔じゃ、どっちにしろどこも寄れないね」
ミスリードが顔を引き攣らせて言った。
「ごっ、ごめん・・・・・・」
「何で謝んの?これでタナトスとどこも行かなくて済むから、むしろ有難う」
「あっはははは・・・・・・・」
「流石にこれは止む無しだな。カフェはラヴィータの快気祝いに改めて行こうぜ」
「そうだね。お前抜きで、ね」
「ちょ~~~~~--い!!」
あははは・・・・・・タナトスは、元気で羨ましい。
「もしかしたら『魔人』が潜んでるかもしれないから油断しない!」
そんなやり取りをする私たちをエンヴィがピシャっと叱る。確かに、スリーはこうやって、魔女を倒して消耗したところで、魔人に襲われて・・・・・、そうだ、少なくとも『結界』を出るまでは油断しちゃ駄目だ。私は、一度しまった『天装』をもう一度展開する。
すると、エンヴィがこっちにガーゼを持って歩いてきた。
「でも、あなたの止血が最優先。折角の可愛い顔が大変」
そして、そう言ってカーゼで流れている血を拭い、上から止血ジェルを塗ってくれた。顔だけにあちこちが凄い染みるが、仕方がない。これだけ無茶苦茶に引っ掻かれて両目とも無事なのが不幸中の幸いだった。それにしても、エンヴィは指示も的確だし、応急処置も出来る、お世辞も出来る。優しい良いリーダーだ。
そうして、私の応急処置が終わると、5人で行きと同じ陣形を組みながら帰り道を行った。
「・・・・今、そこの民家で物音がしなかった?」
不意に先行するエンヴィが足を止め言った。私は聞こえなかったので、首を横に振った。隣にいるミスリードの方を見ると、両手を上に上げ肩を竦め『はて?』と言ったポーズを取っていた。
「そう・・・・・でも、気になるわね。タナトス、フォローをお願いできる?なんだか、嫌な予感がする」
「お安い御用だぜ」
エンヴィの要望に応え、タナトスが通りに降りて来た。
「3人はそのまま位置で警戒していて」
「わっ、わかっ、た」
「あ~~い」
「了解」
そうして、エンヴィとタナトスの2人が物音のしたという民家に入るのを3人で少し離れた場所から見送った。何もなければいいが、エンヴィが言うのだから気のせいではない気がする。
2人が中に入ってから1分くらい経った頃、突然、民家から白い光の柱が何本も上がり、両隣の民家を巻き込み大爆発を起こした。私の身体はキーーーーンッという鋭い耳鳴りと同時に後方に吹っ飛ばされ、後ろのレンガの塀に叩き付けられた。えっ!?!?!? は???? は????は??????? は!?!?!?えっ!?!?!いっ、今、なっ、何が、起きて・・・・・・・・私は、目の前で起きた事を理解出来ず、正面の灰色の大きな煙を見つめる。何だ、何が、・・・タナトスは??? エンヴィは!?!!?!
他の2人も目の前の出来事に頭の処理が追いつかず、爆風で吹っ飛ばされた体勢のまま立ち上る煙を見つめ固まってしまっている。
モクモクと立ち上る煙の中に巨大なシルエットが見える。
煙が晴れると、私たちの目の前に体長15m程の巨大な『魔女』が現れた。鎧のような白い甲殻を纏いオデコから一本の立派な角を生やした怪獣。それが、2人が入っていた民家があった場所に堂々と立っているのだ。しかも、片手に真っ黒に焦げた変な形に折れ曲がった人型の何かを持っている。
そんな、そんな、・・・・・・・嘘だ、何で・・・・何で・・・・・・。
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!こんなの、こんなのって!!!




