第136話(4-12-2)
教会に来てから1年が過ぎた11月の終わり頃、私はザクロとミスリードと一緒にベルリンに来ていた。毎週日曜日、うちの教会から3人がベルリンにある教会のミサにお手伝いに行くのだが、今週は私の班だったのだ。ちなみに、お手伝いはもう終わって今はミスリードに連れられて中華風のカフェでまったりしている。ザクロとミスリードはまるで私などいないようにコスメの話で盛り上がっている。私は、お洒落な器に入った白玉を箸で取ろうと頑張っている。絶対、前のタナトスとモコの班の方が良かった。タナトスは皆の言う通り確かにチャラチャラしていたけど、なんだかんだ話題も振ってくれるし良い人だった、モコは、モコだし、、あーーーー逃げる白玉。白玉。
「ところで、前から気になってたんだけど、うちの教会ってあなたみたいに男女のペアで同じ部屋に入ってる事が偶にあるじゃん? なんか間違いとか起きないわけ??」
不意にザクロがミスリードにそんな質問をして、ミルクティーを口にした。
「うん?『間違い』が何の事かは分からないけど、セックスなら毎週してるよ」
「ぅブーーーーーっ」
ザクロが凄い勢いで口に含んでいたミルクティーを私の白玉が入った器と私の顔に吹きかける。あーーーあ。もう。私は、ザクロをちょっとだけ睨み無言でお手拭を取って顔を拭く。
「冗談じゃん」
後からミスリードが言う。
「・・・・・・今のは、ミスリードが悪くない?」
そんなこと言われても。
「あーあ、ザクロが新しい白玉買ってあげないと」
「今の、本当に私だけが悪い!?」
「先週した体位でも教えてあげようか?」
「・・・・殴っていい?」
「シシシシっ」
どうやら、ミスリードは気弱な私やモコだけでなく、とにかく人をからかうのが好きらしい。
「じゃあ、ザクロはストリームの事は何と思ってないわけ?」
私に新しい白玉が来ると、ザクロがミスリードに改めて質問をした。ちなみに、ストリームはミスリードと同室の男の子だ。実際は『スリップストリーム』だが、流石に長いので『ストリーム』と呼ばれている。
「質問した後にすぐ飲み物飲むの止めたら?」
「・・・・・・・そうね。で、どうなの?」
「別に、普通に好きだけど」
「・・・・・えっ??」
「えっ?」
思わず、私まで言ってしまった。
「私の日々の我儘に付いて来れるのってアイツくらいだし、このままずるずる一緒に過ごして、成人したら普通に結婚するんだと思う」
ミスリードが何の恥じらいもなくサラっとそんな事を言った。言われてみれば、ミスリードが『疲れた、抱っこ』と言うと、ストリームは二つ返事で彼女をお姫様抱っこする。最早、当たり前の光景で誰も突っ込まないが、よく考えたら凄い光景の気がしてきた。多分、両想いだからこそアレが成立しているのだろう。
「ラヴィ、ザクロの開いた口戻してあげて」
話を聞いて、口を開けたまま固まってしまったザクロを見てミスリードが言った。私が言われた通りザクロの顎を戻そうとすると、ザクロは顔を横にぶるぶる振って正気に戻った。
「そんなサラっと言われると、突っ込みにくいんだけど」
「シシシシシシ。そういう、ザクロは好きな人見つけた?」
「・・・・・」
「へぇ。いるんだぁ」
ミスリードがニヤニヤしながら言う。こういう時のミスリードは本当にキラキラ輝いている。根っからの意地悪だ。
「『好き』と言うか、そのっ、気になる・・・・というか」
ザクロが頬を少し赤くし、俯き加減で言った。個人的にザクロはルミナスばかりと話しているイメージでこういう男女の色恋沙汰には無頓着だと思ったが、ちゃんと気になる人がいるらしい。誰だろう・・・・・前にアトムと2人で歩いていたところ見た事があるし、アトムだろうか?
「で、誰なの?」
ミスリードが言う。
「いっ、言わない!」
「私は言ったのに、それじゃあフェアじゃなくない?」
「わかったわよ。じゃっ、じゃあ、ヒントだけね。色白で、歌が上手くて」
もう、この時点でルミナスとカスケードの二択しかないのだが。
「少し抜けてるところがあるけど、凄い前向きで、決める時はちゃんと決めて」
ルミナスだ。やっぱり、ルミナスじゃないか。
「ルm_____」
ルミナスじゃんと言おうとする、ミスリードの口を慌てて塞ぐ。
「・・・・・まぁ、そういう事ね」
全てを察し、ニヤニヤしながらミスリードが言う。
「って、っていうか、ラヴィはそういう人いないの!?」
話を逸らすためか、急に私に話題が飛んできた。
「確かに気になるね」
ミスリードの意地悪な目が私に向く。
そう言われて、一応クラスの男子を頭に浮かべてみる。ミゼルやクレヴァスは最初から私に優しく接してくれたが、ときめくかどうかで言われればそんな事はない。他の男子も結局なんだかんだで良い人ばかりだったが、恋愛感情みたいなものはあんまりない気がする。同性であるルミナスとカスケードには最初ドキっとしたが、ザクロのように恋心は抱いていないと思う。ルミナスは身近過ぎて既に家族って感じだし、カスケードは同年代だが優しいお姉ちゃんって感じだし・・・・・難しい質問だ。
「・・・・・誰もいないの?」
「・・・・・いっ、一応、ルミナスとカスケードには最初ドキっとしたけど、今は、ルミナスは、もう家族みたいなものだし、カスケードはいつも勉強を教えてくれるお姉ちゃんみたいな存在だし・・・・・こっ恋してるって感じは、しない、かな・・・・」
「そもそも、男は眼中にないのね。レズばっかじゃん、うちの教会」
「・・・・」
「・・・・」
返す言葉がない私とザクロ。恋をしているかはおいといて、確かにドキっとしたり魅力的だなと思うのは同性ばかりだ。
「ちなみに、ラヴィはブライトの事はどう思ってんの?」
そんな事を考えていると、続けざまにミスリードが頬杖をついてそう聞いてきた。なぜかザクロもこの話題に興味津々のようで目をカっと見開き私の顔を見る。ブライト、ブライト・・・・・・いつも、怖い顔をして、挨拶をしても「ん」くらいしか言ってくれない同じクラスの男子だ。多分嫌われている。
「・・・・・恐いひと」
色々考えた結果、正直に言った。そう言うと、ミスリードはクスっと笑い、ザクロは吹き出しそうになって慌てて口を両手で抑えた。そんな面白い事を言っただろうか。
「何で。何で、そう思ったの?」
真面目な顔を取り戻してから改めてミスリードが聞いてきた。
「あっ、挨拶しても、いつも「ん」しか言ってくれないし・・・・・何もしてない筈なのに、そのっ、急に、とっ、遠くから睨んでくる時が、あったり・・・・いっ、いきなり出てきて、急に先生から頼まれた仕事を、横取りしてくるし・・・戦闘シュミレーションでは、ゆっ、唯一、最初から『天装』使って本気で、わっ、私の事を殺しに来たし・・・」
「あははははっはっは。けっさく」
私が言うと、ミスリードが見た事もない笑顔で手を叩きながら大笑いをした。ザクロもテーブルに顔を伏せ、肩を震わせながら笑っている。何が2人のツボに入ったのか、全然分からない。でも、2人が楽しそうなら、まあいいか。なんだかんだ結局会話に入れたし、満足だ。昔、憧れていた同年代と過ごす何気ない休日。今、それが目の前にある。しかも、今回の1人は最初私の事を虐めていた子だ。それを思うと、この一瞬一瞬がとても大切に思えてくる。
このまま、ずっと______そんな私の平和の願いは、ミスリードのスマホのバイブ音によって突然掻き消される。前にもこんな事があった気がする。
「応援要請。オラニエンブルクから。この認識番号はエンヴィとタナトスのチームだね。私等はパトロール中じゃないから行く義務はないけど、どうする?」
急に真面目な顔になったミスリードが言う。
「愚問ね」
ザクロが言う。私も頷き、それに同意する。
「はーーーーだと思った。それじゃあ、行こうか」
ミスリードは席から立ち上がり、目の前のジャスミンティーが入っていたグラスを手に取って底に残ったタピオカを一気に飲み干した。




