第129話(4-11-10)
私が唖然としている間に再び細い通りから大量の花びらが吹き出し、メロエが倒れているであろう場所に一気に降り注ぐ。
『縺舌o縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠!!!』
メロエの悲鳴が響き渡る。何が、何に攻撃されてる!!?敵の正体を確かめるため細い通りの方に向かおうと一度高く飛び上がった瞬間、腰の方でパシュっと音がした。腰を見ると、左側のエンジンが竹のように綺麗に斬られていた。
「え?」
そう声を漏らした直後、片方のエンジンを失った私は空中でコントロールを失い、メロエがいる方とは逆の方の道路に思い切り肩を削りながら墜落した。
「___っつ」
痛い。痛すぎる。泣きそうな痛みで顔を歪める。でも、私をかばって墜落したメロエはもっと痛かったはずだ。そのメロエがピンチなのだ。こんなところで寝てる場合じゃない。私は唇を切れるほど噛み締め、無理やり立ち上がる。
「御免よ、痛かったろう。でも、大丈夫。すぐに楽にしてあげる」
目の前までゆったりと歩いてきた白地に赤い花が散りばめられた綺麗な着物を着た誰かがおっとりとした口調で言い、私に刀を向けた。顔上げると、その誰かは『人』ではなく蛙の頭を持つ『魔女』だった。
「・・・・・」
しかも、ただの『魔女』じゃない。こんな流暢に言葉を使っているのだからコイツは間違いなく『魔人』だ。それに、おそらく斬撃を飛ばしてエンジンを綺麗に斬ったのもコイツだ。つまり、弱い訳がない。ずっと、私たちが消耗するのを・・・・・・。
「そんなに睨まないでおくれよ。私だって本当は嫌なんだ」
「・・・・・」
「こんなにも罹人と連携して、信頼しあって、お互いの力を引き出し合って戦う『人間』なんて初めて見た。『人間』が皆君みたいだったら私たちは争わずに済んだのに。こんな汚い罠を張る事もなかったのに」
「・・・・・」
「君みたいな貴重な人間を斬りたくはない。でも、それ以上に私は『人間』が、『テンプル騎士団』が嫌いなんだ。ここの結界は、場所も内部の広さも、君たちテンプルを少しずつ削って行くにはもってこいなんだ。だから、君をみすみす帰して計画をバラされる訳にはいかないんだよ」
「・・・・・・・・・メロエは??」
「君が大人しく死んでくれれば彼女の身の安全は保障する、と言いたいところだけど、相方は私の言う事を素直に聞いてくれるタイプじゃないんだ。ごめんね」
「つまり・・・・・」
「君が大人しく死んでも、そうでなくとも、関係なく『魔人』の津軽とスイトピーと戦う事になる。いや、もう戦っているね。彼女の強さは相当だけど、『魔人』2体相手ではどうだろうね」
「・・・・・」
私は無言で『天装』を展開する。
「気乗りしないよ、本当に」
頭が蛙のサムライはそう言って、ゆったりと刀を構え直した。
誰も悲しませたくない。大切な人を誰も死なせたくない。
神様、どうか・・・・・私に、力を。
「なあああああああああああああああああ!!!!」
私は声を上げ、『天装』をしまい目の前の蛙に背を向けメロエの方に駆けだした。
「ぐビュっ!」
5秒もしないうちに背中に斬撃が飛んできて、前に倒れる。
でも、すぐ立ち上がり、背中から血を流しながらもメロエの方に向かう。
「有り得ない!」
後方からそんな声が聞こえ、慌てて敵が私を追ってくる音が聞こえる。
でも、関係ない。メロエ、メロエ、今、行くよ!!!
声が聞こえる。私を呼ぶ声が・・・・・・・・それだけじゃない、彼女を追う『敵』の足音。エーデル、エーデル・・・・・・・彼女は、私が彼女の身体に一生消えない傷を刻んだ張本人だと知っても尚、私を信じてくれた。私と共に戦ってくれた。その信頼に応えないといけない。私は、まだ、終わるわけには行かない。両腕が落とされたから何だ、関係ない。立ち上がるんだ、彼女のために。私の愛する彼女のために。そう心に誓った瞬間、どこからともなく焼ける様に熱い力が湧き上がり、それが全身を駆け巡る。
『縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺!!!(あああああああああああ!!!)』
『鬥ャ鮖ソ縺ェ、閻輔′!!(馬鹿な、腕が!!)』
私は、両腕を失った私にトドメを刺そうとする巨大な槍の一突きを、新しく生やした機械の腕で受け止め、その槍ごと亀の巨体を隣のビルに叩き付ける。
そして、亀がビルの瓦礫に埋もれている内にエーデルの元へ爆進する。急ごしらえの腕が崩れそうに痛む。当たり前のように花びらの『魔法』を使う厄介な羽虫が後を追ってくる。でも、最初の激流のような勢いの花びらはもう出せないらしい。それなら、まだ、希望はある!!
エーデルは殺させない!!!
見えた、あのカエル頭が、エーデルの敵!!
「メロエ!!」
『繧ィ繝シ縺ァ繝ォ!!!(エーデル!!!)』
お互いを呼びあった直後、頭の中にメロエの声が響いた。その瞬間、私に急接近する大きな黒いトカゲが口から煙幕を大量に吹き出し視界が完全に消滅した。でも、迷わない。私はメロエが私にテレパシーで伝えた通り、そのまま、頭が花の小さな妖精が飛んでいた方に向け大ジャンプし、メロエの魔力を込めながら『天装』を抜刀の如く展開する。
『縺イ縺弱d縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺ゅ≠縺』
目を瞑っていて何も見えないが、確かに何かを斬った感触と甲高い断末魔が聞こえた。やった、やったか? 分からない・・・・・でも、静かだ。静かと云う事は・・・・・
もう目を開けてもいいだろうか・・・・・煙の匂いが消えたから多分大丈夫だろう。そう思い目を開け、足元を見るとノーブルティアと一枚の赤い花弁が落ちていた。良かった、私の方は上手く行ったらしい。メロエの方は???そう思いバッと後を見ると、人間の姿に戻ったメロエがチェーンソーを両手で持ち仰向けに倒れた見知らぬ女の子を見下ろしていた。急いで駆け寄る。
「見事、だった、ね」
仰向けになり安らかな面持ちで目を瞑っていた涙ボクロのよく似合うおっとりとした東洋美人の少女が、息も絶え絶え口にした。彼女の身体には明らかに致命傷の一閃が左肩から右脚まで伸び、血がドクドクと道路に広がっている。
「私は、幸せ者だ。『人間』と『罹人』のコンビに、負け、たんだ。まさか、今日死ぬなんて、夢にも思ってなかったけど、意外と、悪くない気分だね。さぁ、私はもう死ぬから放っておいて、〝津軽〟が来るよ」
少女はそう言って、私たちの後ろを指差した。後を見ると、今まさに槍を持った巨大な亀が道路を跳び上がり私たちに襲い掛かってきていた。
大きな槍の先端がさっきまでメロエのいた場所に突き刺さる。
その攻撃を寸で避けたメロエは再び自分のお腹をカッターで斬り裂き、一瞬で黒いトカゲの魔女に変身した。私はその変身した時の蒸気と風圧でさっき倒した花の妖精のノーブルティアの方まで吹っ飛ばされてしまった。しかし、吹っ飛ばされている瞬間、ビルの隙間から『絶叫の魔女』がこちらの様子を窺っているのが一瞬だけ見えた。
私はすぐにアイツが考えていることが分かった。私は吹っ飛ばされたカッコ悪い体勢のまま花弁ごとノーブルティアを握りしめ立ち上がりメロエとは反対方向に一気に走り出した。思った通りアイツは追ってくる。今回も、今回も、仲間のノーブルティアだけ回収し、自分だけ逃げ延びようとしているのだ!!!そして、『人間』の私なら自分だけでも倒せると!!!あの亀の魔女はメロエだけでどうにかしてくれることを信じて、私は敢えて大通りの角を曲がり更にメロエから離れる。こいつに私を追わせるなら、これしかない。こいつは臆病者だ。だから、メロエが近くにいれば諦めて帰ってしまうだろう。だから・・・・こいつは、こいつだけは、絶対に今、ここで、私が、仕留める!!!
「ぶぎゅっ」
私は後から背中を思い切りはたかれ、天装とノーブルティアを落とし前のめりに道路に倒れてしまう。すぐ地面を手で押し返し立ち上がろうとするが、何かの気配を感じ一旦仰向けになった。
すると、『絶叫の魔女』が既に私に覆いかぶさっていた。
『隕ウ蠢オ縺ェ縺輔>、縺企ヲャ鮖ソ縺輔s』
頭が花の猿の様な怪物が首を傾げながら嘲るように言う。今日ここで見た魔女の中では小柄の方だが、それでも、車くらいの大きさがある。それが私に覆いかぶさり、大きな口を開け、今まさに私を呑み込もうとしているのだ。しかも、『天装』は手の届くところにない・・・・・終わりだ。




