第127話(4-11-8)
「これからどうしようか。出口の方はどうせまだ待ち伏せされてるだろうし、かと言ってここに籠城しても、魔女を呼ぶ魔女が魔女を増やして状況は悪くなるばかり」
メロエがレジのテーブルにジャンプして座ってから言った。メロエ、何をしても画になるな。流石、読モ。いや、今はそれどころじゃない。この状況を打開する案をなんとか考えないと。と言っても、隠れながら進むとか、そんな陳腐な案しか出てこない。あそこまで宇宙飛行士軍団に大規模展開されてしまっては、それは強行突破とほぼ同義だ。何か、何か、他に・・・・・・あっ!
「あのっあっ、、メっ、メロエがさっき使ったガスを撒きながら進むのは?」
「そうね。私も考えたけど、さっき上手くいったのは私が無理矢理出口に行こうとせず、見当違いの方向に逃げたから。行き先が出口の商店だと知られている以上、さっきみたいに上手くは行かないと思う。それに向こうがあれから何の対応も考えてないとは思えない」
「・・・・そっか」
「ごめんね。折角、考えて貰ったのに」
「いっ、いや、だだっ、大丈夫だよ。でも、困ったね・・・・あれ? なんか、揺れ______」
「危ない!!」
私が『揺れてない?』と言おうとした瞬間、突然メロエが腰についたエンジンを起動させ、私ごと隣のレジに思い切り突っ込んだ。痛い。一体、何が・・・・そう思いさっきまで私がいた場所を見ると、そこには私の身体より大きな巨大なミイラの頭があり、何かをモグモグしていた。次にメロエを見た。
「メロエ、右脚が!!!」
「平気、罹人の脚なんて2時間くらいで新しく生えてくるから、それより逃げるから掴まって」
「えっ、えっ、えっえっ、わわわわ、分かった!!」
急いでメロエの背中に負ぶさり肩に腕を掛けると、すぐにメロエは発進し、スーパーを緊急脱出した。メロエからは見えなかっただろうが、あと一瞬私があわあわしていたら地面から出てきた巨大ミイラの手に掴まっていた。危なかった、危なかった・・・・・いや、それにしても、メロエが、私のせいでメロエの右脚が!
「_____っ」
メロエに掴まって低空飛行で大通りを逃げている最中、不意にプシュンと音がした。その直後、メロエはバランスを崩し、エンジンの勢いの残ったまま左肩を道路に擦ってから横に転がり派手に墜落した。私はメロエの体勢が変わった時に良い感じに投げ出され大したダメージはなかったが、メロエ自身はエンジンの勢いが生きたまま横に転がり全身がボロボロだ。頭も打ってしまったようで頭部からも血を流している。反射的に反対側のビルを見ると、屋上で赤いアフロのガスマスクを付けた敵が高架水槽の陰にスっと隠れたのが見えた。メロエの腰のエンジンをあそこから狙撃したのだ。許せない!
「あいつ!!!!!」
私はあいつが人間であるかどうかなど考えるより先に『天装』を展開し、メロエから貰った魔力をありったけ『天装』に込め例の白い特大ビームをガスマスクが隠れた高架水槽に向けて放った。さっきほどの威力は出なかったが、防火水槽は大量の水飛沫と白い爆炎を吹き上げ跡形もなく消し飛んだ。今のうちに止血を!
「メロエ、今、止血するからね!」
私は服の内ポケットから止血ジェルを取り出し、雑にだが傷ひとつひとつにそれを塗る。その間、メロエは目を瞑り何も言わない。息はしているが、気絶してしまっているようだ。私を庇ったせいであんなに派手に墜落してしまったのだ。私がもっとちゃんとしていれば・・・・いや後悔は後にしよう。まず、右脚の止血を・・・・右脚は、どう見ても止血ジェルでどうにかなるレベルじゃない。とりあえず、包帯だけでも・・・・・あっ。
膝から下を失った右脚に包帯を巻いている最中、道路の角から頭が人間の女の体長5mくらいのティラノサウルスと大きな鉈を持った頭のない体長8mくらいの巨人が姿を現し、こちらに向かってくるのが見えた。慌てて反対方向を見ると、メロエの右脚を食べた巨大なミイラが道路を這いながら迫ってきており、更にその後方からは例の声真似をする巨大魚が・・・・・クソっ、クソっ!!!
私は包帯を巻く作業を中断し、急いでメロエを背負い一番近い廃墟のビルまでダッシュした。そして、周りが見える様に屋上へ駆け上がった。その最中意識を取り戻したメロエが背中で「ごめんなさい」と掠れた声で繰り返していたが、謝らなければいけないのは私だ。今メロエが負っている怪我は全部私のせいじゃないか。でも、後悔も謝るのも2人で生きてここを出てからだ。
まず、敵はどれくらい・・・・・・屋上のコンテナから顔を少し覗かせ下の様子を確認しようとすると、その前に絶叫の魔女の悍ましい咆哮が再び空間を揺らした。まるで、[ここにいるぞ、皆集まれ!]と言わんばかりに。
改めて下の方を見ると続々と魔女が集結している。ここからザっと数えても、1、2、3・・・・・・5、6・・・遠くから薄らと見えてきたバカでかい二足歩行の亀も合せて7、それに何だあの巨大な猫ちゃんのぬいぐるみみたいな魔女は、8・・・・・・もう滅茶苦茶だ。こんなの、こんなの・・・・・・いや、諦めるな。絶対、絶対、メロエと生きて帰るんだ。まず、特大レーザーで一番強そうなのを・・・・いや、そんな連続で撃てるのか?そもそも、さっきのレーザーすら本来のリロードよりかなり早く撃てた。3発目は本当に出るのか???もし出なかったら・・・・・でも、やるしか・・・・・やるしかないんだ。
「メロエ____」
物陰に隠れ直し、メロエの右脚に改めてに包帯を巻いてから出発しようとすると、メロエは手振りで包帯を巻く作業を拒否してきた。
「エーデル、ごめんなさい・・・・・・・」
「なっ、何、メロエ、さっ、さっきから、ちょっと、変だよ。何でメロエが謝るの???メロエの怪我、全部私のせい」
「違う」
「何も違わないよ、全部私をかばって!!!」
「そうだけど、違うの。この状況になった事、自体が、私のせいなの」
「そんな事ないよ!!」
「そんな事あるの・・・・全部、全部、私のせいなの・・・私の、『醜い心』の」
「えっ?」
「エーデル、聞いて、本当はね、本当は、あなた一人ここから逃がすくらい、私が本気を出せば、簡単だったの・・・・・・でも、私はそうしなかった。あなたに嫌われるのが怖かった。私は、最低、最低最悪。私は自分のエゴでエーデルをこんな危険な目に遭わせた。私は、あなたの信頼に値しない卑しい人間」
「嘘だよ!!私に罪悪感が芽生えないようにそう言ってるだけでしょ、分かるよ!!」
「・・・・違うの、すぐに分かる。もう覚悟は決めた。エーデル、私の事を嫌いなっていい。でも、これだけは言わせて。あれは、事故だったの。あの時、私は誰も傷つけるつもりはなかった」
「なっ、何の話!?!?!」
「すぐに分かるから。でも、安心して、ちゃんと帰り道は私が作る」
メロエはそう言って義足のようなものを右脚に生やし壁に両手を付けながら無理矢理立ち上がった。
「醜い私を、よく見ていて」
メロエは私の隣に立ち静かにそう告げ、私の制止の手が届くより先に自分のお腹をカッターで引き裂きながらビルから飛び降りてしまった。何だ、何をやって・・・・・そう思った瞬間、メロエの身体が切込みから玩具のようにパックリと二つに分かれ、真ん中から一気に大量の灰色の蒸気が吹き出しメロエの姿を隠す。その蒸気の中からけたたましい機械音とエンジン音が鳴り響き、周りに蒼い電流が迸る。その光景を目の当たりにした瞬間、頭の中でビリビリと微かな違和感と過去の記憶がリンクして行く。チェーンソー、マシンガン、アームシールド、分離する上半身と下半身・・・そんな、まさか、メロエは、メロエはッ・・・・・・!!
灰色の蒸気が消え、メロエの代わりに両腕がチェーンソーの黒いトカゲのような巨大な怪物が道路に降り立つ。そう。私のお腹に一生消えない傷を刻んだ、あの恐ろしい魔女が。




