第38話
ミアの突然の発言に、僕は動きが固まった。
上官のロバートは寝耳に水かのように、泡を飛ばして叫び出す。
「特級魔導造形師の護衛聖騎士ですと!? あれだけ候補を出したのに、今更ですか! それにアキムはまだ3枚薔薇です。4枚薔薇でなければ、無理のはず!」
なるほど。
4枚以上の騎士の仕事、であるわけだ。
……とは言え、この業務はヴォルガから聞いたことがなかった。
ただ世界で特級魔導造形師が3人であるなら、一人一騎士で、3人しかなれない。
それなら、そういうものが業務としてあると、伝えなくてもいいと判断したのかもしれない。
いや、ヴォルガ自身、そういう仕事は一切引き受けなかったのかもしれない。
幼い自分を僕は責める。
責めずにはいられない。
──ヴォルガの可能性を狭めていたのは、間違いない。
僕とロドスを育てていても、老騎士業務は危険がつきものだった。
それでも無事に帰らなければならないプレッシャーは凄まじいとすら思う。
今の僕には難しいが、ヴォルガと同じ年齢なら、できるだろうか……
一人、考え込む横で、上官がまた泡を飛ばしてミアに噛み付く。
神官はおろおろと泣きそうな顔だ。
「お言葉ですが、こんなひよっこが、護衛なんぞできるわけがないっ!」
ミアは上官を指差し、
「あなたに、アキム様の素晴らしさを理解できるとは思っておりません」
ミアはポケットから1本、短剣を出した。
それは儀式用の短剣で、僕に刺さっていた根っこ付きの短剣だ。
根っこと思って見ていたが、今落ち着いてみれば、血管の集合体のようで、少し胸がむかつく。いや、少し、吐きそう……
「アキム様は屋敷に侵入した賊に、この短剣を刺されましたの。みてわかりませんこと?」
ミアは、赤黒い根っこに指をさす。
胃から出てこようとするカヌレを必死に留めるなか、ミアの熱弁が続く。
「儀式の短剣は魔力を吸い取るものです。碧薔薇を咲かせる直前まで吸い取られましたが、持ち前の魔力量で根を断絶され、花の開花を阻止。さらにはわたくしを守ってくれたのですっ」
途中まではあっていたような気がする。
しかしながら、後半は、違う。
僕は、ミアを守りきれなかった。
むしろ、ミアの機転で助けられたのに。
言い返したいが、吐き気を止めるので精一杯だ。
戦っている間、いや、緊張している間は、血も内臓もなんともなかったのに、こういう不意な生活空間の中での《《そういうもの》》は、どうも受け付けないらしい。
「──というわけで、本日より、アキム様はわたくしの護衛任務についていいただきますので、4枚薔薇の聖騎士名簿にずらしてくださいまし。制服も新調したものを、わたくしの屋敷までお願いいたしますわ」
ミアは僕の腕を取ると、二人の神官の間を抜けて歩き出す。
「どちらへ?」
「ニクラスがこの先に、ペガサス馬車で迎えにきております」
「え、あ、ロドスとエンバーは無事なんですね! でも、いや、あ、部屋に荷物が! あと、挙式もっ!」
「問題ございませんわ。挙式は、あの3枚薔薇の上官さんがしてくれますでしょ?」
振り返ると、バツの悪そうな顔をした上官が小さく頷いた。
頷くように神官から促されていたのは間違いない。
さらには、
カッコウ!
大きな鳴き声が頭上から聞こえる。
このはっきりとした発音は間違いなく、デュオだ。
デュオの足には、僕の鞄が一つ、掴んである。
大きな翼で飛び去っていく姿を見て、まだ、慣れないな、と思う。
「荷物が綺麗にまとめられていたので、問題なく運び出せたようです。几帳面なところも、わたくし、大変好みですのっ」
しなだれかかるミアを僕はぞんざいにできないでいた。
僕の今の思考は、疑問符で埋め尽くされていたからだ。
そして何よりも、あの二人が本当に目覚めたのか知りたかった。
「いきましょう、わたくしの、翠玉の騎士様」
……でも、もう、屋敷の敷地からでてしまった以上、この事件に僕は携われない────




