第37話
ドア越しに返事を返した僕らは、もうすぐ到着する神官たちを迎えるため、着替えることに。
ミアもナチュラルなワンピースだったのを挙式用に変更すると出ていった。
僕はつい、ミアの鞄に、どれだけの服がつめこまれてるのか……?
気になってしまう。
会うたびにコロコロと衣装を替えているのは分かっているからだ。
あの大きな棺桶のような鞄にどう荷物が詰め込まれ、人形が詰め込まれているのか、全く想像ができない。
あれこれと考えあぐねながら着替えを終えると、すぐに姿見の前に立つ。
「……よし、血抜きは大丈夫、シミもない、穴も塞がってる……よし!」
僕はポケットに大事にしまっておいた、母の肩身のペンダントを手に握る。
しっかりと目の色が変わるのを確認すると、それを胸ポケットへ流し込む。
母と同じ目であることを確認して、襟の角度を手直しした。
着替えを済ませた僕らは、エントランスに降り、小さなテーブルでお茶を楽しんでいた。
ヘルマンが用意してくれたカヌレがとても美味しく、僕はつい3個目に手を伸ばしていた。
「食べ過ぎじゃなくて、アキム様」
「一応、ここには6個あるんだし、3個食べる権利が僕にある気がするんですが……」
「女性の方が甘いものが好きなのはご存知でして?」
「それはそうでも、男性でも甘い菓子が好きな者はおります」
「それは、そうかもしれませんけど」
ミアは少しだけ明るい、灰色のドレスを着ており、ふんわりとしたスカートは、いちごの形によく似ている。他のドレス同様に、フリルもたっぷりあしらわており、見るからに着る人を選ぶものだ。
ミアは特に似合っていて、昼間見ても、夜に見ても、とても映えるドレスだと思う。
「あの、ミアのドレスはどれも素敵ですよね。仕立て屋で、一点ものなのでしょう? 素晴らしいですね。可愛らしさと、大人びた雰囲気もあって、とてもお似合いです」
僕の言い方が不味かったのだろうか。
ミアがくすくすと声を立てて笑う。
「アキム様は女子たちより、女子らしく物が見えておりますわね」
褒められているのか、馬鹿にされているのか。
そんな攻防をしている間に、外から馬の嗎が聞こえる。
上から下へと鳴き声が響き、ペガサスの馬車で間違いない。
神官たちが到着したのだ。
どちらとも取れない彼女の笑いがおさまったとき、来客の鐘が鳴る。
サナとディルクと呼ぶべきか、サマーとベナンと呼ぶべきか、現在新郎新婦の支度に、執事のヘルマンと侍女長のカリアはてんてこ舞いだ。
そのため、僕らが対応することになっていた。
扉を開くと、そこには僕に命を下した頭がちりちりの上官と、その後ろに神官の二人いる。
神官の二人は、上官よりもずっと年上な上に、衣装もかなり豪華なものだ。
国と国での婚儀には、若い神官は派遣されないのだな。と、のんきに考えていれば、上官が僕に指をさす。
「なんで……何でお前が、ここにいる!」
まるで死人が生き返ったかのような、そんな大袈裟さがある。
そうか。僕がすでに材料になっているからこそ、上官が来たのか……
納得の顔で返事をせずにいれば、後ろのミアを見つけ、
「幼女を盾に、貴様、生き延びたのか? ああ?」
とんでもない勘違いととばっちりと妄想力に、僕の口はあんぐりと開いてしまう。
ミアはそんな上官に近づくと、丁寧にお辞儀をして見せた。
「お初にお目にかかります。魔導造形師・ニクラスの弟子、ミアでございます」
そう言った途端、這いつくばるように膝をつき、頭を下げたのは神官たちだ。
最高位に対するお辞儀の仕方に、僕すらドン引きするが、ミアはその神官に向かって名を呼んだ。
「まあ、リッカルドとアンドレアではありませんか。お元気にしてらして?」
左の神官が、深く頭を下げて答えた。
「私どもの名前を覚えてくださるとは、光栄の極み。さらには深いお心遣い、甚く頂戴いたします……」
あまりの態度に、上官が神官たちに向かって怒鳴り出す。
真っ赤な顔がタコのようで、口すら窄まり、より海中生物に近づいた気がする。
「こんな小娘に、なぜそこまでへりくだる! 馬鹿馬鹿しいっ!」
上官はじっとりとミアを頭の先から、つま先まで眺め、ふんと息を吐いた。
「だいたい、胸も尻もない女児に、なにが光栄だ。このガキが魔導造形師だろうが、大したもん、作れるわけないだろ!」
ミアは口に手を当て、ころころと笑いだした。
二人の神官は顔を真っ青にして、何度も何度もミアに頭を下げる。
「気にしないでよろしくてよ」
ミアの声に、さらに神官は深々と頭を下げ、上官の膝を裏から殴る。
かくんと折れた膝はそのまま立ち膝の状態となり、上官は激怒で振り返るが、神官たちの顔が、恐ろしい。
まるで神に脅されているかのようだ。
ひどい怯え方であり、顔色であり、冷や汗もひどい。
「……ろ、ロバート、ミア様は、偉大なる特級魔導造形師にあられる。世界でも3人しかいない、貴重なお方にあられるぞ。かの大魔術師マーリンに匹敵する力をお持ちの方に、貴様は何て態度を……!」
僕は横に並んだミアを見る。
何度も見る。
何度も見るが、何度も言っていたのは、魔導造形師ニクラスの弟子、だ。
「特級……?」
おもわず声が出る。
ミアは、背筋を伸ばし、
「特別に急ぐ、の、特急ではございませんことよ?」
「わかってますけど……」
「弟子が師匠よりも立場が上になることは、往々にございますわ」
あまりにかけ離れ過ぎた人に出会うと、もう見えているものしか信じられなくなる。
僕の場合はそうだ。
可愛らしい服を着て、人形の妹たちがいて、少し怪力の美少女。それがミアだ。
「ちょうどよかったですわ。リッカルドとアンドレア、わたくしの護衛聖騎士として、アキム様を任命いたします」
二人は恭しく頭を下げてから、僕の顔を見た。
なぜ、この若い聖騎士に?
視線で問われても、僕は答えられない。
ミアは僕の腕にからみつきながら、
「3枚薔薇の新人聖騎士様よ。わたくしに、よく似合うと思わなくて?」




