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棺桶を抱えた君と巡ろう、僕が“老騎士”と呼ばれるまで  作者: 木村色吹 @yolu


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第25話

 外されたペンダントに、僕はすぐに力一杯目を閉じた。

 この目を知っているのは、両親とヴォルガだけだ。


「閉じても変わんねって。だってさ、ヴォルガが匿う見習い騎士だぜ?」


 ヴォルガと何が関係があるのか。

 僕はただ見せたくない一心で目を閉じるも、カインは僕の瞼に指をかけた。

 そして、目一杯上下に開く。


「ほーら、お前の目、翡翠色だぁ」


 無理やり瞼をこじ開けられ、まじまじと僕の目を眺める、見下しながら鼻で笑った。


「緑目は禁忌の子ってな。俺たちの国じゃ、未だに緑の目が生まれたら殺してるのに、お前はのうのうと生きてきたんだろ?」


 確かに僕は恵まれていたのかもしれない。

 緑目は偶然に生まれることの方が多いからだ。

 しかし僕は母から目の誤魔化し方を教えてもらえていたし、子どもだからと見逃されていたことは多かったとも思う。

 それでも目を隠さず歩いていれば、腐った卵を投げつけられたこともある。


「呪われた子ってやつだな」


 カインの声に、過去に叫ばれた声が重なる。


忌子いみごよ、消えろぉぉ!」


 民族衣装を着ていたことから移民の人だったのだと思う。

 戦時中だったのも大きな要因だろう。

 苦しい目に遭ってきたからこその言葉に、子どもの僕には堪えてしまった。

 しばらくは外にでることができなかったのは言うまでもない。


「うるさい! 忌子なんて、今どき流行らない」

「でも、お前、目の色、隠してんだろーがよ」


 頬を思いっきり殴られた。

 血の味がする。

 歯が折れなかっただけましかもしれない。

 だが不本意だ。故意に隠してたわけではないのに。


「それは母の形見だ。返してくれ」


 感情が昂ると、魔力も高まる。

 おかげで腕がちぎれそうだ。

 さらに碧薔薇の根が肋からさらに腰まで伸び、引き攣る痛みが背中に抜ける。

 思わず胸を反らすが、縛られているせいで椅子が揺れるだけだ。


「もうすぐ薔薇が咲きそうだ。お前なら、あと何本、咲かせられるか楽しみだわ」


 「取ってみろよ」そう言いながらペンダントが膝に落とされた。

 受け取りたいのに受け取れないペンダントは、太ももと太ももの間に滑り落ちていく。


「拾っていいぞ?」


 血の唾を吐き捨て、睨むしかできない。


「カイン様、早くしてください!」


 苛々したヘルマンの声かけに、カインは大袈裟に肩をすくめた。

 すぐ奥の暗がりへと向かう。

 棚から何かを取り出す気だ。


「アキムは知ってんだろ、ヴォルガの目も、翡翠色だって」


 棚の方から声がする。


「知らない!」


 カインは何か探し当て、戻ってくると、何度もその品を確認している。

 ようやく見えた彼の手元には、大ぶりの魔導ナイフがある。

 主に医療の際や、魔導造形師が使用するものだ。

 人間の場合は手術で使用し、造形師の場合は人形のボディを切り出したり、ボディ自体に穴を開ける際に使う。

 人体なら傷口は美しく仕上がり、鉄はもちろん、最強の金属といわれるオリハルコンも切り落とすことができるそうだ。


「首の聖女がヴォルガの目を欲しがってたっていうじゃねぇか。だから、お前があの日、逃したんだろ?」


 初耳すぎる。

 そんな噂があったなんて聞いたこともない。

 あまりに呆気に取られる僕の顔に、


「違うのか? まあ、どうでもいいや。あいつが生きてようが死んでようが、俺には関係ねぇし」


 カインは魔導ナイフに魔石をセットする。

 淡く深い緑に刃が光り始めた。


「さ、心臓心臓。魔導造形師してんなら、多少は臓器に魔力あるだろ」


 ナイフを向けるカインの横にはヘルマンが鉄のトレイを両手に持って準備をしている。

 そうやって何度も罪もない人間を切り刻んできたのだ。

 マシューは淡々とナイフをミアの心臓に向ける。


「やめろ……! やめろぉっ」


 椅子を揺らすも進めない。

 まだ助ける術はあるはずだ。


「とっくに死んでんのに、何がやめろだ」


 馬鹿馬鹿しいと言わんばかりの顔でミアの服越しにナイフの刃を立てた。

 鎖骨の間に刃が一度当てられる。

 場所を定めるためだ。


「慎重に、お願いしますね」


 ヘルマンの冷静な声に、僕は椅子を揺らし、叫ぼうとするが、口を布でマシューに塞がれる。

 頭の後ろで閉められ、息すら苦しい。

 さらには、ぐるりとミアから背中を向かされた。

 見せたくないという優しさではない。

 間違いなく、僕が邪魔だからだ。


 腕がちぎれそうだ。

 根が指の先まで伸びてきた。

 だがこのまま魔力を流し続け、花を咲かせ、枯れさせられないだろうか。


 やるしかない。


 僕は目を瞑り、魔力を高めていく。


 腕のナイフがぐんぐん僕の魔力を吸い上げている。


 これは、久しぶりの感覚だ。

 脳が熱くなるほど魔力を放出するのは……


 いつぶりだろう……

 3年前の大量発生したゴブリンの討伐以来だろうか……


 ゴブリンは虫よりもタチが悪い。

 繁殖力も高い上に、力もある。食欲が旺盛で畑の食べ物など瞬く間に食い荒らす大きな蝗だ。

 しかも武器を持ち、戦うこともできるのだから、普通の人間では太刀打ちできない。


 もちろん、僕も太刀打ちするのが難しく、全開放した挙句、村のぎりぎりまで焼け野原にしてしまった。


 ヴォルガがいなければ今頃、村の二つは、焼失していた気がする。

 本当に、この件に関しては定期的にイジェスに懺悔をし────


「離せっ! なんだこれ! やめろっ!」


 カインの叫び声に、僕の意識が引き戻される。

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