第20話
『じゃあ、これから何すんだよ』
食べ終えたエンバーがテーブルの上に降りてきた。
ミアと僕の間で始めた毛繕いを眺めながら考える。
「たぶん、切り取られた部位は、キメラの材料になっていると思うから、その場所が知りたいよね。犯人もそこにいるだろうし」
『はぁ!? キメラぁ!?』
「声、大きいよ、エンバー」
宥める僕にお構いなしに、エンバーは床を歩きながら、ぶつぶつ喋る。
『キメラって、あの、キメラ? 動物同士をくっつけるってやつだろ? なんでそう思うんだよ』
「昨日のシャワーの際、一瞬、思い出したんだよ、治療魔術のこと。ようやく思い出せた」
「こっちきて」エンバーにいうと、なぜか僕の膝へ。
エンバーを落とさないように僕はメモ帳をやぶきテーブルに置くと、大雑把な人を描く。
「今はほとんどないけど、国境戦争の際、多くの兵士が負傷した。それは多かれ少なかれ、傷はもちろん、火傷とかもあった。その際、極端だけど、足を切り取るとするだろ?」
右足に丸を書き込み、斜線を引いて切り取りを表現。そこへ矢印と魔法のマークである丸の中に三角を描く。
「じゃあ、エンバーに質問。切り取ったとき、どうしたら早く回復して兵士に戻れると思う?」
『そんなの、傷が治る以外、ねーだろ』
「あたり」
体のあちこちから、傷に向けて矢印を書き込んだ僕に、エンバーは首を傾げて僕を見る。
「傷口がとにかく閉じているといいよね。だから、生命力を傷口に集中させるんだ。それこそ、死にかけた足からも生命力を搾り取るわけ」
傷口と思える箇所に何度も線を引きながら僕は続ける。
「そうすると、この切り取る予定だった使えない足は壊死して、傷口の治癒力が高まり、数日で戦場に戻れるってわけ」
『それと、今回、何が関係してんだよ』
立ち上がったミアの爪が、僕のメモを叩いた。
指した箇所は、足の部分だ。
「エンバー、残す箇所を逆に使ったってことですわ」
逆の意味がわからないのか、エンバーは紙をぐるぐる回すが、ロドスが体から足、足から体をなぞって見せる。
『あー、なるほど! 足を残すために、全身の生命力をこっちへやったってことか!』
わかったことが嬉しかったのか、エンバーはロドスの腕にうつり、赤い毛を黒い執事服になすりつけている。甘えている動作なのだろうけど、どうしても毛が気になる。
「さすがアキム様ですわ」
「いいえ。ミアならとっくに気づいていたのでは?」
「確信に変わったのは、先ほどの魔力検査のときですわ。それに、セオさんの部族までわかってませんでしたし。アキム様の洞察力には恐れ入りますわ」
2杯目の紅茶を飲み込んだとき、ドアがノックされた。
僕は立ち上がりもせず、声だけで返事をする。
「はい」
『あの、ヘルマンです』
僕はヘルマンの反応をみたく、それ以上、声を出さないで待ってみる。
『……あの、……ご昼食の準備が整いました。いかがでしょうか』
ドア越しの提案に、僕はミアに視線で尋ねた。
にこりと微笑んだのをみて、僕も小さく頷き返す。
「いただきます。少ししてから伺いますね」
『では、お待ちしております……』
僕は深呼吸をする。
これから冷静に対応できるだろうか。
明らかに安心した声音がした。
何か、ある。
「アキム様、覚悟はよろしくて?」
真剣かつ、僕を見上げる表情は、まるで戦地に赴く戦士のようだ。
僕はもう一度、息を吸い込む。
「……はい。しかし、まずは準備をしておかなければ」




