第17話
セオは、どこへ逃げたのか。
村を超えてさらに移動するには、少なからず移動手段が必要だ。
ここにはペガサスもおらず、馬もない。
村で馬を借りようにも、彼の顔は割れているはずだ。
しかし、協力者がいれば……
いや、彼は天涯孤独の可能性がある。
彼は、間違いなく、少数部族・ライヴァス族だ。
国境戦争の際、ライヴァス族の部隊によって苦汁を飲まされた国も多かった。
偏見がまだ残っている以上、彼は自分でどうにかするはず────
僕は今、迷っている。
セオの行方を探すべきか。
それとも、この消し炭となった遺体をどうにか解析すべきか。
全く判断がつかない。
あまりに経験値がなさすぎる。
「アキム様、なにか、そちらの木に書いてありますの?」
ミアが寄り添ってくる。
半歩横にずれて距離をとるが、また半歩近づいて僕を覗き込んだ。
「木に答えが浮かんできたり?」
「いえ」
もう半歩距離をとり、呟いた。
「……選択肢が多すぎて選べないのです」
ぼそりと言うと、彼女は花が咲いたように表情を輝かせる。
愛らしい笑顔で、僕の胸にそっと頬を寄せた。
「では、村で絨毯を選ぶ一択ですわね。楽しみですわ」
「そちらは最初から選択肢に含まれておりません」
僕がため息まじりに押し返すと、ミアは優しく微笑んだ。
「まだ少し余裕がありそうですわね、アキム様」
「なにをおっしゃいます」
しかしながら、ミアのおかげでやるべきことは見えた。
──今、わかることをする。
確かにセオの行方は気になるが、彼を見つけることで大きな進展は望めないだろう。
なぜなら、この犯人は、セオではない。
もし、セオが犯人であれば、セオがこの遺体を焼かせたことになる。
だが、庭師のマシューに遺体を焼けと指示をしたのは『旦那様』だ。
セオが『旦那様から指示があった』と嘘をつくのは簡単だが、たぶん、それはできない。
あの伝言板のやりとりから、『誰か』の指示を確実に受けて、行なっている。
マシュー本人に連絡が行くのが流れとして正常と見ていい。
僕の想像が正しければ、セオは、ここへ来て間もない人間だろう。
「マシューさん、セオとはあまり長い付き合いではないみたいですね」
「……へぇ。一ヶ月もしてないですかねぇ。結婚式のための庭整備に雇った男でしたから」
「では、今回、亡くなってしまった侍女のみなさんも、結婚式のため、ですか?」
「へぇ、そうです。でも、こうなっちまったんじゃ、仕方がないですわな」
真っ黒いシルエットになった3体を見やり、マシューは「ははは」と笑った。
その笑い方が、気になる。
なんだろう、あの笑い方は……
「ありがとうございます、マシューさん。その3人はどうされるんです? お墓を建てられたり?」
「いやいや、そんな大層なことは。沼地の奥に捨ててきます」
「では、その前に、3人の炭をいただけますか? イジェスの神に導いてくださるよう、お祈りをしたいのです」
「へぇ」
僕が目配せすると、ロドスがついてくる。
僕は彼女たちの眼球と思わしき炭を手袋ごしにつまんだ。
小さな布袋の口を広げて待っていたのは、エンバーだ。
『上手にいれろよ、舎弟』
「こぼすと思う」
『だぁ! 手に灰がかかったじゃねーか! 俺っちの手ってが真っ黒っ!』
3つ、わかるように数字のメモを入れ、袋を閉じた僕に、マシューはまた「へぇ」と言う。
「ありがとう、マシューさん。これで安らかに送れます」
歩き出した僕の背を、エンバーを抱えたロドスが付いてくる。
そこに小走りでおいかけてくるのはミアだ。
「お待ちになってアキム様、帰りは運んでくださらないの?」
「もう、急ぐ必要はないですから」
「あら、本当ですの? 何かわかったことがございまして?」
「わからない、ということがわかりました」
「それでは、進展はございませんじゃありません?」
「そうでもないですよ」
ふわふわなスカートすら押しつぶす勢いで僕のとなりに来たミアに、僕は耳打ちする。
「……被害者の共通点がつかめたかもしれません」
ミアの目の中の深淵が開く。
「お茶を淹れますわね」
心なしか足も大股だ。
ぬかるんだ土は火が高くなった今、乾き始めている。




