第5話 デンジャラスな昼食
――あれから一週間、全然話せていない。
なーにが動き出すだ。
この一週間話すこともなく、ただただ過ぎていったじゃないか。
先週の自分に言ってやりたい。何も進展などしていないと。
そんなことを思いながら朝のホームルームを終えると、啓介がにやけながら近寄ってきた。
「よぉ、相変わらず話しかけることすらできない郁人君。」
こいつ、人が気にしていることを。
「うるさい、タイミングがないんだよ。」
自分で言って恥ずかしくなるような言葉しかでてこなかった。
正直、話しかけようとは何度も思った。
でも、何話したらいいのかわからん!
話題もないのに話しかけてもなんか変な空気になりそうだし……。
「お前、話しかける気あるのかよ。」
啓介は笑いながら僕の肩を叩く。
くそ、何も言い返せない。
そんなことをして啓介にからかわれていると、一人の女の子が近寄ってきた。
「ねぇ、啓介。何笑ってんのー?」
女の子は啓介の肩を組んでにやりと笑っている。
黒い髪を後ろに束ねて大きな紺色のリボンが目に止まる。
切れ長な目に活発そうな笑顔、この子誰だ。
「おい、杏子!肩組むなって!」
そういって啓介は杏子と呼んだ女の子の手を押しのける。
「あははっ。啓介、照れてんのー?」
杏子は啓介の顔を覗き込む。
「あほか、ベタベタくっつくんじゃねーよ。」
啓介は困ったような顔をしてため息をつく。
「なぁ、この子は?」
僕は親しげに話す二人に割って入る。
「あぁ、すまん。こいつ、俺の幼馴染で杏子っていうんだ。去年はクラス違ったし、会うことなかったよな。」
そういって啓介は杏子を指さす。
「あっ、この人って啓介と奏さんが良く話してる、郁人って人?」
杏子は僕と啓介の顔を交互に見ながらそう言った。
「初めましてー。如月杏子です!杏子って呼んでね。」
元気よく挨拶をしてポーズまで取ってる。元気な子だな。
「藤宮郁人だよ。よろしくね、杏子。」
そういって杏子にお辞儀した。
「んっ?啓介と奏さんが良く話してるって、何話してるんだよ!」
僕は頭を上げて啓介の方を見た。
奏さんはお姉さんだ。
入学式以降、ちょくちょくコロッケを買いに行くから顔なじみになっている。
「あぁ、まぁ大したことじゃねぇって。」
笑ってごまかされた。こいつ、こういう時に絶対に答えない。
「まぁ、それは置いといて。杏子は今年からクラスも一緒だし、絡むこともあるだろうからよろしく頼むよ。」
啓介にこんな幼馴染がいたなんて。仲よさそうなのに、去年は全然見かけなかったぞ。
啓介が杏子の方に向いて話しかける。
「そういえば杏子ってさ、橘さんと仲良かったよな?」
杏子が口に手を当てて答える。
「うん、仲いいよ。去年も同じクラスだったし、よく遊んでるよ。なんで?」
杏子は少し不思議そうに小首をかしげた。
「そっか、仲良かったかー。」
啓介が杏子に返事をしつつ、僕の方を見てウインクしてくる。
なんなんだ。そのあからさまなアピールは。
杏子の方に向きなおして啓介は笑顔で答えた。
「まぁ今年は杏子とも同じクラスになったし、絡むことあるかなって思ってさ。」
杏子が少し眉をひそめる。
「なぁに、ひょっとして夕日のこと狙ってるの?」
杏子が啓介をジトっと覗き込む。
啓介は少し慌てながら答える。
「えっ?いやいやいや、俺じゃない。決して俺じゃない。」
啓介、慌てすぎだろ。そんなあからさまに否定したら……。
「じゃぁ、誰が狙ってるのよ!?」杏子が啓介を問い詰める。
ほら、こうなった。
頼む啓介、ここは穏便に収めてくれ。僕はジェスチャーで啓介に合図した。
僕のジェスチャーを見た啓介の顔が引きつっている。
啓介、杏子になんか弱みでも握られてるのか?
奏さん以外でそんなにあたふたする姿は見たことないぞ。
そんなことをしているとチャイムが鳴った。
「もう、あとで聞くからね!」そういって杏子は席に戻っていった。
杏子が席に戻ったのを確認して小声で話す。
「なぁ啓介、お前、なんであんなにタジタジなんだ?」
啓介が元気なく席に戻りながら答える。
「聞くな。幼馴染って色々あるんだ……。」
あぁ、これはそっとしておいた方がよさそうだな。
――あっという間に午前の授業が終わって昼食の時間になった。
さてと、学食行くか。そういって席を立ち、啓介に視線を送る。
啓介は手を挙げて教室の外に出た。
「いやー、腹減ったよな。早く学食行こうぜ。」
そういって啓介は軽やかに歩き出す。僕はその後ろをついていった。
学食に着き、食券機にお金を入れて眺める。
さて、今日は何にしようか。カレーやカツ丼の定番はよく食べるし、たまには変わったものが食べたいが……。
「おい郁人、何にするか決まったか?」
啓介はすでに食券を買って待っていた。
「あぁ、なんにしようかなと。たまにはちょっと変わった物が食べたいなと。」
この学校の学食はメニューが多い。日替わりはもちろん季節限定のメニューも豊富にある。
学生の胃袋を満たすためにいろいろ工夫されたメニューが多く、いつも大人気だ。
どうしようか。決められずに考えていると痺れを切らした啓介が動く。
「あーもう!お前はこれな!」
食券機の下の方にあるボタンを啓介が押した。
「あっ!おいおい、何選んだ!?」
出てきた食券を見て、僕は青ざめた。食券にはデンジャラスラーメンと書かれている。
これは学食の中でヤバいとされている有名な七大メニューの一角だ。
「おい、啓介?お前なんてことを……。」
僕は出てきた食券を握りしめて啓介を睨みつける。
「お、お前がさっさとしないからいけないんだぞ。」
心なしか啓介の目が泳いでいる。お前、このメニューの恐ろしさ知ってるな。
「出てきたものは仕方ないし、まぁ頑張って食えよ。」
啓介が親指を突き出した。お前、今度覚えてろよ。
仕方なくカウンターに行き、料理を待つ。
啓介はきつねうどんのようだ。そんなデフォルトメニューみたいなの頼みやがって。
僕は自分のメニューを待ちつつ緊張していると、僕の前にトレイが運ばれてきた。
「はい、デンジャラスラーメンね。頑張って食べてね。」
見るからに赤い。というか真っ赤じゃん。
仕方なく給水機で二杯分の水を入れて啓介の待つ席へと向かう。
「おお、来たな。」
僕は啓介の隣の席についてため息をついた。
「お前、今度覚えておけよ?」
「おお、こわっ!」啓介が大げさに怖がったふりをする。
「仕方ない、食べるか。」
そういって割り箸を割って器に向き合う。
よし!覚悟を決めて箸を入れようとしたその時--。
「あれ、杏子と橘さんじゃね?」
啓介が食堂のカウンターの方を見てそう言った。
確かにトレイを持った二人があたりをキョロキョロしている。
席を探しているみたいだ。
啓介が天井を見上げ、少し経つと僕の方を向いた。
「これでこのラーメンチャラにしてな?」
啓介はそういうと立ち上がって手を上げる。
なんだこいつ、いきなり何を――。
「まさかっ!?」
慌てて啓介の方に顔を向けるとカウンターの方に手を振っている。
カウンター側を見ると啓介に気づいた杏子が手を振っていた。
「お、おい啓介君?」
僕は震えながら啓介に手を伸ばした。
啓介は僕の手をしっかりと握って微笑んだ。
「これでチャラな!」
おいーっ!心の準備できてねーよ。どうすんだよ、いきなり。こんなデンジャラスラーメンとか選んでるんだけど!
慌てていると二人が僕たちの席まで来ていた。
「啓介、ありがと!席探しててさー。」
杏子はそう言いながら笑っている。
「ここ、いいのかな?」
そういって橘は杏子の隣に立っていた。
「全然いいよ、座ってよ。」
啓介は笑顔で対応している。
二人が席に着く。僕の対面には橘さんが。
駄目だ、緊張してきた。ただでさえまともに喋ったことないのに、こんなデンジャラスラーメン食べるところ見られるとか……。
――これ、どうなるの!?
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