第4話 決意と裏腹
——あれが、全ての始まりだった。
僕はそんなことを思いながら始業式とホームルームを終えた。
ホームルームが終わり、みんなが下校していく。
僕は窓から帰っていく生徒を眺めていた。
「一年ぶりか……。」
一人残った教室の窓から下校する彼女の姿を追っていた。
しばらくして校庭の生徒数がまばらになった。
「そろそろ帰るか。」
立ち上がって鞄を取り、靴箱へと向かう。
上履きを脱いで靴と取り換える。
踵を軽く踏んだまま靴を履き、つま先を打ち付けて踵を直す。
校庭に出るとほとんど人はいなかった。
僕は静かな校庭を一人歩いていく。
校門を出た所に見知った顔があった。
啓介だ。彼も僕に気づき、近寄ってくる。
「よっ!今から帰りか。」
啓介は何か言いたげな顔をしていた。
「なんだよ、待ってたのか?」
僕はそういうと校門を出て歩き始めた。
「まぁまぁ。」
啓介はそう言って隣を歩いていく。
「で、どうだった?あとでわかるって言ったろ。」
啓介が僕の顔を見ながら言った。
「どうって、何が?」
何が言いたいのかわからなかったので問い返した。
「はぁー?どうって橘夕日だよ!」
啓介は眉をひそめて、僕の顔を睨んでいる。
「どうって、どうもないって。」
僕は目を細めて啓介から顔を逸らした。
啓介がため息をついている。
「な、なんだよ。」
僕は啓介のため息に、思わず慌てて口を開いた。
啓介は頭の後ろで手を組みながら話す。
「お前、去年ずっと気にしてただろ?だから、同じクラスになってよかったな。」
そういって啓介は僕の肩を叩いた。
「まぁ、そうだな。」
少し照れ臭くなって、反対側に顔を向けた。
「照れんなって。」啓介が肩を組んできた。
「なんだ、暑苦しい。」
肩に回された手を払いのけて少し距離を取る。
そうして歩いていると坂も中盤に差し掛かっていた。
そこには、あの時の公園がある。
僕は公園の方に一度目を向けて、すぐに目線を戻した。
「ん?どうかしたか。」
啓介が不思議そうな顔をして声をかけてきた。
「僕さ、今年は動いてみるよ。」僕は啓介の方を見て答えた。
啓介が僕の顔をじっと見て言う。
「……お前よっぽど好きなんだな。橘のこと。」
――っ!?
「な、なんで、そうなるんだよっ!」
僕は顔を真っ赤にしながら啓介に詰め寄った。
「いやいや、お前、その顔鏡で見てみろよ。」
啓介はあきれた顔をして僕を見る。
「違うって!好きとかそんなんじゃ……。」
僕は途中まで言って、言いよどんだ。
「ただ……あの笑顔がもう一回見たいんだ。」
僕は少しうつむきながら言った。
「それを好きっていうんじゃね?」
啓介は真面目な顔をして僕の顔を覗き込んだ。
「そうなのかな。」
僕は足を止めて空を見上げた。
彼女のことが好きかどうかなんて考えたことはなかった。
ただただあの笑顔が見たくって、そればっかり考えていた。
でも、冷静になって考えるとこれって……。
「おーい。一人で黄昏るなよー。」
視界に啓介の手が行ったり来たりする。
僕はハッとして慌てて視線を戻した。
「ごめん、ちょっと考えてた。」
僕は頭を掻きながら啓介に答えた。
「とりあえず、まずは話すところからだな。」
啓介のいう通りだ。僕と彼女の関係は友達ですらない。
「そうだね、今度声かけてみるよ。」
「あぁ、そうしろよ。じゃ、俺こっちだから、またな!」
そういって啓介は商店街の方に向かって歩いていった。
「じゃあね、また明日。」
僕も帰ろうとそのまま坂を下っていく。
少し歩いたところで足を止めた。
(……。)
僕は来た道を引き返した。
そして、あの公園の中に入っていく。
奥まで進んで足を止める。
去年彼女と初めて会ったこの場所。
ここで決意することにした。
僕は今年、もう一度彼女の笑顔を見ると。
――それから一週間がたった。
未だに彼女とまともに会話すらできていなかった。
席に座り、窓の外を眺める。
「あ、あれ?こんなはずじゃ……。」
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