表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第八章 とある騎士爵の亡命
86/100

協力者

「ヴェストヴェスト要塞の地下通路は、相当入り組んでいるはずです。瘴気をなんとかしたところで、ツァラトゥストラへの潜入に利用するのは困難ではないでしょうか?」

「そのための案内人です。ボクは戦争が始まってすぐに徴発されて、坑夫として地下通路の掘削に長く携わっていました。ですので、ザルツシュヴァルツ大公国からツァラトゥストラ首長国連邦側へ繋がる抜け道も知り尽くしています」

 それは頼もしいが……この少年は本当に幼い日から、坑夫という最も過酷で危険な労働に従事していたというのか。


 本当に嫌な時代である。


 しかし、幼いとはいえ、男の子にしてはずいぶんと可愛らしいもちもちとした声だ。何故だかリスやハムスターみたいな印象を受ける。


「とはいえ、それは国境なき騎士団の協力者であった父の命で、ですが。協力者としてボクら親子に与えられた任務は、他の国境なき騎士団の構成員が、戦時下でも各国を移動できるように取り計らうものでした」

 ザルツシュヴァルツ大公国は、大陸を東西の文化圏に分ける内海のなかに位置している。


 同国は物流の要所でもあり、北はモコシ、東はツァラトゥストラ、南はネプトゥーナーリア、西はインウィクトスと、それぞれ隣接している。


 この国の交通の自由を守ることは、まさに国境なき騎士団としては、重要な課題であったと言えるだろう。


「講和条約が結ばれたことによって、東西の物流や人の流れは再び元に戻りはじめています。ですが、厳戒体制は依然として維持されているため検問は厳しく、手配犯を伴っての再入国はほぼ不可能です」

 そうだろう。僕がオステンヴォルケへ下った時点でもまだ、国境近くでは中央の命令に従わない小隊によって、散発的な交戦が起こっていた。


「しかし……国境なき騎士団であれば、ツァラトゥストラ首長国連邦と隣接する他の大国……東にある華の国や、南のマハーヴァーストゥ帝国、北のモコシといった国に亡命させることも可能だったのでは? 何故わざわざ、危険を犯してまで越境が困難な西側へ?」

 大司教から話を聞いたときは、報酬に目が眩んでしまったせいか気にならなかったが、冷静に考えてみると大公国への亡命は余りにもリスクが大きいのではないだろうか。


「国境なき騎士団は、大陸北西部から中央にかけては、ある程度安定した力を発揮できますが、南東エリア……華やマハーヴァーストゥについては、未だ勢力を伸ばしている途上なのです。その上、この二国との間を検問を避けて移動するには、それぞれブラフマ山脈かネフティス砂漠かを通る必要があります。越境のリスクは西側へのそれとどっこいどっこいです」

 世界最高峰の山脈に、世界最大の砂漠。確かにどちらも越境は一筋縄ではいかない。


「モコシについても、現在ツァラトゥストラと軍事的緊張が続いていますので、避けるべきでしょう。先日も小規模な戦闘があったばかりですし」

「それは知りませんでした……疫病流行の予兆があることは聞いていましたが」

 オステンヴォルケで暮らし始めてから約2ヶ月、世界情勢についての情報収集を怠るようになってしまった。


 領主としては、あまりよろしくない傾向だ。


「それもあります。亡命後の安全も含めて、オステンヴォルケで引き取って頂くことが、一番なのです。騎士爵、ラピエル・シグルズ=アララールですが、彼女は静かな土地で自由に剣を振るって、のびのびと暮らすこと望んでいるそうです。自然豊かで人口も少ないオステンヴォルケは、彼女の希望に即した土地と言えるでしょう」

「彼女……亡命を望んでいるという騎士爵は、女性だったのですね」

 騎士爵というのは世襲の貴族ではなく、一代限りの準貴族の身分である。つまり、当人の実力に対して与えられる称号のようなものだ。


 その称号を持っている女性を、これまで僕は一人だけしか知らなかった。


「てっきり、大司教から聞いているものかと思っていました。彼女は、傭兵としてツァラトゥストラに潜入していましたが、首長国連邦を構成する王家の一人にその実力を高く買われ、騎士爵の称号を与えられました」

「ええ。その話は聞いています。その王家の人間に手を挙げてしまったため追われる身になったとか」

 大司教曰く、この騎士爵には直情的な部分がある、とのことらしい。


「そうです。その手を挙げた理由というのが、彼女に騎士爵の称号を与えた王家の人間が、彼女を手込めにしようとしたということに起因します」

「なるほど……それは手を挙げる理由としては充分ですね」

 手を挙げるどころか、手を切り落とす理由にもなる。


「……そういえば、まだあなたのお名前を伺っていませんでしたね。何とお呼びすれば?」

 僕の言葉に、それまでずっと前方を向いたままだった少年が、始めて振り返った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ