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異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第三章 農本主義糞リアリズム
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財政改善案


「それでは財源の確保について、話を戻します。土地の生産力の落ち込みとともに、オステンヴォルケの財政難は深刻なものです。このままでは、子ども達に教育を受けさせることも、怪我や病気の際に医者にかかることも、魔獣が出た際に冒険者に討伐依頼をだすこともできません。文化的で安全な生活を送る上で、財源の確保はとても重要です」

 人はパンのみにて生きるにあらず、だ。


「ですが、公爵様。この土地には売れるものは何一つ残っておりません。かつては炭鉱がありましたが、今はすっかり荒れ果てて……」

「ええ。ですからまずは、元手がほとんどかからない事業から始めましょう。その第一歩が、近隣都市での屎尿の回収です」


「しかし、農地を耕す人手も充分とは言えません。それに、この土地には馬も牛も、農耕のためのものが一匹ずつしか残っておりません。一番近くの都市となると、ヴァッハフォイアー辺境伯領ですが……馬車で丸一日、大人の足でも二日はかかります。荷台に屎尿乗せて運ぶとなると、とても……」


「それについては心配ご無用です。この業務には私の持っている馬を提供いたします。グラニという幻獣の血を引いている、蒸気鉄馬(スチームドラフト)という馬です。非常に力持ちで、底無しの体力をもっており、本気で駆ければ機関車にも負けない程の速さです」

「そんな珍しい生き物が……公爵様は一体どこで手に入れられたのですか?」


「エイルリフィアの皇女が譲ってくれました」

「そんな素晴らしい馬を……これも、公爵様のご人徳なのでしょうな」

「ええ、それほどでも……」

 この世界では、成功の三要素は「血統、才能、人脈」とさえ言われている。その点で、僕は特に周囲の人たちに恵まれている。


「それで、都市での屎尿の回収は、どれ程の人手が必要でしょうか……若い男はみな出稼ぎに出るか、兵隊になりまして。村にはこの通り老人と女、子どもばかりしか……」

「それも心配ご無用です。軍隊糞虫(アーミースカラベ)という、屎尿の回収に非常に有益な魔蟲がおります。軍隊のように統率が取れたフンコロガシで、一つの街の隅々に至るまで屎尿を回収し尽くします。ですので、運搬の荷馬車を扱えさえすれば、女性や子ども一人、二人だけでも問題ありません」


「なんと、そんな魔蟲が……」

「ちなみにこれは、バッハフォイアー辺境伯令嬢から借り受けた魔蟲です。貴重な蟲ですので、取り扱いはくれぐれも慎重にしなくてはなりませんが……」

 ほんとうに僕は人からいろいろと貰い過ぎだし、借り過ぎだな。死ぬまでにちゃんと返さないと。


「しかし屎尿の回収は衛生的にも安全とは言い難い上に、汚れや臭いの問題もあり非常に抵抗感が強いと思います。領地内で職業差別が起こってしまうことは、私が最も不本意とするところです」

「確かに。国によっては、屎尿汲み取り人は被差別職ですからな。この土地はともかく、出先の都市での偏見は免れないでしょう……」

 僕の懸念に、クーボーさんが同意した。せめてこの土地で差別が起こるようなことは避けたい。


「ええ、残念なことですが。ですので賃金や健康保険については、特別手厚くします。あとは、誰がこの務めを請け負ってくれるかですが……何か良い案はないものでしょうか?」

 こればっかりは、誰かを指名する訳にもいかない。かと言って村民たちの自主性に任せたとしても、何らかの忖度や押しつけが起こりかねないし……。


「土地の者皆で順番にするのはどうでしょう?」

 老人のひとりがそう提案した。他の人々も「それなら公平だ」と、肯定的である。しかし、それには少なからぬ問題がある。


「それも一つの案ですが、特別な蟲を使うこと、都市での検問等の都合上、出来れば責任感が強く信頼の置ける決まった人物に担って頂きたいのです。私が直接出向くことができれば一番良いのですが、この土地で何か起こったときにすぐ対処できなくなりますので……」

 それに、汲み取り先の土地の人との関係構築も重要である。誰にでも出来る仕事ではあるが、誰にでも気軽に任せられる仕事という訳でもないのだ。

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