魔獣害
「それでは、私の二人の孫たちは如何でしょう」
と、クーボー先生が申し出た。
「お孫さんがいらっしゃったのですか?」
「ええ。といっても養子ですので血のつながりはありませんが。ネリとドリと言って、双子の姉弟です。今年で16になります。普段は私の助手として農地の調査や、子ども達に読み書きを教えています」
「読み書きが出来るのは好都合ですね……それにしても、オステンヴォルケに、若い男性が残っていたのですね」
「ええ。ドリは線も細く優しい子でして、肉体労働が多い出稼ぎや兵隊には不向きでしたからな……いつか帝都の大学で温室栽培の研究をしたいと望んでおるようです。ネリは獣医学を学ぶためエイルリフィアへの遊学を希望しています」
「素晴らしい志です。オステンヴォルケの財政が回復したら、是非とも学費補助の制度も整えたいですね。それまでは、私も微力ながら勉学のサポートをさせて頂きます」
いつかは、この地に帝国一の農学校を建てたいものだ。そのときには、クーボー先生や賢者様にも教鞭をとってもらおう。
「書類や金銭の受け渡しの際に、読み書きが出来ないと足元を見られたり騙される場合があります。ドリさんとネリさんなら、その心配も無さそうですし、御本人にその気があれば、お願いしたいと思います」
「それでは、聞いてみましょう。あと半時間もすれば、子ども達の午後の勉強の時間が終わりますので、ここへやって来るでしょう」
「それでは、話の続きはお二人が来てからにしましょう。……先に聞いておきたいのですが、炭坑に住み着いた魔物というのは、一体何なのでしょうか? と、いうのも蒸気輓馬の主食が石炭ですので、採掘しに行こうと思っているのですが……」
そう言うと、集会所の空気が一気に落ち込んだ。なんだか村人達が再び絶望の淵に叩き落とされたような表情をしている。
「あそこは、とても人が入れるでところではありません。あるとき炭坑夫が軽率にも岩喰蛭の通り道を掘り当ててしまい、それ以来どんなに屈強で命知らずな坑夫も入らなくなったのです」
「岩喰蛭……厄介ですね。炭坑を元通りにするとなると、巣穴に続いた坑を塞いだうえで、炭坑に残った岩喰蛭を駆逐しないといけない訳か……」
岩喰蛭は日光を嫌うため炭坑の外に出てくることはない。しかし、奴等が好む狭く暗い洞窟内で出会った場合、最悪の敵になる。
こちらの視界は限られているのに対し、岩喰蛭の方は体温を検知することでこちらの動きを完全に把握することができる。
岩を砕く歯と強力な顎の力、鉄鉱石をも溶かす消化液を持っているため、薄い鉄の鎧程度では鎧ごと四肢を持っていかれる。討伐のために洞窟に入ったとあるパーティーでは、気が付いたら今まで隣にいた仲間の上半身がなくなっていた、なんてことがあったそうだ。
そして硬い皮膚にダメージを与えられるほど高い威力の魔法を使うとなるど、洞窟の崩落を招く恐れがある。
つまり洞窟内の岩喰蛭を倒す方法は、岩を砕くほどの拳か、岩でできた皮膚の間を正確に貫く剣の腕、もしくは高威力かつ小規模な使用難易度が極めて高い魔法など、ごく少ない選択肢しかないのである。
「参ったな……下級モンスターが住み着いた程度だと楽観視していました。考えを改めなければ」
何事もそううまくはいかないのである。
「森には凍土羆、炭坑には岩喰蛭……やはり、冒険者ギルドがないことには対処の仕様がありませんね」
資源が皆無と言う訳ではないのに、なんとも歯痒い。凶作に加え、魔獣害まで深刻な問題になっているとは……泣き面に蜂である。
「しかし、どちらにせよ石炭か木炭が無ければ蒸気輓馬を走らせることもできません。荷車を作るために材木も必要です。後程、対策を立てた上で様子見がてら森を散策してみます」
「危険過ぎはしませんでしょうか? もし、公爵様の身に何かございましたら……」
クーボー先生の懸念はもっともである。かつてのように魔法が自由に使えれば、魔物の群れのひとつやふたつどうにでもなったのだが。
「多少のリスクは伴いますが、最小限に抑えます。何かあれば、錬金術か……最悪、魔法を使って対処します。側に人がいると、巻き込んでしまう恐れがあるので使えませんが……蒸気輓馬の餌に関しては、私が何とかします」
会議はそこで一旦お開きとなった。




