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異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第二章 土に生きる人々
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東雲の新天地


 「土の上に生まれ、土の生むものを食うて生き、(しこう)して死んで土になる。

 我儕(わなみ)畢竟(ひっきょう)土の化物である。

 土の化物に一番適した仕事は、土に働くことであらねばならぬ。

 あらゆる生活の方法の中、(もっと)もよきものを(えら)み得た者は農である。」

                          ――徳冨 蘆花『みみずのたはこと』


「見えて参りました。あれが旧マウルドレッシャー公爵の邸宅でございます。今日からは、リヒト様のお屋敷となります」

 馭者の声に窓を開けると、古いが趣味の良い煉瓦造りの大きな建物が見えた。


「田舎だぁ」

 屋敷の背には山。三月の末だというのに、頂きにはまだ雪が残っている。雪深い山のお陰で、水は豊富にあるようだ。何処からか川のせせらぎの音が聞こえてくる。風は少し肌寒いが、凛と澄んでいて心地よい。緑の匂いが体に染み込んで来るようだ。


 しかし、見渡す限りの田畑は管理の手が行き届いておらず、作物が疎らに生えているだけの雑草園と化している。


 働き手が足りていないのだろうか。人口統計や農地の管理、公共の施設や事業などについては、到着した後に担当者から引き継ぎを受ける予定であるが、今から既に不安である。


「何事もなければいいけど」

ともあれ、心配してもどうしようもない。できることをするだけだ。



 東へ向かう長い旅は、東雲の空が染まる頃ようやく終わった。待ちに待った田舎での農耕ライフが始まるのである。



 屋敷は、件の農民達による領主への反乱の際に損害を受けたようで、一階の一部外壁が壊れたままになっていた。

 しかし住めない程の損壊ではないので、冬が来るまでに気長に修理すれば良い。


 茨の生け垣で大きくコの字に囲われた敷地には屋敷の他に、馬小屋に蔵、井戸が揃っている。さらにその外側には、浮島をあしらった池や、飛石が置かれた遊歩道、茶会を開くことができそうな四阿などが設えられた庭園があり、庭師のための宿舎までついている。屋敷の中の部屋数も30近い。使用人を大勢抱えて、たいそう贅を尽くした生活をしていたのだろう。


 感想としては、趣味は悪くないが3人で住むには広過ぎる、だ。


「今日は、お掃除で一日が過ぎそうですね」

 帝国から派遣された担当者が利用したり、土地の有力者が会議所代わりに使用していたため、小まめに掃除はされていたようだが、それでもクララが納得するには程遠い状態であった。確かに、少し埃っぽい。


「それに、まずはウンゲツィーファの部屋だね。ずっとその格好でいる訳にもいかないし、早く休みたいだろうし」

 彼女は移動のために、多くの覆いで肌を守っていた。布とはいえ、重ねて着ればそこそこの重さになる。慣れない長旅で、体力的にも辛いだろう。


「ありがとう。ええ、少し疲れたわ。光が入らない部屋のベッドで横になれると、とても助かるのだけれど……地下室とか」

「地下室……貴族の屋敷だから、酒樽や食料の貯蔵用や、隠し部屋だったり、プライベートな牢屋だったり、ありそうな気がするけど」

 出入口は、あっさりと見付かった。二階へ上がるための緩やかな螺旋階段の裏、正面からは見えないように、地下への階段が設けられていた。


「地下牢付きだと、御手洗いがあるだろうから、なお好都合なのだけど……」

 階段を下りながら、ウンゲツィーファはそう呟いた。


「一時的にとはいえ、辺境伯様のご息女を地下牢で生活させるのは、使用人として大変心苦しいのですが……」

「あら、気にしなくていいのよ。クララさん。辺境伯家でも、十年以上離れの蔵に住んでいたのですもの。大差ありませんわ。それに、一時的にではなく長期的にそこで寝起きするつもりですわ」

 ウンゲツィーファは、弾んだ声でそう言った。当人が望むなら構わないが、出来るだけ快適に過ごせるように改装を検討しなければ。


 屋敷内の要修理箇所、改装箇所をあとでまとめておこう。


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