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異世界農楽集  作者: 夢忌無意味
第二章 土に生きる人々
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目蓋を閉じたら居る女神

 果たして、地下には予想外にも、予想していたものが三つとも揃っていた。


 即ち、酒・食料貯蔵庫、隠し部屋、地下牢であった。地下牢には流しと手洗いが、隠し部屋にはなんとベッドが置いてあった。生活に必要な設備が、とりあえずは一式揃っている。


「前の領主は随分と良い趣味をしていたのね。奴隷を地下牢に繋いでおいて、好きなときひっそりと愉しんでいたのでしょうね」

 ウンゲツィーファはそう言いながら、身に纏ったベールを一枚ずつ脱いだ。


「ご丁寧にベッドまで……呆れるべきか、義憤にかられるべきか……運ぶ手間が省けたことを喜ぶべきか……」

「全部ね。まあ、領主はその報いを受けたのだし、今は都合良くベッドが用意されていたことを喜びましょう」

 ウンゲツィーファは、そう言って、ベッドに手を沈め、柔らかさを確認していた。


 ウンゲツィーファは、食事は要らないから、しばらく休むと言って、そのままベッドに横になった。

僕とクララも都合の良い部屋を自分達に見繕って、荷物を運び入れた。

 僕は公爵の使っていたであろう一番大きな部屋を、クララはご用のときにすぐに伺えるようにと、そのすぐ側の部屋を選んだ。

 

 そのあと僕とクララは、それぞれ屋敷の掃除や補修必要個所のリスト作成など雑事を済ませていたが、やることが多過ぎて、到着したときから然程代わり映えのしない状況のなかで、夜を迎えた。


 ウンゲツィーファは昏々と眠り続けていたのでそっとしておき、僕はクララと二人で夕食を済ませると、体を拭いてすぐに床についた。


 明日からも、しなければならないことが山ほどある。今日は出来る限り体を休めることにしよう。



 ――「いま、幸せですか?」

 目蓋を閉じたら居る女神、フェロニア。どうして宗教の勧誘みたいな定型句を毎回吐いて来るのだろうか?


「最近、出てくる頻度が増えていませんか?」

「ええ。依代となる神樹に近付くにつれ、貴方に干渉しやすくなっているのです。……それよりもどうです? 新天地での生活はお気に召しましたか? 大貴族の身分に加え、使用人付きの屋敷。しかも、自由に使えるご自身だけの広大な領地と農園も付いています! これ以上無い、理想的な異世界スローライフスターターセットですよ」

 そう言ってフェロニアは薄い胸を誇らしげに張った。


「そんなに好条件が揃った屋敷と領地が何故、いとも容易く僕の手に転がり込むのでしょう……裏でもあるのですか?」

「な、何もないですよ……まあ、強いて難点を挙げれば、前の領主が一族郎党揃って、村人達によって血祭りにあげられた位で……」


「とんでもない事故物件じゃないか……そうではなくて、これも女神様の力なのですか? 僕はどこまで、貴女の筋書き通りの運命を辿っているのですか?」

 フェロニアは少し言葉を選びながら、僕の問いに答えた。

 

「実は、私は女神と言ってもそれほど大きな力は持っていないのです。と、言うのも信者は今のところ貴方しかいない訳ですからね」

 勝手に信者にカウントされてしまっている。まあ、布教を承った時点で、信者になったようなものか。


「私が貴方に与えることができたのは、ただ一つ、土を肥やすに適した魔法だけです。もう、その力のことはご存知でしょうけど」

「……ええ、そうですね」

 僕は戦地で、その力を全く別の目的で用いてしまった。


「ですから、こうして布教に適当な土地を貴方に誂えるために、私も草の根的な運動をしていたのですよ? 賢者・ホーエンハイムに夢で御告げをしたり、前領主を失脚させるため土地の有力者に予言を託したり」

 たしかに、田舎での農耕ライフを手に入れる上で最も重大な転機となったのは、賢者様が皇帝の前で占いをでっち上げてくれたことだ。それを可能にしたのが、女神の根回しと言うことだろう。


 というか、今の話だと前領主が血祭りに上げられたのって、女神様のせいじゃ……。


「遅くなってしまいましたが、これが私が貴方に与えることのできる全てです。これからどうなるか私にも分かりませんし、してあげられることと言えば雑談の相手くらいです。ですから、これからはどうか貴方の力で、ここに豊かで平和な国を築いて下さいね」

「ありがとうございます。まあ、頑張ってみます」


 そうか、女神様はちゃんと土地は用意してくれるつもりだったのか。


「もう少し、早ければ……」

 ぽつり、我知らずそんな言葉が口を突いて出た。


 僕はてっきり、豊かで平和な国を一から、一人で国造りをしなくてはいけないのだと思っていた。



 そのために、戦争に協力した。



「もう少し早くに、与えてあげられればよかったですね」

 そう言ってフェロニアは悲しげに微笑むと、意識の靄の中に消えていった。

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