第10話 成る
「あら、イェゴールさん。お帰りなさいま……」
「よぉ。お前にしちゃ遅かったな……って! どうしたその血濡れは!」
まだ夜も更けていないというのに、ランディーさんはエレノアさんの腰を抱いて仲睦まじげにしていた。勤務中だろうに羨ましいご身分だと感じる。
「ええ。少々道草を」
己を見るや、尻を抱く彼の手が止まった。
「魔獣の血か?」
神妙な面持ちでランディーさんは尋ねてきた。
「そんなところです。此れ、ナタル草の納品になります」
「え、えぇ……た、確かに」
腰の麻袋から取り出した其れは少し萎びていたが、品質としては問題ないようで、きちんと満額40カッパ頂けた。帰りに川でもう一度洗って持って帰ってきて正解だったらしい。
「それでは」
「お、おう……」
「お疲れ様でした……」
帰り道中、町で擦違う人々からの視線も多く刺さった。
部屋に戻り、鏡を見れば納得する。
「なかなかに……」
真っ青に染まっていた。野獣の類は大抵、人間と同じ赤色をしているが、魔獣の血は変わった色であることが多い。魔族は大抵そうであった。緑だのオレンジだの、白の奴も見た覚えがある。一週間程前の事なのに、酷く懐かしく思えた。
「落ちるだろうか……?」
浴槽に湯を張り、石鹸で擦れば、徐々にではあるが落ちていった。大事な一張羅だ。落ちてくれなければ困ってしまう。ゾティーク帝国の技術はやはり凄い。石鹸一つとっても品質の差を感じる。人類軍の官品も合衆国製でなく帝国製にして欲しかったと今になって思うも、洗礼がどうのこうのと言って叶わなかったろう事も同時に思うのだった。
洗濯を終えて湯浴みをし、買い込んでいた食料を食べる。
最初の数日は外食をしていたが、よく考えれば、どうせ口に合わないのだから保存食を食べれば安上がりだと気が付いた。酒も店で五、六杯飲む分の金額を払えばボトルで買える。何も酒宴を否定する訳ではないが、共に飲み交わす友の居ない身で態々割高な飲食店で酒を飲む理由が己には無かった。
◇◆◇◆
久々によく眠れた。が、どうにも睡眠時間が安定しない。深酒をしたせいだろうか? 寝坊をしたらしい。ガンガンと響く──頭がではなく、物理的に。ドアが喧しく叩かれていた。
未だ宿の予約日数は残っているはずだというのに、出て行けとでも言うのだろうか?
「直ちに──」
下だけ穿いて、応対する。
「イェゴール! ちょっと来い! 話がある」
部屋のドアを開ければ、ギルドマスターのエドマンドさんが立っていた。
(随分と深刻な表情……ギルド追放だろうか? 何故? 否、シルバフォックスの件か。そうであって欲しい。そうだろう。多忙故に早く話を片付けたいとかであろう)
上衣も着て、得物を担ぎ、一階へと向かった。
◇◆◇◆
ギルドマスターに招かれるまま、広間の端の席へ向かい合って座る。彼の隣には娘であり受付嬢のセイナさんが立っている。私服姿だ。非番の中、父親に付いてきたのだろう。
「ギルドカードを出せぃ」
「……はい」
何と、追放の可能性の方が高まった。
抵抗しても仕方がないので、大人しくギルドカードを手渡した。それをセイナさんが裏へと持って行く。
思い当たる節──他人の獲物を横取りした事。処遇を任せると言ったのは己だが、こんな事になるとは想定外であった。
罰金はない事を祈ろう。加えて願わくば、昨日持ち込んだシルバフォックス分の報酬は頂戴したい。そうなれば帝都への路銀は足りるはず。此の町を去り、帝都へ行き原隊復帰をしよう。
視線はエドマンドさんにやったまま、視野を広げる。カウンターにはエレノアさんとランディーさん。事務所にはラルバードさんが居るのが見て取れた。
セイナさんが戻って来る。
「おめでとうございます」
ぱぁっと花の咲くような笑顔で彼女が手渡してくれたのは、印の増えたギルドカードであった。
「──よォくやってくれた!」
「ぅぉ……」
急に大声を出すので少し驚いてしまった。
「ラルバードから話は聴かせてもらった。アイアンウェッジの連中からもな! アンタが魔獣を討伐したそうじゃあないか!」
「そう……伝わっているのですか」
討伐実績は全てアイアンウェッジの成果として報告してもらって構わないと伝えたはずだが、逆に己の成果になっていようとは思ってもみなかった。
「何が言いてぇ?」
「いえ……」
が、其の事を言うと話がややこしくなりそうであったため口を噤む。
「来て早々にFランクにしてはえらい戦果を出してくれてたあたり、ちぃと期待はしていたけどもここまでとぁな! アンタはBランク以上の力量がある。それは疑う余地もねぇ」
「畏れ入ります」
「謙遜すんな気持ち悪ぃ。でもってだ。それに相応しい等級にしてやりたいのは山々なんだが……ギルドの規約的に、FランクをいきなしBにってのは出来ねぇ。俺も初めてそんな決まり読んだぜ。こんな事普通はねぇからな」
「はぁ」
「しゃんとしろい! お前は町守った英雄なんだから」
「はい……」
言われるままに、ひとまず姿勢を正してみる。
「で、どうやらギルドマスターが認めれば二個までは飛び級させても良いらしい事も分かった。だからイェゴール、アンタは今日からDランク。おめでとう!」
「おめでとうございます! イェゴール様!」
「あ、ありがとうございます……」
二階級特進……余り気乗りしない。戦死を想起するものがある。が、冒険者ではそういった意味は無いだろうから、大人しく拝命する。
「して、話は変わって皆大好き金の話だ。懸案のシルバフォックスの方からいこうか」
エドマンドさんが豪快に笑えば、「そういう言い方はやめて〜」と娘のセイナさんが父の大きな肩を軽く殴った。
「一匹1.5シルバ、二十八匹で42シルバのとこ、外傷が一切無し。素材としての価値が高くつく。アンタが寝てる間に現物も一通り見させてもらったが……1シルバ65カッパとさせてもらう。締めて46.2シルバでどうだ?」
「ありがとうございます」
「──欲の無ぇ奴だな。1.8とか言ってくるかと思ってたぜ。1.7で折れてもらうつもりでいたけどな」
拍子抜けした様子のギルドマスターに、己は苦笑を返しておいた。金はあるに越したことはないが、目下必要な路銀には十分な額だったため文句はない。
「ま、数カッパの端金に困っちゃいねぇわいな。デケェ金の話をしようや」
ダハハと笑って言う。
「ウィンドバリオスの分け前についてだ」
「ウィンドバリオス?」
「イェゴールさんが討伐した魔獣ですよ!」
ガオー……というよりはワンワンといった具合の少女の物真似は可愛らしい。
「嗚呼……」
ウィンドバリオスと言うのか、あの狼は。
「討伐報酬2ゴルド40シルバ」
「おぉ……!」
目も眩む大金だ。が、ふと冷静になる。ちょっとした国家予算規模に一瞬感じられたが、物価が恐ろしいのだった。否、其れでも大金であることに違いはない。
「──の、ところ……三分の一がイェゴール、アンタの取り分だ。残りを六人で等分。異存はあるか? 言っても良いんだぜ? 聞く限りじゃ、殆どお前が倒したみたいなもんらしいからな」
「いいえ。横槍をしておいて、お咎めがないだけでも己には十分。報酬の分け前まで頂けようとは……」
「ハッハッハ! お咎めだぁ? ンなもん有るかよ。モタモタやってる奴から死んでいくのさ」
恰幅の良い人間は情に厚いかと勝手な偏見を抱いていたが、ギルドマスターは存外にドライだった。
「ほれ、報酬はカウンターで受け取ってこい。帰るぞセイナ」
「はい! 失礼します、イェゴール様」
一礼して去っていく少女に会釈を返し、己も立ち上がりカウンターへと向かった。
◇◆◇◆
「ふむ……」
報酬を受け取った己は、宿の居室で所持金を計算した。
合計154シルバ76カッパ。100シルバを1ゴルドに両替して、金貨という物を人生で初めて所持してみたい気持ちと、硬貨が溢れて敵わないという贅沢な悩みと、使い勝手が悪くなるから替えたくない気持ち──心が三つある。
其れはさて置き、予定よりも早く且つ予定以上の資金を手に入れた。一か月程イニシラでのんびりと休んで過ごしてから、馬を買うなり馬車に乗るなりと徒歩以外でレガーティアへ向かう事だって出来る大金だ。とは言え、もう此の町に用は無いのもまた事実。
折角の宿代が勿体無い故、残り四日は旅支度のための休息期間としよう。
「しかし……」
休息の仕方が分からなかった。部隊で訓練していた頃は仲間と連れ立ってよく飲みに行ったものだが、今は一人。だが、ふと思い出す。ちょっとした目標を達成した時は酒宴をした。ジンクスのようなものだ──小さな幸せを噛み締めることで次へと繋げる。自分への褒美を用意しろと言われた事を。
(ノスト・シュルフトより高い酒があるか聞いてみるか……)
そう思い立ち、ひとまずは銀貨一枚と銅貨をあるだけ持って宿を出た。
アチバセは常の如く──否、いつにも増して繁盛をしていた。
「いらっしゃい! 一人かい?」
「はい」
「あぁ~……カウンターならイケるけど、どうする?」
「構いません」
通されるまま、席に着く。店の端、二人掛けの小さなカウンター──相席に近い空気感。先客は女性だった。男女横並びで、というのは恋人でもなければやや気まずい。
「カッ……!」
「か?」
隣席へ着いた己を見るや、女性は咽た。
「ぇ、あ! その、違くて……えっと、すぐ片付けます!」
「いえ。お構いなく」
「そ、そうですか? すみません。お店でこんな物広げて……。ではお言葉に甘えて。もう少しで解けそうなので。解けたら片しますんで」
彼女が広げていたのは軍戯だった。歩兵や騎兵等の駒を動かして王を取り合う世界一有名な盤上遊戯。合衆国の発祥だったか──。しかし、此れは二人用。不思議に思った己は不躾とは思いながらも勝手に盤面を覗けば、駒数が少ない。成程、詰め軍戯かと独り合点する。
「注文は?」
「良いウィスキーはありますか? ノスト・フルシュト以外で」
「あぁ~……そうねぇ。味の良し悪しは私は飲まないから分からないけど、高いだけならボアフェイスが高いよ」
「では、それをストレートで。後、燻製チーズを」
「はいよ」
「んん~……」
注文をして直ぐに運ばれてきた。隣客の盤で机の大部分が埋まっていたが、何とか皿とグラスを置くスペースはあった。
「うぅ~ん……」
うんうんと唸りながら駒を動かしては戻して、動かしては戻して、ああでもないこうでもないと試していた。
「攻め気が足りないのでは……?」
余計なお世話かとは思いながらも、正解が思い付いていたために口出しをしてしまった。
「ぇ?」
「借りても?」
「お願いします」
「馬を此処にやる。其れを王は取らざるを得ない。其処へ馬を重ねる。すると王が逃げる。龍で追えば……チェック」
「うわぁ~……! それかぁ~! 言われたら簡単な事なのにー! 悔しぃ~い!」
「す、済まぬ……」
「いえいえ! あ、お待たせしました。お邪魔でしたよね。片付けます」
申し訳なさそうに駒を袋へ収め始める彼女を見て、店主が「助かるよ」と言いたげな視線を此方に向けているのが分かった。やはり混雑した酒場で盤を広げるのは少々行儀が悪い。
「……あのあの! 良かったら、一局だけお付き合い頂けませんか! お酒代をお支払いしますから!」
片付けかけた手を止め、彼女は食い入るように己を見つめてきた。端正な表情、水色の瞳が爛爛と輝いている。人懐こく距離を詰められての贔屓目は多少あるだろうが、素直に美人だと感じた。
(静かに飲むつもりだったが……)
ちびりとボアフェイスを一口舐めてから考える。断ろうかとも思ったが、二人席を二人で使うのだから何を憚る事があろうかと思い直す。
「では、一局」
「はいっ!」
嬉々として駒を並べ直す彼女。
数分後──。
「おやおやおや~? お兄さんこそ攻め気が足りなかったんじゃあないですか~?」
彼女はとても楽しそうに悪い笑みを浮かべていた。
「此方へ逃げれば騎士に取られ、此方へ逃げれば……馬が来る。駄目か」
「クフフフフ! 掌の上でしたねぇ~お兄さん」
序盤は手堅く打っていたつもりが、気が付けば劣勢となり、果ては詰みに陥っていた。
「参りました」
「クフフ、お兄さんも結構強かったですよ?」
「其れはどうも」
御世辞は良い。完敗だ。
「またやりましょう」
「機会があれば」
そう残して席を立とうとした時だった。
「もう一局! もう一局!」
袖を掴まれる。
「何故。己では貴女に勝てそうもない。実力差があっては楽しくないでしょう」
「じゃあじゃあ! 感想戦しましょうよぉ感想戦~」
「覚えてないですよ」
「私が覚えてるから~!」
「は──?」
まさか数十手を全て覚えているというのか? はったりだろう。
「では己が二手目に差したのは?」
「C3に馬!」
合っている。流石に此れは自分でも覚えていた。
「己の二十手目は?」
「三十四手で終わったので十七手しか指してない!」
ズビリと指を立てて彼女は言う。事実なのだろうが、適当な事を言ったばかりに恥をかく羽目になった。
「貴女の記憶力が優れている事は分かりました。ですが、此処は酒場だ。遊技場ではありません」
「じゃあじゃあじゃあ、私の宿来ませんか?」
「は──?」
言っている意味が分かっているのか?
「其れは……良くない事に思うが?」
若干しどろもどろになりつつも問うた。
「えぇ~? お兄さん優しいから大丈夫でしょ?」
優しい、か……。褒め言葉と受け取るべきなのだろうが、男のプライドが僅かに傷付いた気がした。
男は皆魔狼である事を彼女に教えてやるべきか? 否、そんな事は出来ない。
「では、此処ではない自由に使える場所に移動しよう」
◇◆◇◆
「本当に出してくれるとは」
「言い出したのは私ですから」
酒代どころか、彼女は肴の分まで支払ってくれた。
「勝ったのは貴女だ。己が払って然る──」
「あ、申し遅れました。私、ミリアルテ・ザイドリッツって言います。ミリィって呼ばれてます」
此れ以上支払いについての話をしたくないのだろう。彼女は言葉を遮って話題を逸らした。
「己はイェゴール・マシラウ。ありがたくご馳走になります。ミリアルテさん」
「やめてください。見たところイェゴールさんが年上でしょ? 私十七です」
「十九です……だ。が、酒代の礼があり……」
「私が言い出したんだもん。気にしないで。遊んでくれたお礼。これからは遊戯仲間としてフラットにいこう? 友達。ミリィって呼んで?」
「ミリィ。トモダチ……」
「何でカタコトなの~? イェゴール変なの~!」
クハハハと己を笑う彼女の眼には己への畏怖の色が無かった。只の間抜けな変わり者を見るような目が何とはなしに嬉しかった。
「あれ? こっち、私の宿だけど……言ったっけ?」
「知らん。聞いていないぞ」
ミリィを連れて向かったのはギルド。
「此処なら作戦会議をしているフリで軍戯が出来る……と思うぞ」
ギルドの広間。席が埋まっているところを見たことがなかった。
「私の宿、ココなんですけど……」
「奇遇だな。己もだ」
「あ、じゃあ冒険者さんだ!」
「駆け出しだがな」
「ふぅ~ん」
「此処を借りているという事は君もそうか?」
「ううん。学生」
「学生?」
予想外の返答であった。
「そ。レガーティアにある帝国大学の学生。だから公的機関であるギルドにお世話になれるってワケ」
「ほぉ、帝都……!」
今まさに己が目指す土地の名前に心が躍った。
「帝都の学生がまた何故こんな辺鄙な場所へ?」
来て数日だが、ホームと言っても良いだろう此処を多少悪く言ったとて罰も当たるまい。
「フィールドワークだよ、フィールドワーク。まぁ、用事があったのは帝国最北端──隣町のオサマキ。研究資料集めに。……って言っても調査は終えて、帰路」
「成程」
「オマサキは行ったことある? この町の比じゃないくらい何も無いの。笑えないレベル。ギルドも無いから、ここまでひとまず馬車を出してもらってって感じ。それより早速やりましょ! 感想戦からで良いよね?」
「嗚呼。手解きをよろしくお頼み申し上げる」
「クフフ! イェゴール、お爺様みたいな言葉遣い」
其れから数時間、ギルドのフリースペースで盤上遊戯に打ち込んだ。途中、ラルバードさんが様子を見に来たが、特にお咎めもなかった。
宿の利用客でもあるのだ。多少大きな顔はさせてほしい。
そして、其の数時間の間に他の卓が埋まることも無かった。
「流石に疲れたな……」
「そう? まだまだ遊びたいくらい」
時刻は十八時を回っていた。
「またさっきのお店行く? 雪鹿の煮込みが美味しいらしいから、気になってたの!」
「否、己は遠慮しておく。食べなければならない買い置きがある」
あの煮込みは味が薄くて好みではなかった。
「えぇ~? ソレ、日持ちしないの?」
「するが……」
馬鹿正直に答えてしまったせいで、退路を断ってしまった。指し誤ったと後悔する。
「じゃあ行こ? 決定~!」
「あ、嗚呼……」
押し切られてしまった。
「じゃ、荷物置いて支度してくるね。五分後にここで」
「……分かった」
(何を準備する物があるか……無いな)
強いて言えば、昼は普段肌身離さず持っている得物を置いて行った事を思い出した。休息をしようと意識をした結果丸腰で居てみはしたが、却って左腰に相棒の無いことで落ち着かない数時間だった。
盤上遊戯に集中している間は、其れも忘れられたのだが。戦士としてどうなのだろう? という自問をするのだった。
そして結局、試製型・89式魔導軍刀【コンスタラシオン】を部屋へと取りに帰ってしまった。何に使う予定も無いのに。腰にあるだけで少し落ち着く。
◇◆◇◆
ギルド直営宿はミリアルテの借りる一室。
「カッッコイイじゃないのよー!!!!」
バフッと枕へ顔を埋めて彼女は叫ぶのだった。
「スラリと高い背にガッシリとした肩、私なんて簡単に縊り殺せそうな無骨な手指! それでいて憂いを帯びた切れ長タレ目が可愛い! 瞳の色と同じ青鉄色の髪! ゾティークじゃ珍しいけど、どこの出身なんだろー!?」
寝転んだまま足をバタバタさせながら、彼の容姿を思い返す。理想の男性像と言えた。
「あのちょっと困った顔が堪らない! 踏み込み過ぎたかなぁ? 品の無い子だと思われたかな? でもでも脈はあるよね! 友達にはなれたもんね!」
彼女自身の一手によって友達へと、人間関係構築の第一歩を進めた。
「カッコイイ上に軍戯まで出来るなんて最高! どうしようどうしよう~!? お父様、お母様、運命の人見つけちゃったかもしれないよ~!!!」
ぐりぐりと頭をベッドに擦り付け、ひとしきりジタバタとしてから、跳ね起きた。
「待たせてたら悪いもんね!」
ミリアルテは鏡の前へと飛び付き、乱れた髪を手早く整える。頬を両手で軽く叩いて赤い顔を冷ますと、満足そうに一つ頷いて部屋のドアを開けた。
◇◆◇◆
一階のフリースペース──壁に背を預け待っていた己の視界に、階段を駆け下りてくる彼女の姿が映った。
「お待たせ! 遅くなっちゃってごめんね!」
「否。時間通りだ」
「え……? それ──!」
彼女の視線が己の左腰に釘付けになっている事に気が付いた。
「それッ! 刀ァッ!!」
大きな声を上げるミリィ嬢。
「嗚呼」
「どこで手に入れたのッ!? それ! 戦時の魔導軍刀だよね!? 骨董品のはずなのに、手入れが行き届いててスゴく状態が良い! 高かったでしょ? 拵えもカッコイイ~……この装飾が無くて無骨な感じが素敵なんだよ〜」
「お、おぉ……」
食い入る様に、帯びた刀に注目する彼女に気圧されてしまった。
が、一つ気になる点があった。”骨董品”という言葉だ。
「骨董……? 最新式だぞ」
「え? クハハハハハ! 面白い事言うのね、イェゴールは。確かにこんなの後にも先にも八十年前に造られたキリだから最新と言えば最新だけど」
「八十年前? ──どういう事だ?」
彼女の言っている意味が分からなかった。
「どういう事って……?」
ミリィは只々困惑の表情を浮かべていた。稚児でも分かる当たり前の事を聞かれたかのような。
「だってこれ、八十年前の塵界魔京戦役の時に作られた魔剣でしょ?」
塵界魔京戦役、聞き覚えがある……そうか。アレクらが口にしていた其れだ。
「塵界魔京戦役とは何だ? 八十年前とはどういうことだ?」
思わず彼女の肩をひしと掴み、問い質していた。
──嘘だ。
──思い過ごしで合って欲しい。
──有り得ないだろう。
頭に薄っすらと浮かぶのは、そんな筈がないという拒絶。しかし、此れまでの数日感じてきた違和感と、文脈から推察される答えは一つ。
「今は……何年だ?」
そして恐る恐る、こんな事を生涯で口にするとは思ってもみなかった質問を投げかけた。
「え……新星暦80年」
彼女は困った顔で告げた。
「新……星暦?」
己の知らない暦であった。
(此処は……何処だ……?)




