第一章 今までどおり 三
三
昼休み、いつもの四人で机を寄せた。
私と葉子、それから入学以来よく一緒にいる美咲と真帆。弁当を食べながら、次のクラス分けの話になった。
「桜と葉子は、どうせまた一緒でしょ」
真帆が言った。
「何で決まってるの」
「二人セットだから」
「学校にそんな枠ないよ」
葉子は笑いながら、自分の弁当箱を開けた。
中には唐揚げが入っている。
私が見ていると、葉子は何も言わずに一つ取って、私の弁当へ入れた。代わりに私は、甘い卵焼きを葉子へ渡す。
中学のころから続いている交換だった。
真帆が呆れたように私たちを見る。
「そういうところ。もう本人たちより、お母さんたちが交換前提で作ってない?」
「それはありそう」
葉子が卵焼きを口へ入れた。
「うちのお母さん、この前、桜ちゃんは唐揚げ二個でいいよねって言ってたから」
「私、一個しかもらってないけど」
「手数料」
「横領じゃん」
美咲が笑う。
教室のなかは、いつもどおりだった。
周りも、私と葉子をいつもどおりに見ている。
誰も、葉子が私を好きだとは知らない。
今までなら何とも思わなかった軽口が、今日は少しだけ胸に残った。
二人セット。
私たちは、周囲からそう見えるくらい一緒にいた。
それでも恋人ではない。
今はまだ。
そこまで考え、私は弁当の蓋を閉じた。
「桜、もういいの?」
葉子が聞いた。
「うん。朝、食べすぎた」
「珍しいね」
実際には、急に食欲がなくなっただけだった。
葉子は私の弁当に残ったブロッコリーを見つけた。
「それもらっていい?」
「ブロッコリー好きだったっけ」
「残すなら食べる」
「残してない」
「じゃあ早く食べて」
今までどおりの葉子だった。
告白したことで何かを求めてくるわけでもない。視線を合わせ続けたり、特別に優しくしたりもしない。
私はそれを望んだはずだった。
なのに、葉子があまりに自然なので、昨日のことが私の思い違いだったように感じられる。
確かめたくなる。
本当に私を好きなのか。
今もそう思っているのか。
そんなことを聞いて、何をするつもりなのだろう。
答えられないくせに、葉子の気持ちだけを確認するのはずるい。
「桜、本当に変だよ」
美咲が言った。
「さっきから葉子のこと見すぎ」
心臓が跳ねた。
葉子が箸を止める。
「見てない」
「見てたよ。葉子の顔に何かついてる?」
美咲が面白がるように覗き込んだ。
葉子は自分の頬へ触れた。
「ついてる?」
「ついてない」
私は少し強い口調で答えてしまった。
真帆と美咲が顔を見合わせる。
葉子だけが、何も言わずに弁当へ目を戻した。
午後の予鈴が鳴り、机を元へ戻す。葉子は空になった弁当箱を包みながら、私を見なかった。
たぶん、私が気にしすぎている。
周囲に気づかれるほど葉子を見ていたことより、葉子がその言葉をどう受け取ったのかが気になった。
昨日まで、こんなふうに一つ一つ考えることはなかった。
告白されたのは一度だけなのに、その一度が、二年間の記憶すべてへ別の意味を与え始めていた。




