第一章 今までどおり 二
二
私と葉子は、高校へ入学してから二年間、同じクラスだった。
一年生のときは偶然だと思った。二年生でも同じ名簿に名前を見つけたときには、二人で笑った。中学からこの高校へ進んだのは私たちだけだったので、先生が気を遣ったのではないかと葉子は言った。
本当のところは知らない。
ただ、知らない人ばかりの教室で、葉子の姿を見つけると安心した。
二年生の教室では、私の席が廊下側の後ろから二番目。葉子は窓際の前から三番目だった。離れていても、顔を上げればすぐに見える。
朝のホームルームが始まる前、葉子は自分の席へ鞄を置き、こちらへ来た。
「英語の課題、今日だっけ」
「昨日だよ」
「嘘」
「嘘。今日」
葉子は安心したように息を吐く。
私は机の中からプリントを出して渡した。葉子は自分のものと見比べ、最後の問題だけ空欄なのを確認する。
「桜、ここ分かった?」
「分かったけど、答えは教えない」
「聞いてない。考え方だけ」
「それを聞いたら答えも分かるでしょ」
「友達が困ってるのに」
昨日までなら、そこでプリントを引き寄せて説明していたと思う。
でも、友達という言葉に反応してしまった。
葉子は私のことを友達として好きだと言うたび、嘘をついている気がしたと言った。
今、どんな気持ちでその言葉を使ったのだろう。
「桜?」
呼ばれて我に返る。
「何でもない。ここは先に時制を見ればいいよ」
問題文を指しながら説明する。葉子は私の机へ手をつき、少し身をかがめた。
髪から、いつも使っている石鹸の匂いがした。
近い。
そう思った途端、説明していた単語が頭から抜けた。
「それで?」
「……あとは自分で考えて」
「急に投げた」
葉子は不満そうだったが、すぐに自分の席へ戻っていった。
その背中を見送りながら、私は机の下で手を握る。
昨日までも同じ距離だった。葉子が私の机へ寄りかかり、ノートを覗き込むことなど何度もある。
私が意識していなかっただけだ。
朝のホームルームが始まり、担任が終業式までの日程を説明した。
教科書の持ち帰り。ロッカーの整理。春休みの課題。三年生のクラス発表は始業式の朝に行われるという。
「次のクラス、誰と一緒になるかな」
前の席から振り返った友人が言った。
教室のあちこちで同じ話が始まる。
二年間同じだった友人と別れることを惜しむ声。担任が誰になるかを予想する声。受験科目によってある程度分かれるらしいという話。
私は窓際の葉子を見た。
葉子もこちらを見ていた。
目が合うと、少しだけ笑う。
二年間同じだったのだから、三年生も同じになるような気がしていた。
そうでなければ困る、とまでは思わない。ただ、葉子のいない教室を想像できなかった。
昨日の告白がなければ、そんなことも深く考えなかったのかもしれない。




