↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好きと言うには近すぎた  作者: 桔梗鹿々
第五章 葉子の目に映る私
PR
24/36

第五章 葉子の目に映る私 三

 練習後、葉子はグラウンドの水道近くで待っていた。

 私は髪をほどき、首へタオルを掛けたまま近づく。

「どうだった?」

 聞くと、葉子はスケッチブックを胸へ抱えた。

「まだ見せない」

「私を描いたのに?」

「途中だから」

「変な顔だった?」

「桜が思ってるよりは」

「それ、どっち」

 葉子は答えず、私の額へ手を伸ばした。

 指先が前髪へ触れる。

 反射的に身体が止まった。

 葉子もすぐに手を引く。

「ごめん。土がついてた」

「取ってくれたんでしょ」

「うん」

「じゃあ謝らなくていい」

 私は額へ触れた。

 そこに土が残っているかどうかは分からない。葉子の指の感触だけが残っている。

「葉子」

「なに?」

「今まで、こういうとき謝ってなかったよね」

 葉子は少し考えた。

「そうかも」

「告白してから、私に触るたび謝ってる」

「だって、桜が嫌かもしれないから」

「嫌じゃないって言った」

「触られるのが嫌じゃないのと、好きな相手に触られるのが嫌じゃないのは、違うかもしれないでしょ」

 その違いを、私は考えたことがなかった。

 友達の葉子に触れられることは平気だ。

 私を好きな葉子に触れられることは。

 答えを探すように、葉子の手を見る。鉛筆を握っていた指の横が黒く汚れている。

 私はその手首をつかんだ。

 葉子が目を見開く。

「嫌じゃないよ」

 確かめるように言った。

「今のところ」

「今のところって」

「この先、変わるかもしれないから。絶対とは言えない」

「桜らしい」

 葉子は困ったように笑った。

 私は手を離す。

 指が離れたあと、葉子はつかまれていたところへ反対の手を重ねた。

「桜は、私に触りたいと思う?」

 不意に聞かれた。

 私は答えに詰まる。

 さっきは、葉子が謝ることをやめさせたくて手をつかんだ。触れたいと思ってしたことなのかは分からない。

「今のも、嫌じゃないって証明するため?」

「たぶん」

「そっか」

 葉子はそれ以上聞かなかった。

 少しだけ寂しそうに見えたのは、私がそう思っただけかもしれない。

 グラウンドの片づけを終えた部員たちが、校舎へ戻っていく。

「着替えてくる。待ってて」

「うん」

 葉子はベンチへ戻った。

 私は部室へ向かいながら、自分の手を見た。

 葉子の手首は細かった。

 その感触を思い出しただけで、また胸が落ち着かなくなる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。