第四章 私の知らない時間 二
二
四月最後の火曜日、昼休みの踊り場に葉子は来なかった。
予鈴が鳴る少し前まで待ち、携帯電話を確認すると、十分ほど前に連絡が届いていた。
――ごめん。進路委員の集まり長引いてる。今日は教室で食べて。
授業が終わってすぐに送られたらしい。
私は教室へ戻った。
真帆と真琴はすでに弁当を広げている。空いていた机を借り、その輪へ入った。
「今日は葉子休み?」
真琴が聞いた。
「委員会」
「葉子ちゃん、進路委員なんだ」
「小夜に頼まれたって」
名前を口にしたとき、少しだけ声が硬くなった。
誰も気づかなかったらしい。真帆は自分の弁当からミニトマトを避けながら、別の話を始めた。
私は弁当箱を開く。
唐揚げが二つ入っている。
片方は葉子へ渡す分だった。
委員会が終わるころには、昼休みもほとんど残っていない。わざわざF組まで持っていくほどのことではなかった。
一つを先に食べ、もう一つは最後まで残した。
「食べないの?」
真帆が聞く。
「あとで食べる」
蓋を閉める。
午後の授業が始まっても、弁当箱のなかに唐揚げが残っていることが気になった。
放課後、部活へ行く前にF組へ寄った。
葉子の姿は教室になかった。
美咲に尋ねると、進路資料を先生へ届けに行ったという。
机の横に掛けられた鞄へ、弁当箱を入れるわけにはいかない。私は小さな紙ナプキンに唐揚げを包み、葉子の机の中へ置いた。
少し考えてから、メモを書く。
――昼の分。
名前は書かなかった。
葉子なら分かる。
グラウンドへ向かう途中で、自分が何をしているのだろうと思った。
唐揚げ一つを、授業が終わるまで机の中へ置いておく。衛生的にもよくないし、葉子がお腹を空かせているとも限らない。
それでも、持ち帰ることができなかった。
昼休みに会えなかったことを、そのまま終わらせたくなかった。
練習後、携帯電話を見ると葉子から写真が届いていた。
紙ナプキンの上に置かれた、少し形の崩れた唐揚げ。
――冷たかったけどおいしかった。ありがとう。
その下に続けて、もう一通。
――明日は絶対行く。
私は画面を見ながら笑った。
明日は絶対行く。
大げさな約束だった。
だからこそ嬉しかった。




